善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃23

PC用テンプレを最終回仕様にしてみました。
ちょうど連載でシリアスなところを書いていることもあって、こう言う優しい空間でトンマンとピダムがもう一度出会えたらいいな!と言う管理人の願望(妄想とも言う)ですー。


* *


 息をする音すら煩わしいほどの静寂が二人を凍てつかせている。聞こえてくるのは、落ち着いた声音とは正反対に、どんどんと激しさを増していくピダムの心音だけ。
 けれども、やがてその音を包み込むような穏やかなトンマンの心音が沈黙を包み込み、溶かしていき……それに促されるように、ピダムは自らの胸に置かれた白い繊手に鼓動を委ねた。これまでとは違うのだと――もう、胸の奥で彼を掻き乱す鼓動に悩まされることはないのだと言うように、何も語らずともトンマンは彼にその魂で伝えていた。

「師匠は……比才の時も、例え私が全力で戦おうとも、ユシンを打ち負かせたとは思わないと言いました。私はいつも、師匠から誉められることばかりを望んだから。師匠に認められたい……そればかりで、他の者のことなど少しも考えない。そんな人間に、『三韓地勢』を持つ資格はないと言われて、私は激昂しました。師匠の書いた物をもらい受けるのに資格が要るなら、その資格が何なのか、まずそれを教えて欲しかった。人を殺すのはいけないことだと、殺し方を教える前に……言って欲しかった」

 師の変心を憎く思うのと同じだけ、時を戻したいと希っていた。あの日に戻れたら、もう同じ過ちは犯さないのにと、埒もない願望に囚われ続けていた。そして、その夢想がピダムをがんじがらめにしていたのだ。

「……『三韓地勢』は私の物だと……他の誰にも渡しはしないと……そう告げた私に、師匠は、言ったんです。お前は柄のない剣だと。そして、師匠は……折られたくないなら、そこを退けと。でも、私は退かなかった。あの本がユシンに渡るところを見るくらいなら、死んだ方がマシだと思いました。私も……師匠も、折れてしまえばいいと思った。全てを……断ち切りたかった」

 後のことなど考えもしなかった。身体を、心を縛り、炙り続ける憎しみが……胸を八つ裂きにする苦痛が終わるなら――それだけだった。

「剣を抜いて……最後の挨拶をして…………闘いました。生まれて初めて、命を懸けて闘いました」

 それは、駆け引きなどない……いや、勝つ為ですらない闘いだった。

「師匠は……強かった。強かったけど……不思議なことに、まるで自分と剣を交えているみたいでした。憎い。殺してやりたい。そう思って剣を向けたのに、心の中で気持ちよさもあったんです。なんだか、師匠に本気で稽古をつけてもらっているみたいで……幼い頃に戻ったみたいで……嬉しかった」

 殺し合いのはずなのに、血は見たくなかった。いつまでも、打ち合っていたかった。――けれど。

「師匠も私も、お互いに夢中で、他の奴が傍にいることに気付かずにいました。そいつが……吹き矢で師匠を射るまで、何も気付かなくて……師匠は倒れました。致死毒だった」

 その時、ピダムの息遣いが変わったのを察して、トンマンはゆっくりとピダムの胸を叩いた。小さな子供をあやすように、ゆっくりと。

「師匠を抱えて走りました。解毒するには、街へ下りなければならないから、懸命に走りました。でも、花畑で足を取られて、転んでしまって……もう一度師匠を抱えて走ろうとした私を、師匠が引き留めました。何故……本を持って去らなかったのだと。何故だと……虫の息なのに、聞くんです」
「……」
「師匠は……強く私を掴んで、言いました。「私は至らぬ師だった。お前をより良い姿へと導いてやらねばならぬ身でありながら、お前を怖れ思い煩うあまり、お前を押さえつけ、そうすることで従わせてきた。私が間違っていることに気付かなかった」……」
「ピダム……」
「師匠の手が私の頬に触れて……師匠は……すまなかった、と……最後の最後に、私の本当の心が見えたけれど……もう、何もかも遅すぎた、と……「ありがとう」と……私に微笑みかけてくれました」

 死相が出ているにも関わらず、ムンノの息は熱かった。頬を撫でる硬い掌も、熱かった。……その熱さを、硬さを、ピダムは忘れていた。忘れて、わからなくなっていた。本当に欲しかったのは、本ではなく……たった一人の『親』からの愛情なのだと言うことを、忘れかけていた。
 ムンノとは違う、トンマンの柔らかく暖かい掌に誘われて、ピダムは彼女の肩に顔を埋めた。ムンノとは違う、細い身体をきつく抱きしめた。

「……ムンノ公は……お前を、心の底から……愛していたんだな」

 ただ自身に縋りつくピダムの髪を、背を撫でながら、トンマンはこの上なく優しい心地になって囁いた。

「ムンノ公はきっと、お前を力一杯抱きしめてやりたかったはずだ。抱きしめて……こうして、お前を撫でてやりたかっただろう。ピダム、お前は……甘えん坊で、寂しがり屋だから」
「――」

 ピダムは何も答えなかった。いや、答えられなかった。込み上げる様々な感情に双眸を歪めていた彼は、小さく息を吐いて、瞼を閉じた。その瞬間にようやく流れた涙と共に、重く彼にのし掛かっていた凝りが剥がれ落ちていくのを感じながら。
 そうして、その涙の雫が消えた頃。ピダムは掠れた声で呟いた。

「師匠は最期に……私に、花郎になれと仰いました。花郎になり、公主様を助けろと。私を正式な後継者と認める、としたためた書状をくれて……誰がなんと言おうと、お前は私の弟子だと……その言葉が、師匠の最期の言葉でした」
「……うん」
「泣いても泣いても師匠は目覚めなくて……朝日を浴びた師匠の顔が、死人のそれになっていた時……私は太白山へ向かっていました」
「太白山……」

 天よりファヌンが降り立ち、朝鮮の礎となった霊峰。そこは神国だけでなく、三韓全ての源であり、故郷であり、三韓を抱く母なる山でもあった。

「国仙と謳われた師匠に相応しい場所は、そこしか思いつきませんでした。だから……師匠の墓を、そこに作りました」

 ファヌンが降臨した神檀樹の伝説を思い出し、立派な木のすぐ隣に墓穴を掘り、何日も何日も、墓を飾るに相応しい石を清流で探した。

「どれだけ時が経ったのか、わかりませんでした。眠ったのか、食べたのか……何もわからないまま時が過ぎて……でも、墓は出来上がっていました。……徐羅伐に戻る時だと、思いました」
「それで……花郎になったのか?」
「はい。師匠の使っていた寺に戻って、書状を見せたら……寺の者が、花郎の装束をくれたんです。師匠が、もう何年も前から私の為に用意していたのだと……」

 ――花郎たるに相応しい男に育つよう、祈りをこめて。
 まだピダムが子供の頃に作った花郎の革の鎧。もう長い間しまってあったそれを、つい最近国仙は取り出し、ピダムの体格に合うよう手直しをして、彼によく似合う黒い装束を作らせたのだと言う。
 ピダムを連れて徐羅伐を去った方がいいと考える一方で、ムンノもまた、悩んでいたのだ。初めてピダムが見つけた主――もう二度と見つからないかもしれない主に、仕えさせてやるべきではないか。その苦悩が伝わってくるようだった。そして、それはピダムに強い憎悪を植えつけた。

「公主様にも花郎になることを認めて頂いた後、私は賭場に向かいました。そこは……師匠と『三韓地勢』について話をしていた男の賭場でした。あの時、師匠を狙った毒針……あの毒針で師匠を殺した男は、『三韓地勢』を持ち去っていた。そいつの目的は『三韓地勢』だった。それなら、思い当たるのは賭場の主であるあの男……ヨムジョンだけでした」
「ヨムジョンは……確か、国仙の仕事を手伝っていたと……」
「そうです。あいつは、師匠が『三韓地勢』を執筆する手助けをしていました。……賭場にいたあいつの護衛を皆殺して、私はあいつに問いました。『三韓地勢』はどこだと。そうしたら……『三韓地勢』は、思いもよらない奴のところにあった」
「……誰のところにあったんだ?」

 そこでふと表情を消したピダムは、一拍置いてから答えを告げた。

「そいつは、『三韓地勢』を玩具にして遊んでいました。私が血を吐く思いで欲しがったあの本を、破いて丸めてお手玉にしていた。……腹が立ちましたよ。腹が立って……そいつを布団にくるんで、鼻血が出るまで殴りました」
「ピダム、まさか……」

 アルチョンから聞いたことがあった。「昔、公子様は書物を破って遊ぶので、手を焼きました」と。だが、まさか。

「チュンチュ……だったのか?」

 ――チュンチュが国仙を?
 トンマンの懸念を払拭する為に、ピダムはすぐに首を横に振った。

「違います。殺したのは、あくまでヨムジョンです。ただ、奴は……『三韓地勢』の持ち主に相応しいのは、ユシンではなくチュンチュだと言いました。それで……チュンチュに本を元通りにさせた後、奴も殺そうとした私に、命乞いをしたんです」
「……なんて言ったんだ?」
「……そもそも、『三韓地勢』はムンノ一人のものじゃない……奴はそう言いました。『三韓地勢』の執筆に必要な費用も情報も、全てヨムジョンが用意した。そもそも、『三韓地勢』を書くこと自体、ヨムジョンが持ちかけた話だった。なのに、国仙はそれをユシンに譲ると勝手に決めた。許せると思うか、と……」
「……それから?」
「生かしてくれたら、ヨムジョンが持つ情報網を私に提供すると……役に立つ、と……」
「…………それから……?」
「それから……国仙を殺したのは、私でもあると……」

 ――痛いところを突く。
 ピダムの声が強い自責と悲しみで小さくなっていく中、トンマンはようやく合点していた。
 ピダムが乱を起こした時、いくらピダムとの仲がまだ始まったばかりだったとは言え、何故彼があっさりと彼女に反旗を翻したのか、トンマンにはそれがどうしても理解出来なかった。貴族達の行動も、常に保身を考える彼らにしては有り得ないほどに過激で、俊敏で、それがトンマンの計算を狂わせていた。
 けれど、ようやくわかった。

「……やると決めたら、素早く、捨て身で」
「え……?」
「いや、やっとわかったんだ。そうか、ヨムジョン……確かに商人のやり方だ、あれは」
「トンマン……?」
「実は、ずっと引っ掛かってたんだ。貴族達がお前を王にしようとした時……唐の使臣を使ったり、吉兆を作り出したり……そう言うことは彼らの手口だとすぐにわかったんだが、私とお前の密約がすぐに露見したり、烏羽扇や船大工を利用したり……何より、貴族達の行動は纏まっていた。ソルォン公もいないのに、誰が貴族達を纏めているのか、思い当たる者がいなかったんだ。ミセン公は璽主とは違うし……一体誰がお前の心を揺さぶったのか、ずっと、気になっていた」
「トンマン……」
「そうか……ヨムジョンか。ヨムジョンだったのか……」

 ピダムの秘書官と言う役割を与えられていたヨムジョン。彼が具体的に何をしていたのか、何を目論んでいたのか、何を考えていたのか。……ミシル一派や貴族達の影で確かに彼らを煽動していた存在を、終ぞ認識出来なかったのだ。そうだとわかっていれば、もっと打つ手もあっただろうに。

「だが、待ってくれ。ヨムジョンはチュンチュを擁立しようとしていたはずなのに……お前を王にしようと?」
「はい。チュンチュから『三韓地勢』を取り返した後、私はヨムジョンを部下にしました。奴が罪を忘れぬよう、奴の不愉快な顔に傷をつけて……生かしました。そして、陛下がミシルを打ち負かし、私がミシルの残党を従えて司量部令になると……チュンチュとは切れたようです。奴はミセンとも商売をしていましたし……ミシルが乱を起こした日も、情けないことに、私はミシルに脅されたヨムジョンに薬を盛られて縛り上げられていました」
「そこからヨムジョンを説得して、私を助けに来てくれたのか?」
「……はい」

 顔を上げてトンマンの隣に横になると、ピダムは今度は自分からトンマンを抱き寄せた。彼の告白は彼の醜い性を、血塗られた心を露にしたのに、動じることなく全てを受け止めた彼女が、無性に愛おしい。

「ピダム、お前と……璽主、国仙、チュンチュ、ヨムジョン……皆、思いもよらぬところで繋がっていたんだな」
「――いえ」

 滑らかに感傷を断ち切ると、ピダムは彼女の細い顎に指をかけた。

「私とあなたこそ……思いもよらぬところで繋がっていたと……そう思わない?」
「うん…………。あ」
「えっ?」

 あと少しで唇が触れると言うその刹那にパッと瞳を丸くしたトンマンは素早く身体を起こした。訳がわからないながらも、ピダムも一緒に起き上がった。

「へ、陛下?」
「ピダム。昼間、宮医は私の身体のことをなんと言っていた?」
「宮医ですか? 宮医は……陛下のお身体は順調に回復されていると言っていました。一月近く発作もありませんし……」
「つまり、私は健康だと言うことだな」
「いえ、まだ療養が必要です」
「霊験あらたかなところで療養するのもいいな」
「霊験は体調には関係ない気がします。それより、いきなり興奮なさる方がお身体には毒で……」
「よし、決めた」

 すれ違ったままの会話を勝手に終わらせると、トンマンはにっこり笑ってピダムの手を取った。

「ピダム、太白山へ行こう。ご挨拶をしに行くんだ。国仙に!」





……告白部分、勢いで書きましたが、後で手直しをするかもしれません(汗)
更新を応援して下さった皆様、ありがとうございます!これからお返事致しますーv
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  1. 2011.01.21(金) _23:59:20
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:4
  4. [ edit ]

<<1月19日と20日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | 連載 蕾の開く頃22>>

comment

おはようございます

  1. 2011/01/22(土) 08:10:02 
  2. URL 
  3. なぎ 
  4. [ 編集 ] 
翡翠様、温かいお返事ありがとうございます。

ピダムが花郎の装束を着て登場したときは、あれ?この衣装どうしたんだろう?って本気で考えてしまったので(笑)翡翠様に疑問を解消していただけて、うれしい限りです。

この頃のピダムの心情を、トンマンに伝えることが出来て本当に良かった。

もっと早くお互いがきちんと言葉と気持ちを伝えていればと思わずにはいられませんが、違う形でこうやって理解できて安心しています。

なぎ様へ

  1. 2011/01/22(土) 20:25:09 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
なぎ様、こんばんはー!

拍手コメントで頂いたメッセージですが、こちらにて返信させて頂きます。
名前のこと、わざわざありがとうございました…!紛らわしい名前をつけた私が悪いので、どうかお気になさらないで下さい(汗) 二次創作初心者の時につけた名前なもので、他の方が変換しにくいかどうか考えてなかったんです…(←アホ…)

さて、連載のお話を!
ピダムの花郎の衣装は私も謎に思っていたので、今回「こうならいいなー」と私の思う展開にしてみました。どうも、ムンノ贔屓な管理人です(笑)

ピダムの心理や気持ちについて、私は厳密にはピダムファンではなく、トンマンやチュンチュのファンなので、多分わかってないところだらけだと思います(汗)
これまでにもたくさんのピダムファンの方と出会えたので、いつかピダムファンの方の書かれたもっとピダムの立場に立ったSSが読めたらいいなーとつくづく感じました…(コラ)

なぎ様に喜んで頂けて、ホッとしました。
私の方こそ、優しいコメントをありがとうございますー!

これからも、隠居連載では仲良しこよしな熟年夫婦(笑)を目指して、頑張りますv

こんばんは(^-^)

  1. 2013/09/10(火) 21:45:03 
  2. URL 
  3. トナン 
  4. [ 編集 ] 
前に読んでいたのですが…久しぶりにもう一度読んでいると、ピダムのあまりに孤独で悲しい運命に涙が溢れて止まらなくなってしまいました(;_;)

救いはこのblogはトンマンとピダムがラブラブだと言う事、ドラマではピダムは良いとこなしだったので…

トンマンに愛されるお話しを作って下さってありがとうございます(T_T)


トナン様へ

  1. 2013/09/13(金) 20:03:19 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
トナン様、こんばんはーv
古い記事なのに、もう一度読んでくださってありがとうございます(*´∇`*)

この回は、ピダムの告白ということで、とにかくピダムの一人称での意識や心情を書こうと思ったのを覚えています。本当は、ピダムが感じているよりはムンノはピダムラブだと思いますが(なにせ不思議ちゃんが頑固親父に変貌するくらい影響を受けてますから(笑))、伝わっているようで、まだ伝わりきっていない……そんな感じをイメージしました。
ピダムが正しくムンノの愛情を思いやれるのは、やっぱりピダム自身が父親になってからでしょうし、あとは、トンマンと暮らすうちに色んな発見があればなーとv

ドラマではピダムは良いとこなし……いえいえそんな、いいところありましたよ!(笑) 私が隠居連載のモデルにしているのは、ドラマの中の色んなトンマンとピダムですから!(・∀・)
特に、トンマンのピダムに対する愛の深さは、ピダムの死によって生きる力をなくしたトンマンがモデルです。それどころか、未だにドラマで描かれたレベルの愛情は書けていないと思っています(;´Д`)
いつかそれが書けるように、また頑張りますv


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