善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 夢路の涯(※加筆修正)

最終回特集ラスト!これにて終了ですー。
(ちょっぴり加筆しました)
夢路の涯


* *


 夢と希望に溢れた魂。
 絶望を知らぬ、無垢な心。

 まだ自分が行き着く先など知らない『トンマン』を見送って、トンマンは微笑んだ。

「……耐えるんだよ」

 道の途中にあるのは、辛く、苦しいことばかりだけれども。それでも、見たことのない大きな夢を見られるから。かけがえのないものに出逢えるから。だから、決して諦めないで。生き抜くことを、諦めないで。耐えて、耐え抜いて、歩き続けて。
 ――その道の先にはきっと、あなたを待ち望んでいる人がいるから。
 人混みに紛れて消えていく影を見送ると、トンマンはゆっくりと視線を落とした。
 見つめるのは、金の指輪。彼へと繋がる、唯一つの道しるべ。
 それを愛おしげに指先で撫でた時、トンマンの背後から求めていた声が響いた。

「――トンマン」
「!」

 けれども、振り返ったトンマンの目の前には誰もいなかった。
 ただ、人波が押し寄せ、すり抜けて行くだけ。過ぎ去る人々はトンマンを見てはいない。彼らはただ、日常を送っている。彼女の願い通りに。

「ピダム」

 それでも諦めきれなくて、トンマンはその名を口にした。きょろきょろと辺りを見回して、頭一つ背の高い彼を探した。
 そうして市場を彷徨ううちに、眩暈でも起こしているかのように景色は変わっていった。雪花が桜の花弁となって舞い、地に落ちた花弁が青々とした草となって辺りを覆う。蒸せかえるような暑さに汗が滴り、身体に纏わりついた服は、いつの間にか郎徒のそれに変じていた。
 ――眼前に広がるのは、簡素な四阿。そこに尼の格好をした誰かが立っているのに気付いて、トンマンは小走りになった。病で重かったはずの身体は、信じられないほどに軽い。ほとんど息を切らすこともなく、尼僧の傍に立つことが出来た。

「トンマン」

 振り返った尼僧は、間違いなくジウン――チョンミョンだった。

「姉上……!」

 何かを考える余裕などない。トンマンはわっと懐かしい姿に飛びつき、力の限り姉を抱きしめた。別れた時と変わらぬ笑顔でトンマンを受け止め、暖かい手で背を叩く姉の手に子供のように涙を堪えられなくなって、何度も「姉上」と叫んだ。口に出来なかったその言葉で姉を呼びながら、ずっと心の奥底で淀んでいた濁りを吐露した。

「姉上…………わ、私……私、姉上の言う通りにしなかった。姉上の遺言を無視して……正反対の道を選んだの……」
「……ええ、トンマン」
「それが一番いいと……信じてた。でも……母さんが、死んで、仲間達が傷ついて……チュンチュも……。私……私、これで良かったのか……どうしても、わからなくて……」
「トンマン……」

 チョンミョンは、やっとやせ我慢を止めた妹を、憐れむように、愛おしむように抱きしめた。

「姉上がいたら、姉上がいたらって、何度も考えた。姉上はどうしていたんだろう、どうやって、あの宮中で生きていたんだろうって……何度も、何度も考えた」
「……トンマン」
「何かに……誰かに縋りたくておかしくなりそうになったり…………毎日、毎日、何かに追われているみたいで……」

 自分を信じた。いや、自分の学んだことを信じて、生きてきた。不安も怖れも、全て捻じ伏せようと、寝かせようと自分を鞭打ち続けた。
 ふと、傷だらけの妹の心を慰撫するようにチョンミョンがトンマンの頭を撫でた。

「トンマン、私の妹。あなたは……やれるだけのことをした。もう、十分よ」
「姉上……」
「チュンチュだって、もう子供じゃないわ。後のことは……次の人達に任せましょう。次の人達に任せて、トンマン、あなたの心に従って。王の心ではなく……一人の女人としての、トンマンの心に」
「そうして……いいのかな……?」
「いいのよ。いいえ、そうしなきゃ駄目よ。でないと、今度こそ、私も許さないわ」

 チュンチュに良く似た表情で悪戯っぽく笑うと、チョンミョンは懐から櫛を取り出した。形見として渡されたその櫛は――トンマンが真っ二つに折ったその櫛は、元通りになっている。
 その櫛がトンマンの掌に置かれた瞬間、ふわりと風が巻き上がり、蜃気楼のように景色が霞んだ。尼僧の姿だったチョンミョンが美しい公主の姿になり……トンマンの姿も変わっていた。郎徒の装束でも公主の装束でも、王の装束でもない。砂漠で暮らしていた頃に似ているけれども……その頃に着ていた物とは違う、爽やかな色味の女物の麻の衣だった。

「もう櫛を折っては駄目よ」
「姉上……!」

 最後にそう囁いて、チョンミョンは手を離した。

「――幸せになって、トンマン」

 願いは空に木霊して、風に浚われ消えていく。トンマンはまだ姉の温もりの残る櫛をぎゅっと握って、大きく頷いた。



 空に向けていた眼差しを下ろすと、辺りの景色は市場に戻っていた。人波も変わらない。まるで先程のことは夢であったかのようだ。
 けれども夢ではなかった証に、トンマンの手には櫛があった。その姿も、もう誰が見ても王とは思わぬものになっている。頭も身体も、全てが風のように軽やかだ。

「姉上……ありがとう」

 櫛をしまって、トンマンは走り出した。
 ――探さなきゃ。彼を、絶対に見つけるんだ。
 どこへ行こう。ピダムがいるところ。二人が……再会するはずだったところ。

(推火郡だ)

 そこへ行こう。今なら、走れる。思う存分土を蹴って、どこまでも走れる。
 もう人波は彼女を避けてはくれなかった。走ればぶつかり、避けようとすれば真っ直ぐに進めなくなる。それはとてつもなく懐かしい、懐かしくて堪らない感覚だった。思わず満面に笑みを咲かせて、トンマンは走った。
 ところが。

「トンマン!!」

 全ての雑音を切り裂くような声に、トンマンの脚がぴたりと止まる。するとそれを予期していたかのように、ちょうど彼女の目の前にピダムが飛び降りた。

「見つけた!」

 予期せぬ登場にぽかんとしているトンマンに、ピダムは白い歯を見せて破顔した。出会った頃と同じ、あちこち解れて破れている麻の服を着て、屋根の上から飛び降りた衝撃など欠片も感じさせぬ若々しい顔で頬を掻いている。

「見たことない格好してるから、探すの大変だったよ」

 相変わらずの「誉めてくれ」と言う顔でへへっと笑うと、ピダムはあっと叫んで両手を前に突き出した。

「これ」

 にゅっと突き出されたのは、いつかのような野花の束。

「まだ、花は好き?」

 続けて放たれた質問に、トンマンはぷすっと吹き出した。強張っていた顔も、花開くように綻んでいく。

「勿論、好きだ。……これから先も、ずっと、ずっと好きだ」

 その言葉にピダムはへへっと笑って下を向いた。その照れる姿が、何故だかとても懐かしい。懐かしくて、トンマンはピダムを小突いた。

「行くぞ」
「うん」

 自分の胸を小突いたその手を掴むと、ピダムはその手を自分の手と繋げた。暖かい手と冷えた手が合わさって、体温が交わる。繋がれた指には、同じ指輪が光っている。

「思い残すことは?」
「何もない」
「逢いたい人は?」
「今、逢ってる」

 質問攻めをするピダムに向かってからりと笑ったその時、二人はすでに城門の外にいた。振り返れば、堅牢な城門が聳え立っている。きらびやかな王宮での思い出を噛みしめるように、二人は暫し城門を見つめた。

「私達の生まれた場所は、面白いところだったな」
「うん」
「二人して……悪さをたっぷりとした」
「うん」
「辛いことも、悲しいことも多かったけど……この国に生まれたことを恨んだこともあったけど…………この国に来て、良かった。ここで生きて、たくさんの人と出会って、色んなことを学べて、良かった。こんなに面白い人生を歩んだ者は……古今東西の英雄にだって、そうはいない」
「……うん」
「だから……最後に、お礼を言おう」
「え?」

 トンマンはにっこり笑ってピダムを見ると、しっかりと彼を抱きしめて囁いた。

「……ありがとう」

 この国に生まれていなければ……そうでなければ、出会うことすら出来なかった、全てに感謝を。そして何より――。

「……この国に生まれてくれて、ありがとう、ピダム」

 心から愛し合える相手に巡り会えたことに、感謝を。
 そして、最期に何よりも貴い贈り物をくれた彼に、愛と言う名の魂を贈ろう。――私の片割れ。私の安らぎ。私の永遠の恋人。

「うん。生まれてきてくれてありがとう……トンマン」

 あなたがいたから。あなたと出逢えたから、最期にやっと、愛を、心を見つけることが出来た。――俺の王。俺の太陽。俺の永遠の恋人。

「よし! ピダム、じゃあ行こうか」
「うん。トンマン、行こう」

 城門を背に前を向けば、旅路はどこまでも続いている。地平の涯まで、どこまでも。
 もう、確かに繋がれた手が震えることはない。見えぬ涯への恐れなど、二人にはない。
 白い光に包まれた涯へと、二人は歩き出した。やがてその足が風を切って駆け出すと、二人の姿はきらきらと光り、眩く煌めいた。

 煌めく光は光の渦へとその輝きを増していき……ついには陽光のように、蒼穹と一つになった。



* * *

以上で最終回特集はおしまいです。怒涛の更新にお付き合い下さいました皆様、ありがとうございました。

ラストは、ドラマの最後のトンマンの夢から繋げて、某タカラヅカの如く(笑)、エンディングを創作してみました。
この夢路二本は春先に書いたものではなく、つい最近書いたものです。でもずーっと書きたかった話なので、今回更新した六本のSSの中では一番思い入れがあります。チョンミョン達との会話もそうですが、手を繋いで走っていくトン&ピが書きたかったんですよー。今回それを書けて、大変満足です(笑)

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  1. 2011.01.27(木) _21:02:00
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:10
  4. [ edit ]

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comment

  1. 2011/01/27(木) 21:58:57 
  2. URL 
  3. ririco 
  4. [ 編集 ] 
ご返信ありがとうございます^^
韓国の古代遺跡ですか・・知らなかったです。
実は私は書店員なので、本には毎日囲まれて生活してるのですが、お恥ずかしいお話、韓国の歴史も三国志についてもちゃんと勉強したことがなかったので・・・
今回のきっかけはチャンスかなぁ、と。

今の私からしたらあの時代の服装や文化に少し触れれば、とても幸せな日々ですね。

ririco様へ

  1. 2011/01/28(金) 22:58:20 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
いえー!
……ととと言うか、その本はあくまで社会科系列の本なので、服装とか文化を期待されると、ちょっと期待外れになる可能性が…(汗) 地理や気候がサブで、中心は遺跡です。服装については……今のところ記述はなかったような気が…?

書店員さんでしたら、先輩とかに聞いてみるのもいかがでしょう。私はそこまで本を読んでいるわけではないので(自慢にならない)、多分もっとより良い本があると思うんですよー。
んでもって、オススメの本などありましたら、私にも教えて下さいませv

歴史の勉強だったら、ひとまず教科書(あるいはまとめ本)、次に正史、そこからもっと細かい本……てのが私の見方のセオリーですねー大体。←大雑把w

  1. 2011/01/28(金) 23:52:24 
  2. URL 
  3. ririco 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さま

わーー、すみません。
服装や文化に触れればというのは、私の勝手な妄想?みたいのものでごじゃります・・・
今度おすすめの本セレクトしときますねw

kntv版とBSフジってそんなのに違うもんなんですか!?
知らなかったです・・・(そして自分はkntv版はみれないので)
たしかにBSフジの方では泣くことはできませんでした・・・ちょっとウルってしたけど。
アルチョンのおじいさん姿みたかったです・・・・うぅぅぅ

ririco様へ

  1. 2011/01/29(土) 11:46:38 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
わわ、そんな…!
服装とかに関しては、とりあえずドラマの女性陣の衣装は、あの時代のものとはちょっとズレているとどっかで聞きました。唐の服をベースにしてると。(唐の服装を取り入れるのは、スンマンかチュンチュの時代だったよーな…?)

オススメ本、私もまた探しておきますねー!楽しみにしてます(*´∀`)

kntv版は、韓国で放送されたものをそのまま流しているんですよー。単語の説明をする字幕も消されてないので、向こうの言葉もわかりますし、日本語訳も出来るだけ元の言葉に忠実です。(例えば、公主様を王女様と訳したりせず、そのまま公主様としています)
でも一番でかいのは、DVDやBSフジは音楽の差し替えをしていることですね。受ける印象が全っ然違いますよ…!

と言うわけで、私はDVDは一巻も買わずに、kntv加入用にお金を残しています(笑)

アルチョンじい、可愛かったですよーv(ファンの贔屓目ですw)

  1. 2011/02/21(月) 16:09:58 
  2. URL 
  3. ぱんだ 
  4. [ 編集 ] 
はじめまして、お邪魔しました♪
凄く良かった~素晴らしいです!
スッキリしました
なんとも、悲しいラストにドラマだと思っても、どうしてもピダムとトンマンのことが気になってしまって…
でも、このお話読ませてもらって、二人が幸せになれたので心が軽くなりました
本当に有難うございました。

  1. 2011/02/22(火) 14:13:21 
  2. URL 
  3. げん 
  4. [ 編集 ] 
はじめまして。以前からとっぷりハマって楽しく読ませていただいておりました。二次創作の世界があるなんて、全く知らなかったので見つけた時は本当にうれしかったです!
そして、りば様のところで生涯初コメデビューを果たした勢いのまま、緋翠様のところでもやらねばと思いお邪魔しました…。

「一緒に逃げましょうか?」のシーン
トンマンはユシンが返してくる答えはわかっていながら問いかけていて、戯言につきあい欲する言葉をくれる人は今から行くところにいるはず、いて欲しい、逢えるだろうか、逢いたいーー(ユシンのお恥ずかしいですの言葉はちっとも聞いていないように見えましたので)の心いっぱいにして死んでいったと…希望してたので、このSSうれしかったです!!

まだまったり善徳世界につかっていたいので、これからも楽しみにしております。




ぱんだ様へ

  1. 2011/02/22(火) 22:04:33 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
ぱんだ様、はじめまして&いらっしゃいませーv管理人の緋翠です。

私もドラマだと自分に言い聞かせても割り切れなくて始めた二次創作なので、仲間(え)の力になれて嬉しいです!
もはや色んな意味で完全に自己満足の世界ですが(笑)、これからも気が済むまでは善徳女王の世界に浸り続けようと思います。

ぱんだ様、こちらこそ嬉しいメッセージをありがとうございましたー!励ましのお言葉やお礼を仰って頂ける幸せを噛みしめつつ、次のお話も書いていきますv

げん様へ

  1. 2011/02/23(水) 00:26:52 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
げん様、はじめまして!管理人の緋翠と申しますv

こっ、これが初めての二次創作でいらっしゃるとは…!! 嬉しいような申し訳ないような嬉しいような気がします(笑) 善徳女王って、やっぱり凄いドラマなんですね…!
そして、りばさんブログにての生涯初コメデビュー、おめでとうございますv 勢いのまま他のブログでもコメントを、と言う感覚、私にもあるので勝手に親近感を覚えてしまいました(笑)

> 「一緒に逃げましょうか?」のシーン

私もげん様と同じような感覚でこのSSを書きました。この台詞の辺りは、その前のユシンへの遺言とは違って、もう半ば自分の心と語り合っているんじゃないかと…。
ユシンは「お恥ずかしいです」と真面目に返答しましたが、アルチョン辺りだったら「陛下……」ぐらいしか言えなくなるような、そんな、「答えを必要としていない」言葉に聞こえました。

私もまだまだまったりどっぷり(笑)善徳世界に浸かっていたいので、これからもぼちぼち頑張ります! げん様、応援ありがとうございますーv

感動したぁ

  1. 2011/09/29(木) 22:58:02 
  2. URL 
  3. hi chin 
  4. [ 編集 ] 
翡翠さま お久しぶりです。

今はランダムに過去記事を読んでいたのですが、これを読んでめちゃくちゃ感動してぼろぼろ泣いてしまいました(泣)
テレビでの最終回しか まだ観てないのですが、録画したものをまだ消せなくて 何度も観ては号泣しています。
ラストのトンマンは、ピダムに会えていたのですね!
素敵な最終回ストーリー有難うございます。どうしてもお礼が言いたくてコメいたしました。

hi chin様へ

  1. 2011/10/01(土) 10:11:46 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
hi chin様、こんにちはーvお久し振りです!

懐かしい記事にコメントをありがとうございます。
このお話は、BSフジの最終回の頃に書いたものなので、私もkntv版の最終回を思い出して、時々泣きながら書いたような気が…(泣いちゃうので、なかなか見れませんw)

ラストのトンマンは、ピダムに会えていた…と言うか、チョンミョンとピダムの二人に会っていて欲しいなーと言う私の願望です(笑) なので、喜んで頂けて凄く嬉しいです!こちらこそ、本当にありがとうございますvv


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