善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

リレー小説第16弾!! 今回は珍しく早めの更新です。フハハハハ!(何)

さて。前回saki様が作って下さったオリキャラ「ザズ」くんが今回も登場しています。いやーこのザズくんのキャラ設定が私のツボだったもので(笑)、ピダムとたっぷり話をさせちゃいましたw
お楽しみ頂ければ幸いですー(´∀`*)


* *


 殺気だっているな、と言うのがチルスクが最初に感じたことだった。
 赤い月と同じ髪色をした少年――ザズと言ったか――は、本人は気付いていたのかはわからないが、刹那、チルスクへと警戒の眼差しを向けたのだ。ミシルの護衛役となって以来、周囲からの警戒心や殺気、場の緊張感に敏感になっているチルスクは、まだまだ未熟なザズの眼からの『警戒心』を容易く感じ取っていた。
 理由はわからない。
 彼の体躯と顔のせいか、態度がぶっきらぼうだからか、あるいは一人旅を怪しまれたか。もしかしたら、一家のことを探っているところを見られていたのだろうか。

「全くもう」

 その時、チルスクの思慮を断ち切るようにトンマンが呟いた。いつもは柔らかく弧を描いている眉は、去り行く二人へ向かって顰められている。
 ところが、トンマンの思いはチルスクの予想からは完全に外れていた。

「いっつもいっつも、ああなの。どうして男の子って、家の中の細々とした仕事をすぐにサボるんだろ。剣を振り回すことにばっかり熱心で」
「……」
「ちょっとは我慢することも覚えて欲しいんだよねー、本当に!」

 トンマンはくるりと振り返ると、チルスクをもついでに睨みながら問いかけた。

「ね、おじさんもそう思うでしょう!?」
「…………」

 チルスクもかつては「男の子」だったと言うことは忘れているのか、鼻息荒く相槌を迫るトンマンを前にして、暫しチルスクは戸惑った。実のところ、彼がこのように「女の子」の愚痴に同意を求められるのは、これが初めてだったのだ。
 しかしそうとは知らぬトンマンは、言葉に詰まっている彼を見て、どうやら自分の味方ではないと感じたらしい。チルスクより遥かに回転の速い頭と口は一端その矛先を引っ込めて、仕事やとりとめのないお喋りへと向きを変えた。
 そしてチルスクがそれにホッとして油断した瞬間に再び矛先が鋭く切り込んできて、今度はその矛先は望む答え――「……ああ」と言う、是とも非ともつかぬ答えだったが――をもらって満足して、ローマ語伝授へと戻ったのだった。





 おかしなことに、ぼーっと帯飾りに魅入られていた男二人は、ほとんど同時にほうと吐息を漏らした。

「これ、絶対トンマンに似合う……」
「ああ。女が喜びそうだな。どれ、俺にもちょっと……」

 と、そこでザズが手を伸ばした途端に、ピダムはさっと帯飾りを背後に隠した。触らせない、と言うことらしい。

「おい、見るぐらいいいだろ?」
「見るだけならいいぜ。でも、触るのはなしだ。お前の手垢がついたのをトンマンにやるわけにゃいかないからな」
「へえ……」

 酷い言われようだったが、ザズは噛みつかなかった。この程度の妹馬鹿に腹を立てているようでは、ピダムの友はやってられない。
 代わりにバリバリと首を掻いて、ザズは他の品へちらちら視線をやった。けれども現在贈り物をしたいほど入れ込んでいる女のいない彼には、もはや店先に並ぶ物はがらくた同然だ。
 隣では、さすがに商人だけあってザズに購買意欲がないことをわかっているのか、店主がさっさとピダムと代金の交渉を始めている。

「それでいいのかい?」
「ああ。いくら? これ」
「そうだね、妹思いなところに免じて、安くはしないけどおまけをつけとくよ。あの子もこの頃すっかり年頃だしねぇ」

 そのうち滅多に見ない美人になるよ、と店主に太鼓判を捺されたピダムの顔はでろでろに崩れている。

「俺もそう思う!」
「何喜んでんだ、ピダム。今はまだ大したことないが、ど偉い美人になったら、そのうちお偉いさんから声がかかるかもしれないんだぜ」

 何せ、とザズはにやりと笑う。

「この大地の東の果てにある鶏林って国は美女が多くて、色んな国のお偉いさんが鶏林の女を欲しがるって話だ。ピダム、お前だって俺には劣るが色男だしなぁ。トンマンも可愛いし。お前ら、絶対そっちの血を引いてるぜ」

 美女の国、鶏林――。
 誰が言い出したのかは知らないが、その話はザズが生まれる前から真しやかに囁かれていた。
 曰く、ザズが生まれる前――彼の父親がこのオアシスに流れて来るずっと昔、東西の交易はもっと盛んだったのだと言う。それが、ローマの国内が乱れた為に交易路は閉ざされ、ユスティニアヌスによって再び交易が始まったものの、昔日の面影はなくなってしまっている。鶏林まで行こうなどと言う奇特なローマ人、ペルシア人はいないし、鶏林の方でも受け入れが難しい状況に陥っている。
 ここからはザズもぼんやりとしかわかっていないことだったが、彼の父親が言うには、鶏林は昔とは違うのだと言う。
 かつて、美女の国として知られていた頃の鶏林は高句麗と仲良くやっていた為、商団は何かと煩い隋を通らずに済んだ。それが、今や鶏林と高句麗は敵国同士。商団もおちおち高句麗を通るわけにはいかなくなり、隋から海路を経由して鶏林へ入るしかなくなった。
 一口に海路と言っても、ローマからこっち、砂漠を越えてやって来た彼らに外海を渡れるような船はない。となると鶏林だけでなく、何かと隋の世話にもならねばならず、かつての栄光を失いかけているローマには、そこで隋の力をはね除ける圧力も期待出来ない。商売が不自由になり、自然と商団の足は遠退いた。
 しかし、東方との中継地点でもあるこのオアシスには、まだまだ色々な『伝説』が残っている。その一つが、「かつて、鶏林は金銀と同じように美女を他国への貢物としていた」と言う話である。他にも輸出品はあっただろうに、鶏林の美女を求める国々があまりに多かったか、あるいは奇異なことだからか、その話ばかりが残ったのだった。
 ちなみにザズがこの話を覚えているのは、その美女の国から来たと思しき母子がやはり美貌だからだ。
 が、しかし、ピダムはザズの話のごく一部にしか反応しなかった。

「おい、トンマンを可愛いって言っていいのは俺と母さんだけだぞ!! なんだよザズ、お前、まさかトンマンのこと……!?」
「それはないから安心しろ。俺は煩い兄貴のくっついてる女は女と認識しないことにしてる」
「はん。そりゃ結構な心掛けだな。ま、トンマンの可愛さは俺がわかってりゃそれでいいんだよ」

 その美貌をねじ曲げて笑うピダムに、ザズは言ってやりたかった。
 ――お前がそうやって現実から目を逸らしている間に、トンマンはその美貌で金持ち男を捕まえてるかもしれないぞ。
 男好きではないが、病弱な母の為なら何でもしそうな雰囲気がトンマンにはある。それが果たして何に向かうのかザズにはわからなかったが、女が金を手にする一番手っ取り早い方法は、金持ち男を捕まえることだ。
 おかげでザズは、そのようにしか考えなかった。当然のことながら、まさか『美女候補』のトンマンがとんでもない手法で己の道を切り開いていくとは知る由もない。
 それよりも彼が気になるのは、この筋金入りの妹馬鹿がどんな顔をして帯飾りを渡すかだ。おまけに帯飾りと言えば――。

「しっかし、怖いねぇ」

 からかうように前を歩くピダムの肩に手をかけ、ザズは笑った。

「帯飾りってことは、もしトンマンに男が出来た時に……」
「あ!? なんだって!?」
「おい、ものの例えだよ……いって! 殴るなって!! ったく……! いいか、帯飾りは、いい虫除けになると言ってんだ、俺は!」
「虫除け? 蜘蛛とか殺せんのか、これ」
「その虫じゃねえ! 男を追っ払えるって言ってるんだ俺は!」
「はあ?」

 帯飾りの一体何が男を追っ払ってくれると言うのか。
 黒々とした瞳を丸くしているピダムに、ザズは傍の店にいる娘を顎でしゃくって示した。

「見ろよ、あの腰」
「腰ぃ?」
「ああ」

 いい腰つきだろ、と囁く声には下卑た響きはない。からりとしていて、まるで駱駝を相手にしているかのようだ。事実、ザズにとっては駱駝も女もさほど違いはないらしい。

「ああ言う腰の女は楽しませてくれるぜ」
「ふーん……」

 が、ピダムの答えには全く熱がない。生返事をしてそのまま妹の許へ帰ろうとするピダムの襟首をがっしり捕まえて、ザズは語った。

「いいか、ピダム。お前もそろそろ一丁前の男になる時だろ。妹が可愛いのとは別に、そろそろ一皮剥けたらどうだ?」
「あっそ。それより離せよ。あんまり待たせるとトンマンに口利いてもらえなくなる」

 自分で言っていることの内容がわかっているのかいないのか、この若さにしてあまりに妹の尻に敷かれている悪友の為に、ザズは踏ん張った。

「まあ聞け! 俺はな、別にトンマンに贈り物をするのが悪いって言ってんじゃない。兄貴からの贈り物を身につけてりゃ、少しは男に二の足を踏ませられる。それに女兄弟のご機嫌は損ねない方が身の為さ。でもなあ、お前、そろそろ女遊びを覚えてもいい頃だぜ? なのに、ちっとも興味を持たないじゃねえか」

 簡単に言えば、ザズはピダムが心配だった。何せ彼の友ときたら、実の妹にばかりのめり込んで、いい年をして恋どころか女に興味を持つ気配さえない。ピダムを気にして袖を振る娘はいると言うのに、だ。
 始めのうちはそれを母一人子二人で暮らしてきた故だろうと好ましく見ていたザズだったが、ピダムが十五の年を過ぎた辺りからザズは心配になり始めた。彼の妹に対する独占欲は、どうやら可愛らしいと言い切るには根が深過ぎるのではないか――。そんな思いがちらちらと鼻先を掠めていく。

「ハァ? だからなんだってんだ? 女の尻を追っかけてる暇があったら、宿の手伝いしないと怒られる」

 聞きようによっては『いい子』の回答だったが、翻訳すると、「女は最下位」と言うことだ。宿の手伝いの上に、剣の修行やら家族団欒やらがしっかり入っているのだから。

「…………あー……」

 そうかよ、と力なくザズは呟いてピダムを解放した。すたこらさっさと宿へ向かう足取りを見ながら、ぽつりと呟く。

「……結局ピダムが一番食いつくのは、トンマンの話か……」

 今日は色々と有益な話題もあったはずなのだが、それがどれだけ悪友の頭に残っているのか。ザズには何とも言えなかった。
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  1. 2011.02.17(木) _23:55:44
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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