善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 逸興・上

前々から考えていた百済ネタのSSです。お試しなので、変なところがあるかもしれませんが、お許しを…!
実は近肖古王を見てるのは百済について知りたかったからだったりなんてしません!

ケベク1ケベク2
こちら、赤カブの男……じゃない、赤カブトの男ケベクさんです。今回のSSのメインさんです。

追記:ドラマを見たら、51話の段階で武王が衰え始め、ウィジャは有力な太子でした…!ちなみに脚本家さんによると、空白は9年間だそうです。と言うことは、641年設定…。あらま。


* *


 墨を散らしたような空に冴え冴えと光る望月が、新羅の陣に翻る皇帝旗を鮮やかに照らし出している。その下で一身に月光を浴びて輝く人物を見て、黒衣を纏った青年は口の端を上げた。
 ほんの数滴、墨に朱を混ぜたような色をした衣は、宵闇によく埋まっている。闇の中、青年の眼だけが異様な輝きを以て、月光を跳ね返していた。

(……あれがトンマンか)

 とは言え、目の良い彼にも戦場の遥か彼方に立つ王の顔は豆粒ほどの大きさにしか見えず、顔つきまではわからない。黄金の鎧に埋もれてしまいそうな白い顔より、彼にはそのすらりと高い背丈が意識に残った。

「恩率」
「わかっている。……行くぞ」
「はっ」

 闇にその身を隠して偵察に来ていた一行は、新羅軍に悟られぬうちにと早々にその場を去った。
 しかし、恩率、と呼ばれた青年の瞼には、一瞬だけ見た女の姿が焼きついている。

(美女だと言うからどんな女かと思えば、あの立ち方に、鎧の着こなし……遠目には男と変わらんじゃないか)

 が、それはどうでもいいことだ。彼の目的はただ一つ、いずれその命を奪うこと――それだけなのだから。
 じわりじわりと肌をなぶる風に紛れて林の中を疾走しながら、ケベクはその大きな瞳を星屑のように煌めかせた。



 新羅軍の後詰めを率いる新羅王トンマンの軍営は、最前線からは五里ほど離れていた。
 最前線にいるのは、上将軍キム・ユシン。第二陣を纏めるのが兵部令キム・ソヒョンで、トンマンは云わば第三陣。本来なら徐羅伐を離れない王がここまで出向いた理由はただ一つ、百済の狙う城が党項城――唐に通じる重要な城だからだった。この城が奪われれば、神国は高句麗と百済の狭間で孤立してしまう。即位一年が経ち、国内を掌握した『海東の曽子』ウィジャは、親征軍を率いてきている。彼が本格的に新羅攻略を目指していることは疑いようのない事実だった。

「陛下、天幕の中にお入り下さい。お身体に障ります」

 外に出て夜天を見上げるトンマンに、アルチョンがそっと声をかけた。季節は七月、蒸せるような暑さだと言うのに、何が身体に障るのか。

「侍衛府令――」

 そう声をかけようとしたところで、兵が司量部令の帰陣を告げた。
 馬を駆ってトンマン達が視界に入るところまでやって来たピダムは、きらびやかな鎧を纏ったトンマンが天幕の外にいることに鋭く眼を細めた。トンマンもまた、冷ややかにその視線を返す。

「陛下。天幕にお入りください」

 下馬したピダムは流れるような仕草で一礼すると、開口一番切り込んだ。

「そのように目立つ場所におられては、格好の的です」

 暗殺の――と、眼差しに込めると、トンマンもそれと汲み取ってピダムに背を向けた。ちらりと振り返り、「報告は中で聞きます」とだけ返し、天幕に入る。その後にはアルチョンを始めとする侍衛府、女官が続き、ピダムはそれを見送ってから、追いついたポジョンに小声で訊ねた。

「連中は?」
「四人は斬りましたが、一人逃しました」
「……また五人か」

 どうやら、百済では五人一組で行動をする決まりでもあるらしい。これまで四度ほど始末した偵察部隊――暗殺部隊も含む――は、どれも五人一組で動いていた。
 兎にも角にも、敵がトンマンの暗殺を狙っていることは間違いない。ピダムは愁いと苛立ちの篭った双眸を天幕の中へ向け、足早に入った。



「軍営にいる間、同衾を許可してください」

 軍議が終わると、ピダムは床に入る支度をしようとするトンマンに無理矢理くっついてきて、女官がいる前であるにも関わらず進言した。
 鍛え上げられた女官達は石像のように動かなかったが、耳まで石になっているわけではない。そのことをよく知っているトンマンは、じろりとピダムを睨んだ。言いたいことはわかるが、どうして先に「女官を退けてください」の一言が言えないのか。

「……下がれ」

 トンマンが低く命じると、女官達は速やかに対応した。ただでさえ何かにつけて対立もする二人だが、司量部令が命懸けで王を護るつもりであることは明白なのだ。
 二人きりになると、トンマンは続く反駁を承知で言い渡した。

「同衾はしない。軍紀が乱れる」
「陛下」
「お前の言いたいことはわかっている。だが、警衛には天幕の外で当たれ」
「陛下。いざと言う時、女官風情に私の代わりが務まるとお思いですか」
「……」

 その言葉だけは、トンマンも否定出来なかった。本来なら戦場に出ない司量部令たるピダムが同行した理由は、ただ一つ。偏に、彼が神国で一番の剣の使い手と認められているからだ。さらに言うなら、女王の色供の臣である以上、最も近い場所で女王を護れるからと、便殿会議でピダムの同道は決まった。
 つまり、ピダムの進言は便殿会議の意志でもある。暗殺者――武術の玄人相手に敵うわけのないトンマンを護る為に、彼はここにいるのだから。ついでに言うなら、アルチョンもピダムの参陣は歓迎している。アルチョンが幾ら警護すると言っても、彼も人間だ。細々とした休息は要る。その隙間をピダムが補ってくれると言うなら、文句はない。

「今日も兇手を斬りました。陛下、一刻たりとも油断は出来ません」

 そもそも、党項城は百済との国境に程近く、距離的には徐羅伐より百済の都たる泗比の方が遥かに近い。神国の領土としては飛び地に近く、党項城の救援に赴くと言うことは、敵陣に入り込むと言っても良いくらいだ。地の利を活かして敵が暗殺を仕掛けてくるのは当たり前だった。トンマンも、それは承知してはいる。けれど。

「同衾はしない」

 トンマンは、便殿会議の真意がトンマンの警衛だけでなく、この機にピダムとの同衾を増やすことにあるのを知っていた。一度朝まで同衾を許せば、徐羅伐に帰ってからそれを逆手に取られるだろう。
 だが、警衛の問題を軽視出来ないことも事実だ。
 ならば、と、トンマンは天幕の構造を利用した逃げ道を使った。王の天幕は普通の天幕を複数繋げたような形をしており、中は帳を利用して幾つかの部屋に仕切られている。今、女官や侍衛府の兵がいるのも次の間だ。

「……わかりました」

 暫く沈黙した後、ピダムは唸るように頷いた。



 その夜、次の間に控えたピダムは簡素な長椅子で剣を手にしたまま横になっていた。眠ってはいるが、気を緩めてはいない。
 そうして夜も更けた頃、微かな物音がした。次いで、近づいてくる気配に、血の臭い。

「誰だ」

 いち早く剣を抜き、相手を誰何する声に、気配が止まった。息をすることさえ憚られるような刹那の後、唯一残っている灯明の光に覆面をした男が照らし出された。まだ若い笑声が、黒布の奥でくぐもる。

「トンマンを殺しに来たのさ」
「――」

 次の瞬間、ピダムは目にも留まらぬ速さで相手を殺しにかかった。剣戟は静かに、激しく続く。その物音に兵や女官が何の反応も示さないことに気付いたピダムに、男は眼だけで笑った。

「お前、ピダムだな。噂通りの……男じゃないか」

 その口調には、明らかに揶揄が含まれていた。

「年増の石女に傅いて、随分苦労しているそうだな?――敵ながら同情する」

 わざとピダムを逆撫でするようなことを言い、ピダムの集中を掻き乱そうとしているのは明らかだったが、むしろそれは、ピダムにとっては好都合だった。トンマンへの侮辱は憤怒ではなく、瞬時に殺意へと切り替わる。
 しかも、ピダムは何かと餓えていた。許しが下りれば、すぐにでも血の雨を降らせたいほどに。

「……お前、よっぽど死にたいらしいな?」

 口の端を歪めるように嗤うと、ピダムは力の強い男を上手くいなして蹴飛ばした。男が吹っ飛び、派手な物音が立つ。これだけの物音がすれば、外の者も侵入者の存在を察知するだろう。
 ――ところが、先に次の間の帳を揺らしたのは、すでに剣戟の音に目を覚ましていたトンマンだった。

「何事だ?」
「陛下!」

 思わず慌てたピダムの隙を見て、男が立ち上がる。そのままトンマンの声がした方へと駆ける男の前になんとかピダムが立ちはだかって斬り結んだ時、さっと帳が開いた。



「刺客か」

 黒尽くめの装束を見て、トンマンは剣の柄を握る手に力を籠めた。ピダムに蹴り飛ばされた衝撃で男の顔を隠す黒布は取れ、笑みを浮かべた顔が品定めをするようにトンマンを眺めている。
 長らく浴びていなかった不躾な視線を正面から受け止めたトンマンは、僅かに眉を顰めたはしたものの、大きく表情を変えることはしなかった。ただ、その眼差しよりも、今まで見てきた刺客とは違う男の態度の特異さが引っ掛かった。

「――ピダム」
「はい」

 一方、辛うじて返事はしたものの、ピダムは何故トンマンが出てきたのかと腹が立った。寝衣を纏う彼女を見られたと思うだけで、腸が煮えてどうにかなりそうだ。
 その上、次に下されたトンマンの命令は男達を驚愕させるに相応しかった。

「殺すな。生け捕れ」
「陛下!」
「――」
「侍衛府!!」

 トンマンの一喝と共に、辺りは一気に騒がしくなった。

「……仕方ない」

 男は一度ピダムから離れると、トンマン目掛けて腰に差していた短刀を投げた。

「陛下!」

 それを庇ったピダムとトンマンへ斬りかかろうと、男が体勢を整えた、その時。

「お逃げください!!」
「陛下、ご無事ですか!?」

 外から邪魔が入り、今度こそ男は退却を余儀なくされた。
 侵入者を知らせる太鼓と銅鑼が鳴り響く外からは、眠っていたはずのアルチョンの声も聞こえてくる。

「逃がすな!!」

 その音に負けない大声で叫びながらも、ピダムはトンマンの側を離れる気になどならず、檄を飛ばすのみに留まった。危険は去ったと確信してからトンマンを立たせ、正面から顔を見る。

「お怪我はありませんか」
「大丈夫だ。怪我はない。……怪我はないか?」
「ありません」
「そうか」

 安堵したようにトンマンが小さく息を吐くや、ピダムは矢も盾も堪らずトンマンを抱きしめそうになっていた。……けれど、一瞬牙を剥いた情動は、続くトンマンの言葉に鎮まった。

「手こずるお前を見るのは、チルスクを相手にした時以来だな」

 その何気ない一言に、ピダムの眉間に皺が寄った。
 ――あの時の私は、あなたのことで頭がいっぱいだった。

「やはり、かなりの使い手なのか?」
「……はい」
「侍衛府令よりも?」
「良くて、五分です」

 あれからピダムは変わった。特に意識せずとも、もう身体も頭も自然に情動より任務を優先するようになった。変わらないのは……より苛烈になったのは、「他の誰もトンマンには触れさせない」と言う欲望だけ。
 トンマンは傷つき倒れた女官や兵を運び出させると、まだ剣を握っているピダムを見て、気遣わしげに問いかけた。

「他にも何事かあったのか?」

 それが戦況や暗殺を指して言っているのがわかるピダムには、何も言えなかった。藪をつついて蛇を出すわけにもいかない。

「いいえ……何も」

 ただ、あの瞬間、確かにあの兇手は現れたトンマンを見て眼の色を変えた。そして、その眼に光るものは殺意ではなかった。
 ――それが、どうしてもピダムには気に食わなかった。

「ご苦労なことだな」

 すでに幾度か刺客に狙われたことのあるトンマンは、さすがに慣れたのか、取り乱すどころか、相手を揶揄する余裕まで持っている。
 そんなトンマンの横顔を強い眼差しで見つめて、ピダムは訊ねた。

「……陛下。何故刺客を生け捕れなどと仰ったのですか?」
「人質になると思ったからだ」
「刺客が人質になりますか」
「見なかったのか?」

 トンマンは本当に不思議そうにピダムへと振り返ると、なんと言うことなしに語った。

「身のこなしも剣も、今までの刺客とは違っていた。何より、刺客を生業としている者は、「石女」なんて無駄口は叩かないからな」

 その時、ピダムはやっとトンマンの唇が微かに震えていることに気付いた。――トンマンは、傷ついていないわけではなかった。



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  1. 2011.05.13(金) _00:00:15
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

<<SS 逸興・下 | BLOG TOP | 5月11日に頂いたコメントへの返信>>

comment

  1. 2011/05/13(金) 01:32:21 
  2. URL 
  3. poko 
  4. [ 編集 ] 
戦場でまで同衾ですか~(≧∀≦)
ピダムにとっては、趣味と実益…じゃなかった、仕事と私生活を両立できるはずだったのに、残念。
それなのに、刺客の視線が殺意だけじゃないことに気づいてしまったピダムの心情って(p_-)
妬く男、悔しがる男、怒る男、睨む男。マイナス感情を発散する男子(ドラマ中の!です)に色気を感じてしまう私には、刺客の目線に揺れるピダムはツボです。
続きが楽しみです。

poko様へ

  1. 2011/05/14(土) 00:33:22 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
poko様、こんばんは~v

同衾狙いだったんですが、玉砕しましたねーピダムw
一応、ピダムとしては戦場でイチャイチャしたいわけではなく(隙が生まれますし)、本当にトンマンの護衛役として一番傍にいたいと言うのと、あとはちょっと抱きしめたりとか肩を撫でたりとか手を握れたりとかしたら文句なし、な感じで、トンマンもそうとわかっていたんですが、だからこそお断り、と言う…。

ピダムは他の人のトンマンへの視線に敏感そうなので、ケベクの変化にも真っ先に気付いて頂きました。(鬼です。管理人がw)

> 妬く男、悔しがる男、怒る男、睨む男。マイナス感情を発散する男子(ドラマ中の!です)に色気を感じてしまう私には、刺客の目線に揺れるピダムはツボです。

色気はあまり感じないんですが(コラ)、マイナス感情を発散する男子は面白いですよねー。涙目な男はあんまりツボじゃないので(笑)、今回は怒りをもって刺客の目線に揺れるピダムにしてみましたv


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