善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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『第一美花郎比才』第陸話 ミシルの孫娘

すー様に追いつけ!とばかりに更新します。と言うわけで、頂いたコメントへの返信は後程~。

※今回はヨンモ絡みの新キャラが出てきます。完全なオリジナルではなく、例によって例の如く花郎世紀に登場する人ですが、苦手な方はご注意下さい。


* *


 本戦出場を決めたユシン、ピダム、アルチョンがトンマンのところに報告に来た時には、すでにチュンチュはいなくなっていた。けれども散歩をしてきます、とにこにこ笑って立ち去った甥に返すトンマンの笑顔は、もはや最初にチュンチュがやって来た時に見せたものとは明らかに変わっていた。

 チュンチュが去ってからまたすぐに薄絹でその顔を覆い隠したトンマンは、裳を掴む手を何度も握り直しながら苦悩している。ユシンやアルチョンの着飾った姿を見て硬い笑顔を浮かべつつ何とか二人を誉めはしたものの、いざピダムを目の当たりにした途端、もはや彼女の頭にはろくな誉め言葉が浮かばなくなっていた。

「良く……頑張ったな」

 固い口調でそれだけ言うと、トンマンはぎこちない笑顔を浮かべて三人の前から逃げ出した。
 そんなトンマンを見送ったアルチョンは、溜め息を吐いている。

「やはり……ウォルヤ郎が予選で敗退したことに落ち込んでおられるようだな。公主様は負けん気が強くていらっしゃるゆえ」
「……申し訳ない。ウォルヤ郎が本戦に進めなかったのは、妹が横合いから口を挟んだせいだろう」
「……」

 相槌を打つユシンの隣で、ピダムは首を傾げている。

(公主様……悲しんでるのか?)

 ピダムには、トンマンがウォルヤのことを悔しがっているようには見えなかった。彼の目に映る姿には、悔しさと言うより、もどかしさや悲しみが見えた。
 となれば、彼がすることは一つしかない。ピダムはトンマンを追い掛けた。
 ……そんな彼らの様子をミシルが自分の座所から見ていることなど、露知らずに。

 トンマンは喧騒から少し離れた場所で立ち止まると、思いっきり薄絹を上げて息を吸った。鬱陶しい薄絹をなくすと胸はすっきりしたが、鳩尾の辺りはさらに不快になっている。トンマンは、むっと眉を顰めた。
 ちなみに彼女がここまでやって来たのは、あの場にいる限り、機嫌の悪さを隠し通さなければならなかったからだ。――ところが。

「――公主様!」
「!」

 その『不機嫌』の原因が駆け寄ってきた為に、トンマンの眉間にさらに皺が寄った。
 さすがにその皺は慌てて払い除けたものの、ピダムはしっかりとその皺を見てしまったらしい。チュンチュから「公主様の姿を見たら、精一杯誉めて差し上げろ。舞の為に、常より美しく装いを凝らしておられるはずだ」と言われたことも忘れて憂い顔になると、あらぬ方へ向いているトンマンの顔を覗き込んだ。

「公主様? 何かあったんですか?」
「いや……」

 その馴れ馴れしいとすら言える態度の為に今度はソファの眉間に皺が刻まれたが、彼女の後ろに控える女官達ときたら、やれお似合いだと袖を引き合っている。ソファは丸い頬を強張らせて女官達を睨み付けて囁きを一蹴すると、軽く咳払いをした。
 その音で少々我に返ったのか、僅かに顔を離したピダムの瞳を、トンマンはまじまじと眺めた。眺めたついでに、唇がもがくようにして開く。

「ピダム――」

 そして、儚く名を呼んだかと思うと、腹の内で暴れ回る癇癪玉を御しかねてまた口篭る。冷静に、と言い聞かせる頭には、先程のチュンチュとのやり取りが繰り返されていた。



「ピダムとの……一夜……?」

 呆然と繰り返すトンマンに、チュンチュは常よりさらに無邪気な様子で解説した。それこそ、まだ何もわからない子供のように。

「公主様はご存知ないのですか? ピダム郎は近頃はとびきり男ぶりが上がっていて、皆、一夜でも良いからお傍に、と願っているそうです」
「ピダムとか?」

 心底驚くトンマンを見て、ここまで驚かれるピダムを心の中で思いっきり笑い飛ばしてやりつつ、チュンチュはさらにトンマンを煽った。

「聞いた話では、なんでも、ハジョン公のところのユモ娘主が特にピダム郎にご執心だとか。娘主は今回の比才でピダム郎を手にするつもりだそうですよ」
「ハジョン公の娘御が?」

 ――この間、ハジョンの娘ヨンモにユシンを取られたと思っていたら、今度はヨンモの姉のユモがピダムを抱き込もうと言うのか。
 唖然とするトンマンの後ろに控えるソファも、チュンチュの話に目を丸くしている。そして次の瞬間、ソファの表情は深い憂いに沈んだ。ムンノに育てられ、ミシルから引き離されトンマンに従っているとは言っても、やはりピダムはミシルの息子。トンマンに相応しい相手ではない。

「ピダムが……」

 呆然と呟いたきり、トンマンは散り散りになる思考を纏めようと必死になって、唇を噛んだ。けれどもすでに賽は投げられている。トンマンには、それを止める力はない。いや、止めれば、それは公主たる己を裏切ることになる。

(いや、大丈夫だ。ミシルの孫を妻に迎えてからも、ユシン郎は変わらずに私を支えてくれている。ピダムだって……きっと、そうだ)

 例えミシルの孫と婚姻しようと、彼ならきっと――。
 しかしそう納得しようとした瞬間、トンマンは急激に身体が冷えて目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。
 ユシンが婚姻してしまった時は、ピダムが慰めてくれた。相手がミシルの孫だと――姉や自分の人生を捻じ曲げた存在の孫だと考えるだけで無性に腹が立ち、さらにはなんだかユシンが別人になってしまったかのようで寂しくて寂しくて仕方なかったけれども、ソファに抱きしめられ、ピダムに肩を撫でられることで心を落ち着けることが出来た。
 だが、ピダムが婚姻したら。そうしたら……果たして、ユシンの時と同じように安堵出来るのだろうか?



「公主様? 大丈夫ですか? 震えてませんか?」

 はたと我に返ったトンマンは、自分の手を握るピダムを見て、また唇を噛んだ。

(ピダムは優しい。きっと婚姻をしても、こうして私を気遣ってくれるかもしれない。でも、妻となった女人にも優しく接するなら……そのうち、ピダムは私から離れていくかもしれない)

 しかも相手は、ミシルの孫だ。ユモはヨンモと母を同じくするから、セジョンだけでなく、ソルォンの孫でもある。ユシンは頑固者ゆえに色香にも惑わされないだろうが、ピダムもそうだと言い切れるだろうか。
 自然、トンマンの眼差しは厳しくなった。

「公主様?」

 震えながらも睨むように彼を見つめるトンマンを前にして、ピダムは慌てた。

(チュンチュの奴……!! どこが公主様にも見直されるだろう、だ!! 怒ってるじゃないか!!)

 慌てたついでに心の中でチュンチュを蹴り倒したピダムは、繊手を握る手にさらに力を込めて勢い込んだ。

「公主様、この格好はお気に召しませんか? 公主様のお気に召さないなら、今すぐに着替えます。香油でも白粉でも、何でも被ります!」
「え?」

 トンマンは突拍子もない申し出に吊り上げていた眦を緩めると、小さく吹き出してからふるふると首を振った。

「いい。香油や白粉を被ったピダムなんて、見たくない。……それとも、貴族の娘達の間ではそう言った趣向が流行っているのか?」
「どうでしょう。あ! でも、白粉お化けと香油地獄は予選で負けたので、多分、そんなに流行ってはいないと思います」
「白粉お化けに香油地獄? そんなのがいたのか?」
「はい! そりゃあもう、二人して臭い臭い! 傍にいると鼻がひん曲がりましたよ」
「そんなに臭ったのか」

 身振り手振りで花郎達のおかしさを伝えようとするピダムにつられて笑いながら、トンマンはふと思った。
 ――やっぱり、ピダムといると楽しい。心の底から笑える。
 そして同時に、自らトンマンを選んでくれたピダムが、まさか去ってしまうことはないだろうと事態を楽観視したのだった。



 本戦の会場でもある宴席には、すでに切り花を敷き詰めたように色とりどりの裳が並び、各々楽を奏でたり、お喋りに興じていた。その真ん中、審査をする娘主達の中でも一番の上座に座るのは、上大等セジョンの孫娘達である。
 一人はヨンモ、ユシンの妻であり、その右手には母違いの姉妹であるハヒとウォルヒがいる。彼女達の母は、真平王の父トンニュン太子の実の妹。つまり彼女達は真興大帝の孫娘でもあるわけで、華やかであるのも道理である。特に、ハヒは叔父のポジョン贔屓とあって、いつにも増して頬に艶やかさがある。
 ところがその隣に座るヨンモは、気遣わしげな様子だ。その、原因は。

「あら、いやだ。どうしたのよ? その顔」
「お姉様」

 原因――ヨンモの実の姉であるユモは、少し紅潮した頬を隠しもせずにヨンモの隣に座った。母が違うからか、あまり親しくない異母姉妹達に愛想を見せたかと思えば、ヨンモの袖を引いて耳打ちする。

「こんなところで座ってたって、ちっとも面白くないじゃないの。よく平気ねぇ」
「お姉様こそ、どちらにいらしてたの。さっき父上がお姉様を呼びにいらっしゃったのよ」
「あら、やだ」

 さっと袖で口元を隠すと、奔放な姉は妹にとんでもないことを耳打ちした。思わず、ヨンモが息を飲むほどに、大変なことを。

「ホ、ホジェ公と逢ってきた……?」
「ええ、そうよ。鬼の居ぬ間に逢瀬を楽しんで来たの」
「お姉様!」

 ユモが言う「鬼」とは、ホジェの妻ヒョンガンのことだ。昔から、二人の両親――つまりはミシル派の者達とヒョンガンの父ムンノの折り合いが悪かったことからよそよそしい間柄だったとは言え、その夫と私通することは、もはやただの火遊びでは済まされない。

「何を考えていらっしゃるの、お姉様。まさか、ホジェ公を奪うつもりなの?」
「さぁねぇ」

 ミシルにそっくりな顔立ちのユモは、熟した果実よりも甘く甘く父や祖父に可愛がられている。ヨンモより人懐っこくもあり、薄情にも見える彼女はどうやらその愛情を翼に空を翔ぶように奔放に恋を楽しんでいるらしい。

「それより、比才はどう? あなたのユシン郎は勝ち残ったんですってね」
「ええ」

 あなたの、とわざわざ付ける姉の悪戯っ気をつんと顎を上げてやり過ごし、ヨンモは『戦況報告』を続けた。

「それに、叔父様……ポジョン郎とテナムボ郎も残ったわ」
「それは当たり前よ」

 ユモは葦が風に煽られているかのような笑声を立てた後、ホジェとのことを告白した時よりさらに用心深い小声で囁いた。

「ハヒったら、みっともないぐらいポジョンにお熱なんだから。お父様とおじい様、二人掛かりのお説教を受けたって清遊に行きたいに決まってるわ」
「そう」

 こう言う時、ヨンモはあまり熱心な相槌は打たない。思うままに色んな噂話を喋る姉は父に、幼い頃からどこか慎重なヨンモは母の実父に似たらしい。

「ねぇ、ポジョン郎やテナムボ郎に貢ぐなんてバカバカしいと思わない? わざわざおじい様のお金を兵部令やミセンおじい様に恵んで、手にするのは清遊一つよ」
「お姉様……」
「あとは、アルチョン郎? 話しててつまらなそうよねえ、あの人」
「お姉様ったら、文句ばかりね。本当は、ホジェ公がこの比才に出られないから、面白くないんでしょう」
「そうよ」

 余計な見栄は張らないユモはあっさり頷いて、「だから」と口の端を上げた。

「ちょっと、からかってみようかと思うの」
「からかう?」
「ええ。私、公主様が引き立てている新しい花郎を競り落とすつもりよ」
「えっ?」

 ――まさか、ピダム郎のことだろうか。
 戯れに琴を弾き始めた姉を、ヨンモは縋るようにしてたしなめた。

「お姉様、駄目よ。ピダム郎は風月主比才でポジョン郎を破った花郎なのよ」
「それなら、尚のこと落としてやりたくなるわね」
「お姉様……! 悪ふざけでは済まなくなるかもしれないのよ。ね、テナムボ郎にしましょう。おばあ様もきっとそう仰る――」
「あら、璽主様はそうは仰らなかったわよ」
「えっ?」

 ヨンモの丸い頬をつつくと、ユモは先程とは全く色の違う微笑を紅い唇に浮かべた。

「あなたは欲が乏しいわね、ヨンモ。勿論、そこがヨンモの可愛いところだけど……璽主様も同じかしら?」
「――」

 ヨンモがその言葉の意味を理解した時、刻を告げる銅鑼が打ち鳴らされた。


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  1. 2011.02.23(水) _18:27:30
  2. 中篇『第一美花郎比才』
  3.  コメント:4
  4. [ edit ]

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comment

シワ…!

  1. 2011/02/24(木) 00:46:08 
  2. URL 
  3. 椿 
  4. [ 編集 ] 
緋翠様こんばんわー!

お忙しいなか一言だけコメントをw

ソファの眉間の皺っwwすいません、とってもツボなシーンでした!侍女たちが袖引っ張りあってるのわかりますーvお似合いですから(笑)

↑一言じゃありませんけどw

  1. 2011/02/24(木) 01:24:39 
  2. URL 
  3. あつ 
  4. [ 編集 ] 
緋翠様こんばんは!
まず、素晴らしい返信コメ、ありがとうございます!お忙しい中、本当に有り難く、嬉しかったです。また、改めて返信の返信コメ(笑)をさせていただきます。お暇なときで結構ですので、読んでくださると幸いです!

そして!あぁ…やっぱり緋翠様の書く小説は面白いなと改めて思いました!広い知識と深い登場人物分析!本当に勉強になります!

ユシンの妻のユモを出してくるあたり、ナイスセレクト!…そして、アルチョン郎を「話しててつまらなそう」って言っているのが個人的にはツボでした!(笑)

それに、誰よりもトンマンの表情に敏感なピダムに、嫉妬しながらもピダムと話していると楽しくて心が軽くなるトンマン。それに、トンマンとピダムの2ショットに袖をひっぱりあう女官達にその様子に眉を顰めるソファ!私の表現してみたい様子そのものです!

続きが気になる!

椿様へ

  1. 2011/02/24(木) 19:13:12 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
椿様、こんばんはー…って、皺ですか! 狙って入れた部分ではありますが、ツッコミを頂けるとは思っていなかったので嬉しいです(笑)
女官ズも含め、公主時代をこんなにしっかり書くのは初めてなので、ついつい遊んでしまいますねーw

お忙しい中、三言コメントありがとうございます!!(笑)

あつ様へ

  1. 2011/02/24(木) 19:29:31 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
あつ様、こんばんは~。
返信の返信の返信コメント、ありがとうございます!(笑) 忙しいなんて、とんでもない…!文章を纏めるのに時間がかかるもので…って、あつ様の返信を見て、トンマンとチョンミョンを反対にしてるところがあるのに気付きました…orz
うおおすみません…!

知識とゆーか、歴史ドラマを見たらその時代のことについて調べる癖がついている歴史オt…歴史好きなので(笑)、他の方々と毛色が違う部分があるかもしれません。
今回のユモさんも、ホジェのモデルとなったホリムと言う人の後妻になったと知り、登場させました。性格は決めてなかったのですが、喋り出したら何故かあのような感じに…!(笑) アルチョンにも申し訳ないと思いつつも、アルチョンが女性受けがいい話を出来たらそれこそ気味が悪いと言うことで…!(←ホントにファンか)

トンマンとピダムに関しては、わりといつも通りなのでスムーズに書けて、あまり記憶が…(コラ) ただ、ソファの皺があったり(笑)、トンマンがピダムのことをまだ愛玩動物系の生き物として認識してたり、やっぱり公主時代ならではのまったり感が書いてて楽しいですねー(*´∀`)v
二次創作デビュー間近のあつ様にも熱烈にオススメします、この時代を!(笑)


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