善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 血族

まさかの孫子大伝SSです(笑) 慶忌さん&要離さん追悼とも言います。

後程コメントへのお返事と、クリクリ様に頂いたSSを更新します!


* *


 楚の公主との縁談が成った慶忌の周囲は、明日に婚儀を控えて俄にその華やかぎを増し始めた。
 戦場での婚儀は急拵えながらも格調高く行われ、慶忌と霊越は互いの顔すらろくに見ぬままに契りを交わす。友好の証は高貴なる公主の血によって贖われる――そのはずだ。
 陣を見て回った慶忌が婚儀の為に誂えた天幕ではなく自らの天幕へと入ると、物静かに傅く娘がいる。彼女は慶忌が寝台の前で歩みを止めると、すぐさま彼の衣類を解き始めた。
 彼女の名は、蜻。
 それは本当の名ではなかったが、慶忌は彼女をそう名付け、そう呼んでいる。蜻は――彼女は、慶忌が買い上げた下女だった。



 戦場に稼ぎに来る妓女達は、その白い鼻で巧みに戦況を嗅ぎ分ける。そして戦況有利な陣へと近付き、商売をする。
 特に今回のように戦況が膠着している時は稼ぎ時で、大将たる慶忌の下にも美女五人が通された。
 どれも艶かしく、美麗である。妓女達の主も、鼻の穴を膨らませて慶忌に誰がどうのと美しい『品』を売り込んでいる。
 そんな主を見て、慶忌はせせら笑った。
 ――愚かな。
 今、慶忌は楚の公主との縁談を狙っている。こんな時に女遊びを大々的にするほど彼は愚かではない。
 妓女を買えば、噂はすぐさま楚の宮廷へと走る。せっかく有利な戦況を維持して昭王から人質を取ろうと言う時に、下手に醜聞を立てて立場を悪くする理由はなかった。

(だが、ここで何も買わねば、次は吝嗇と囃し立てられよう)

 ならば、と慶忌の目が捉えたのは、妓女達の後ろに影のように従ってきた下女の一人だった。噂の悲運な公子はどのような男かと他の者がちらちらと上目遣いで慶忌を見る中、ただの一度も視線を上げない女。

「ちょうど身の回りの世話をさせる女が欲しいと思っていたところだ。そうだな、その女を貰おう。絹十疋でな」

 慶忌が指し示した女へと皆の注目が集まる。けれども当の本人は、とうとう最後まで顔を上げようとしなかった。慶忌もそれ以上話をするつもりもなく、後のことは部下に任せて立ち去った。

 顔すらわからぬ下女に、絹十疋――。
 慶忌の豪気は益々有名になった。

 その夜、すっかり彼女のことなど忘れていた慶忌は、自身の天幕に入るなり跪く女を見つけて双眸を丸くした。
 ――下女として買い上げたはずが、女は妓女達のように着飾っていたのだ。

「脱げ」

 誰の気遣いにしろ余計なことをしてくれたものだと腹が立った慶忌が、開口一番鋭く命じる。すると、女は慶忌の足元を見つめたまま、恐る恐る着ている物を床に落とし、手早く畳んでいった。従順だったが、何の面白味もない仕種で。

「私が購ったのは下女だ。妓女は要らぬ」

 その思ったよりも華奢で、丸みのある身体に低く告げると、女は下衣姿のまままたひれ伏した。相変わらず慶忌を見ようとはせず、何も喋ることもない。
 それを大して気にすることもなく慶忌が仁王立ちになると、女はすぐさま彼の衣も脱がせて、夜衣を着付けていく。手慣れた仕種は、恐らく妓女達が取った客の世話をしていたからだろう。
 やがて彼女が帯を締めようとした時、慶忌は気紛れに下女の顎を掴んで、顔を上げさせた。傍に置く者の顔ぐらいは覚えておく必要がある。

「――」

 無理矢理上げさせられた顔は、まだ小娘のそれだった。白くつるんとした、とても下女のものとは思えぬ顔。手を掴めば、華奢な繊手に傷がついている。

(……この女、下女に身を落とした貴族の娘か)

 大方、親兄弟が誅殺され、奴婢に身を落とされたのだろう。よくある話だ。
 引っ掛かるのは、貴族で、それなりの美貌を持つ若い女が、何故妓女ではなく下女となったか。その一点だったが、女の身に憐れを覚えた瞬間、欲望が湧き始めた。人にあらざる奴婢かと思えば、王座を取り戻した後の彼の後宮に入ってもおかしくなかった女――。

「帯は良い」

 慶忌は女の手を払うようにして寝台に腰を下ろすと、初めて女を見て命じた。

「裸になれ」

 その命令にもろくに狼狽えるでなく、無言で女は下衣を脱ぎ落とした。またしても丁寧に下衣を畳もうとするのを硬い手が遮り、柔らかな腕を掴み上げる。そのまま腕を引いて女を押し倒すと、慶忌は彼女の白い頚に顔を埋めた。
 久方振りに感じる女の匂いに血が沸き立つ。そのまま荒っぽく胸をまさぐると、狂ったように慶忌は女を貪った。半ば暴風のような慶忌を前にして、女はもう柳のように揺さぶられるばかりだ。
 慶忌も、快楽を求めてはいなかった。ただ衝動に突き動かされて女を抱きしめ、崖から飛び下りるように極みを迎えた。

「名はなんだ」
「……」

 ことが終わった後、すぐさま身体を離した慶忌が彼女を見るでもなく問うと、女は再び平伏した。
 しかしそれだけで、何も答えない。彼女は慶忌に抱きしめられている間も、生娘だと言うのに呻き声一つ上げなかった。

「答えろ」

 権高に命じると、びくりと白い肩が動き、首を横に振って額が床に着きそうなほど小さく平伏した。
 その時、ふっと慶忌の脳裏に閃くものがあった。

「もしや、口が利けぬのか」
「……」

 女は小刻みに震えながらこくんと頷いた。その姿を見て、慶忌はやっと腑に落ちた。

(妓女になった方が稼げるであろう若い女が、何故よりにもよって下女にされているのかと思ったが……)

 口が利けないとあらば、下女に身を落とすのも道理だ。客を取ったところで、騒動の元になるだけだろう。ならば、若い健康な身体は下女にでもして働かせるに限る。
 だが、慶忌は違った。彼は妓女が見せる媚態を必要とはしていない。必要なのは、無駄口を叩かず彼の意に従う女だ。

「ならば、私が名をやろう。――お前の名は、蜻だ」
「――」

 女が顔を上げたのが気配でわかった。初めてまともに感じる女の視線には、肌を露にさせられた時にも見えなかった困惑が潜んでいる。それもまた、初めてまともに見る、その女の生身の姿だ。

「蜻、此方へ来い」

 女の蜻蛉のように軽やかな身のこなし――そこから思いついた名だったが、呼んでみると、どう言うわけだかまるでもう何年もそう呼んでいたかのようにしっくり馴染む。慶忌は僅かに口の端を上げると、細い手首を握って蜻を再び床に縫いつけた。

「祝いだ」

 笑みを含んだ声で囁くと、慶忌は今度は快楽を貪り楽しみ始めた。



 それから、蜻は慶忌に近侍するようになったが、慶忌には蜻に溺れた様子は少しもなかった。彼女に求めることは主に彼の身辺の支度と酌をすることで、余計な話はせず、用事が済めば天幕の外に出される。
 そうして日が過ぎていき、ある日、慶忌が珍しく酔って酌をしている蜻を抱き寄せた。

「今日の酒は上手い。さすがは要離だ」
「よう……り」

 近頃、少しずつ声を出せるようになっている蜻が呟くと、慶忌は機嫌良く喉を鳴らした。その手は蜻の袷を肌蹴させ、白い乳房を撫でている。

「闔閭に妻を殺され、腕も落とされ、私に助けを求めて来た。哀れな男だ」

 蜻の脳裏に、先程天幕の外で見た隻腕の小男が蘇った。何かを求めるように慶忌の天幕を見ていた男――。
 慶忌の愛撫に合わせて閉じた瞼に、不意に奇妙な光景が映った。
 火影の中から現れた黒い腕、鈍く光る刃。刃の先にあるものは……。

「蜻よ。今宵はお前も酔え。要離の酒には、呉の薫りがある」

 要離が用意したのは、楚で買いつけてきた酒だ。それでも慶忌には懐かしい故郷の薫りがした。まだ先王――闔閭に暗殺された慶忌の亡き父が健在の頃、城下で酒を飲む折は決まって要離の酒坊で飲んでいたのだ。

「佳き薫りだ……」

 いつになく多弁な慶忌と蜻は、燃えるような一時を送った。それは、日頃、何事にも動じない慶忌が初めて見せた郷愁の念だったのか。
 いつもは用心深さを隠しもせず、例え肌を合わせた後でも蜻を外ヘと出す慶忌は、その夜、なかなか蜻を追い出そうとしなかった。汗ばんで仄かに暖かい蜻の肌を撫でながら、天幕の上隅――いや、どこかもっと遠い場所を見つめている。

「姑蘇の風は……」

 思わず、と言うようにふと言いかけて、慶忌は口を噤んだ。戦場において感傷を覚えることは命取りだと思い出したらしい。
 代わりに慶忌はつと蜻を見下ろし、告げた。

「私は、お前の父を知っているのか」
「……」

 頷くことも否定することもしない蜻に、畳み掛けるように慶忌は言葉を重ねる。

「お前の言葉は姑蘇の言葉だ。私を落ち着かせる。その言葉で…………お前も私に復讐を望むか?」

 燭の明かりの揺らぐ中、慶忌の双眼が鋭く光った。その眼差しを、蜻はぼんやりと受け止めた。
 生来、蜻は寡黙だった。頭の回転が人より鈍いらしく、慶忌のように打てば響くと言った反応は出来ない。
 だから、あの時――先王を弑した闔閭が宮中で先王に仕えた者達の虐殺を行い、彼女の家族が散り散りになった時も、真っ先に人買いに捕まり、妓楼に売り飛ばされた。そしてそこでもほとんど口を利けない為に下女に落とされた。
 ――果たして、それを恨みに思っているのだろうか。
 蜻はゆっくりと自らに問いかけた。

「……」

 それを、慶忌はじっと見下ろしている。黒目がちな眼には、先程までの甘さはなかった。
 風音が天幕を鳴らす。どれだけの時間が経ったのか、蜻にはわからない。けれども気付いた時、彼女は静かに首を横に振っていた。脇腹の娘である彼女にとって父はあまりに遠い存在だったし、むしろ、没落していく中で必死になって働く日々こそ愛おしい。勿論、今もそうだ。慶忌と言う豪放磊落な主の下で働くことに、彼女は何の文句もない。
 慶忌は再びその眼差しを彼方へと向けた。張り合いのなさを感じただろうに、むしろ、それを喜んでいるかのようにすら見える。

「近いうちに、私は楚の公主を娶る。昭王の姉だ」

 蜻は特に動揺することもなく、頷く。その蜻に再び視線を落として慶忌は告げた。

「心得ておけ」

 何を心得ておくべきなのか、慶忌は明示しなかった。しかし、その手は雄弁に蜻の身体をまさぐり、主張している。楚の物資は奪うように手にしても、援軍だけは……楚の兵だけは受け入れようとしなかった慶忌だ。
 ――私は姑蘇の血を護り抜く。
 蜻の身体を抱く腕に強く力が入れられた時、無意識のうちに蜻は頷いていた。

 それからまた日が過ぎて、とうとう楚の公主の輿入れの日となった。朝から慌ただしく辺りが掃き清められ、蜻も婚儀の床を調えている。秘かに陣を脱け出して探してきた花を生けると、場は一段と華やぎを増した。
 そして、蜻は要離のところへ向かった。今夜の慶忌の身支度は以前のように近衛兵が整え、蜻は要離を手伝い楚の兵達に酒を振る舞う。全て、慶忌が命じたことだ。

「……?」

 ところが、もう日は中天を過ぎていると言うのに、要離は陣にいなかった。どこへ行ったのか、誰かに訊ねたくとも上手くいかない。
 結局、蜻はそのまま要離に会うことはなかった。
 いや、要離だけではない。

『私は間もなく、夫椒山に沈む夕陽を見る。五湖を血の色に染めて沈みゆく、赤い陽を』

 昨夜そう言って、少年のように笑った男の声を聞くことも、二度となかった。

 ――姑蘇に帰るぞ。公子様のご遺命だ、姑蘇に帰るぞ。
 辺りには、彼の兵達の挽歌が響いている。



* *

慶忌さんのキャラ、善徳女王の義慈王辺りに流用したいですねー。ええキャラでした。(※バレバレだと思いますが(笑)、ここに出てくる「蜻」は私が勝手に作ったキャラです)
んでもって、どうやら私は孫子大伝がかなりお気に入りのようです。善徳女王ではありませんが、今のところどのキャラも好きです!
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  1. 2011.02.26(土) _14:53:11
  2. 孫子<兵法>大伝
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