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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 暗香・上

ポジョンを好きなすーさんの回復を願って、(スンマンはいませんが。汗)ポジョン(を始めとするサブキャラ)のお話を!
迷宮シリーズの『螺旋』直後のお話です。


* *


 百済との戦も終わり、一段落ついた頃。徐羅伐では丹桂の花が今が盛りと咲き溢れていた。その噎せ返るような香気は秋の徴となって、夜陰の風に揺蕩っている。
 その風に乗って胡琴の音が響く。虫すらも息を潜めてその音色に聞き入っているかのように、辺りはしんと静まり返っていた。
 宮中の一角、花郎達の演武場で一人、武術の鍛練をしていたテナムボは、その音色に誘われるように演武場を出た。
 音色の響く方へと足を向けると、一歩踏み出す度に丹桂の香りが色濃くなる。その姿は見えないにも関わらず、存在を誇示するように香気の強い花だ。
 テナムボにとって、丹桂の花は、まるで伯母ミシルのような花だった。たった一人の伯母だと言うのに、甥でありながら言葉を交わしたことすらない相手。けれども父ミセンが常に意識し、従い、テナムボの行く末をも左右する存在。彼にとって、伯母はまさしく公主より遠く、しかしながら常にその力を感じさせる存在だった。
 やがて池の畔に辿り着くと、四阿に胡琴を掻き鳴らす人物が見えた。――それは、従兄弟のポジョンだった。

「……何か用か?」

 けれども、テナムボがポジョンを認識した瞬間、ポジョンの手は止まった。それと同時に虫が騒ぎ出し、テナムボはそれに押し出されるようにポジョンの前に立った。

「……音色に聞き入っておりました」

 やっとそれだけ言うと、ポジョンは皮肉げに口の端を上げた。

「叔父上の音に慣れたお前が、私の音に聞き入るのか?」

 テナムボの父ミセンはありとあらゆる楽器に精通し、楽士顔負けの見事な演奏をする。その音色の素晴らしさは隋の使臣にも称賛されるほどで、それに比べれば、ポジョンの胡琴などただの手慰みに過ぎない。
 しかしテナムボは真面目に首を振った。

「父の音とポジョン郎の音は違います。ポジョン郎の音色は力強く、どこか哀しく……心を打ちます」

 一端の評論家のように口を利くテナムボに苦い微笑を浮かべると、ポジョンは再び胡琴を奏で始めた。

「テナムボ郎、合わせてくれ」
「はい」

 ポジョンの横に置かれていた笛を手に取ると、テナムボは父親譲りの見事な腕を披露した。少し武骨ではあったが、鬱屈とした思いの籠ったポジョンの音色に比べて、ずっと素直で実直な響きが重なり合う。

(そう言えば……兄達とは、こんな風に共に楽を奏でたことすらないな)

 身分の違う異父兄や、違う邸で育った異母兄弟の顔を思い浮かべてポジョンは瞼を閉じた。その中でも、先程垣間見たヒョンジョンの姿は中々消えない。
 ――あの兄が、自ら他人に触れるとは。
 チョンミョン公主を後ろ楯につけたことと言い、一体トンマンは何者なのだろう。チョンミョンとヒョンジョン。対立しているとは言わないまでも、明らかに友好関係にはない二人と親密であるとは。

(……親密?)

 いや、親密などと言う言葉で片付けて良いものなのだろうか。一介の郎徒が公主や司量部令と深い繋がりを持っているのだ。それも、見るからにただの臣下と言う扱いではない。チョンミョンはトンマンを隠そうとし、ヒョンジョンはトンマンを抱き上げていた。
 ――まさか。
 不意にとんでもない考えが脳裏を過った瞬間、胡琴の弦が切れた。どうやら強く弾き過ぎたらしい。

「ポジョン郎!」
「大丈夫だ」

 頬を掠めた弦によって出来た傷に手を当てると、ポジョンは忌々しげに嗤った。

「……ポジョン郎?」

 影の濃いポジョンの顔を、テナムボがそっと覗き込む。その視線を避けるようにポジョンは胡琴へと視線を落とすと、その胡琴をテナムボへ差し出した。

「テナムボ郎。すまないが、この胡琴を叔父上に渡してくれないか? お暇な時にでも直して頂きたいんだ。叔父上ならば、この胡琴を天上の音色を奏でるものへと変えて下さる」
「……はい」

 テナムボはまだポジョンのただならぬ雰囲気を不審に思っているようだったが、胡琴を預かるとその場を去った。一人残ったポジョンは、胡琴の代わりに返された笛を弄くりながら、揺れる水面に目を向けた。
 ――トンマンは……もしや、チョンミョン公主とただならぬ仲なのでは?
 特に重要なことだと思ってはいなかったし、何故だかそのことは考えないようにしてはいたが、トンマンが女のように美しい男であることは動かしようのない事実だった。孤閨を囲う公主が慰めにとその閨に招き入れても、何も不思議はないほどに、トンマンは花郎徒の中でもずば抜けた美貌の持ち主なのだ。
 それに、あの身分では絶対に公主の夫になることは有り得ない。徒然の慰めになる私臣に過ぎない相手なら、公主も気が楽だろう。むしろ、身分があれば、話がややこしくなるだけだ。ヨンスを喪って以来チョンミョンが再婚しないのも、大方再び夫をミシルに奪われることを恐れているからだろう。トンマンなら、取るに足らない郎徒だから、奪われる心配もない。

(とすると……兄上は、そこにどう絡んでくる?)

 ポジョンの異父兄ヒョンジョンは、母はポジョンと同じミシルだが、父は廃位されたとは言え、一度は王としてこの神国に君臨した真智王。ヨンスとは異母兄弟になるヒョンジョンなら、チョンミョンの夫になる可能性は十分にあった。

(まさか……兄上は公主の夫になるおつもりか?)

 司量部令として徐羅伐中に目を光らせている異父兄のこと。チョンミョンとトンマンの関係に気付いて、トンマンを抱き込むぐらいのことはしかねない。
 そして、見目は佳かろうと、権力も身分もないトンマンが、徐羅伐で生き延びる為に司量部令の命令に従っているのだとしたら……話は繋がる。
 更に穿った見方をすれば、そもそもあの冷徹な異父兄が公主の愛情を求めるとも考えられないから、トンマンと取引したのかもしれない。そう、例えば……「自分が公主の夫となり副君となっても、お前が公主の傍にいることを許してやる」とでも言って。

(そうだ。これくらい、あの母上に良く似た兄なら、きっと……!)

 小賢しいトンマンとて、自分が公主――いや、未来の王后の情人になれば如何なる利があるか、考えないわけがない。今は主たるユシンに忠実だが、いつかはユシンを蹴落とし、自らが権力の一端を握る算段をしていたとしても、おかしくはなかった。
 チョンミョン、トンマン、ヒョンジョン、ユシン。彼らが繋がっているとすれば……。

(私の取るべき道は……)

 このまま両親に従っていたところで、権力を握るのは上大等セジョンとその息子ハジョン、ハジョンが死ねばその息子達と決まっている。彼らに忌まれているポジョンは、生涯戦場を駆逐し、苦渋の選択を迫られ続けるだろう。同じ両親から生まれた兄弟のいないポジョンは、圧倒的に不利で、孤独だ。
 だが、もしヒョンジョンに賭けたとすれば。父母を同じくする兄弟がいないと言う点において、二人の立場は同じだ。宮中でヒョンジョンの味方が少ないことは、ポジョン自身、その目で確かめている。恐らく、少しでも役に立つ協力者を欲しているだろうことも。

(兄上に……賭けてみるべきか?)

 降って湧いた誘惑にポジョンの心は浮き立った。幼い頃からずっと感じていた閉塞感――その隙間から日の光が射し込んできたような心地だ。
 けれども、ことは重大だった。これは、決して安易に決めて良い問題ではない。

(まずは兄上を探ることだ。兄上が今、何を狙っているのか、調べなければ……)

 高ぶった気を鎮めようと笛を構えると、ポジョンはまた同じ曲を奏で始めた。
 しかし、その音色にはもはや哀しみはなかった。あるのは、若い血潮を思わせる、力強くも、どこか脆い響きだけ。
 その夜、丹桂の香りと共に、笛の音は宮中を漂い続けた。




***

迷宮シリーズ本編はどうしてもトン&ピ中心になるので、たまには番外編でサブキャラを取り上げられたらなーと思ってはいたんですが、すーさんダウンを聞いて、私の中でポジョンが目覚めました…!
すーさんのポジョンのような色っぽさは欠片もありませんが、少しでも癒しになりますように。

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  1. 2011.03.26(土) _09:56:46
  2. ダーク連載『迷宮』
  3.  コメント:4
  4. [ edit ]

<<3月24日と25日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | 小ネタ『ぶつぶつ交換』>>

comment

ポジョンが奏でるのは……

  1. 2011/03/26(土) 16:43:22 
  2. URL 
  3. すーさん 
  4. [ 編集 ] 
胡琴も笛もよい音色のようです~

渋くていいです!
目がハートになりました

花朗大会で笛は吹かしましたが胡琴まで……

大変ムードがあって、さすが緋翠様!!!

拍手いたしますぅ~(拍手ポチもしたした)

うちのポジョンだと奏でるのはスンマンで、指使いは同じ………げふん、ごほん(自粛)

いや、渋いポジョンにも妄想が溢れてしまいます

きっとスンマンに出会わなければ出生の鬱窟や上には登れない未来など閉塞感を感じまくってたよなぁ~………などと

何故かそういうポジョンが愛しい私は、なんなんでしょうね?

私の愛は?

  1. 2011/03/26(土) 23:50:25 
  2. URL 
  3. げん 
  4. [ 編集 ] 
緋翠様 こんばんは

苦み走ったいい男だね~ポジョン!と言いたくなりましたねー渋いです!

ミセンの100人の子供代表テナムボも出てきて嬉しかったです。チュンチュ初登場時のお子ちゃまチュンチュに翻弄されるテナムボのやりとりがなかなか楽しかったのに…脚本上抹殺の憂き目にあってたから…そしてポジョンとテナムボ、確かミシルの乱で城脱出時に一緒に見ただけでめずらしい絡み方で新鮮でした

丹桂の花は伯母ミシルのような花…
将棋の格言に『桂の高跳び歩のえじき』というものがあります。桂は前に進むことのできない駒なのですがむやみに跳ね出すと一番弱い歩という駒のえじきとなるという警告です…
丹桂と桂はちと違うんですけどー思い出しました

最後に…この間のコメントで次迷宮シリーズのタイトル間違えてました…すみませんー


すーさん様へ

  1. 2011/03/27(日) 12:40:43 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
すーさん、こんにちはーv

ポジョンに対する私のイメージに、「文武両道、芸術面もマスターしている超優等生」と言うのがあるんですよー。なので、今回も優等生っぷりを惜しみなく発揮してもらいましたw
って、し、渋いですか!?おおう…!渋いと言って頂けるとは思ってなかったので、びっくりです。ありがとうございます!拍手もありがとうございます!(笑)

実はですね、私の中で、弦楽器を惹く時の指使いって、色っぽい人は色っぽいよなーと言うイメージがありまして…(←なんだそりゃw) 特に、琴とかじゃなく、ウッドベースとかその辺だとより色っぽいなあと思って、今回胡琴を選択しました。妄想過多ですねーw
このシリーズだとスンマンが出るのはまだまだまだまだ先ですが(しつこい)、スンマンなしのポジョンの閉塞感をデキル男っぷりをなんとか表現出来たらいいなと思います。すーさんの愛を奪えるように!!!(え)

げん様へ

  1. 2011/03/27(日) 12:52:14 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
げん様、こんにちはーv

すーさんに引き続き、げん様からも「渋い」と言って頂いて有頂天になりそうですw 私の中の理想のポジョンは、どうやら渋いんですね…!
テナムボとの絡みは、一度書きたかったんですよー。サダハムの梅エピソード辺りでテナムボがミシルの護衛に抜擢されて、「ポジョンを追い抜け」と言われるシーンがあるんですが、二人は従兄弟同士で同じ十花郎でもあり、きっとあれこれ話もしただろうし…と妄想を膨らませてみました。
テナムボのキャラクターは、後々チュンチュに振り回され抹殺されることもイメージしつつ、生真面目さと少し気弱なところを第一に押し出したいなーと考えていますv

丹桂の花って表記したのは、金木犀のことを中国では「丹桂」と言うと知ったからだったのですが、将棋の格言を連想して頂けたとは!!うわー、確かにミシルっぽいですね…!
普通、ミシルのように艶やかな美女と言うと牡丹とかそっちなのかなあとも思ったのですが、少し離れた位置にいる者から見ると、その香気(存在感)が常に感じられる人物でもって、どこか息苦しさすらあるような香りがいいなあと金木犀を選択しました。

迷宮シリーズの次のタイトルは、書き始めたら変わるかもしれないのでw、お気遣いなく!!わざわざありがとうございますーv


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