善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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『第一美花郎比才』第玖話 芽吹き

なかなか結果発表に辿り着きません…(汗)
このダラダラ連載にお付き合いくださる皆様、ありがとうございます!


* *


 本戦を終えた後、やっと自由の身になったピダムは、剣とは違って返さなくていいと言われた紗を手に、池の畔でしゃがんでいた。

「斬らなかったな」

 そこへ、刃のように鋭い声が落ちてきた。顔を上げなくても、誰かはわかる。

「煩い」
「おまけに、「公主様」に捧げるなんて。前々から思っていたが、お前は公主様が絡むと本当に愚かだな」
「……斬られたいのかよ、クソガキ」
「ああ、あの犬は斬ってもらいたかった。そうすれば、テナムボなど歯牙にもかけずに済んだのに」
「おい」

 そこでピダムは立ち上がると、チュンチュの胸ぐらを掴み上げた。

「お前、わざと犬を公主様にけしかけたな? 本当は、俺にけしかけるはずだったのに」

 ピダムは唇を歪めるようにして嗤っていた。激昂している証の嗤い顔を崩さぬまま懐に手を入れ、小さな布袋を掴んでチュンチュの前に翳して見せる。

「この匂袋も偽物だな」
「ご明察だ。少し、気付くのが遅かったようだが……」
「おい」

 ピダムの怒りに震える顔を見ても微笑しているチュンチュに、ピダムの顔からは嗤いすら消えた。

「どう言うつもりだ? お前、公主様を危険な目に遭わせたかったのか?」
「……」



(た、大変だわっ!)

 一方、ピダムとチュンチュは二人きりだと思い込んで話をしていたが、実はその時二人がいる庭園の繁みには、兄ユシンのところへ遊びに行こうとして、偶然二人の会話を耳にしてしまったムニが隠れていた。殺気立った様子の二人にただならぬものを感じたムニは、植え込みの影からそっと二人の様子を窺った。

「お前に危険が及ぶより、その方が劇的だろう? 大体、最初に私がもっと穏やかな舞だの歌だのを勧めても頷かなかったのは、ピダム、お前じゃないか。どうせ同じことをするなら、より効果的な状況を選ぶべきじゃないのか?」
「お前……っ!!」

 ――あの犬は、事故じゃなかったの?
 驚いたムニは、これは兄に知らせなければと後退りした。

「うきゃっ!」

 ……が、日が落ち辺りが薄暗い為か、振り返って走ろうとした瞬間に石に躓き、奇声を上げて頭から転んでしまっていた。
 その悲鳴には、ピダムのみならず、さすがにチュンチュも気付いた。つと、チュンチュの瞳が虚空へ向く。

(……女なら、誤魔化すのは私の役目かな)

 チュンチュはちょんちょん、と指先で自分の胸ぐらを掴むピダムの手をつつくと、小声で「下ろせ」と囁いた。

「あ?」
「比才が終わるまでは揉め事は起こさない方がいい。私が丸め込むから、行け」

 ぼそぼそ告げると、急に息が楽になった。去り際に「覚えとけよ」と小声で噛みついてきた推定年齢三十歳の男がいなくなるのを見て内心安堵してから、さて、と繁みの向こうへ回り込む。そこには、一張羅を泥で汚して泣きべそを描いている少女がいた。とりあえず、チュンチュの顔見知りではない。

「大丈夫? 怪我をしたの?」

 優しく話しかけ、そっと手を差し伸べる。チュンチュはこの少女を知らなくても、少女はチュンチュを知っているか、いずれ知る可能性が高いからだ。
 しかし、そこで予期せぬことが起こった。

「膝を擦りむきました。でも、何の罪もない犬を殺すつもりだった方に、触られたくありませんっ」

 なんと、少女はチュンチュの手と顔を交互に睨み、彼の申し出をはね除けたのだ。チュンチュ十三歳、女にふられたのは、これが初めてだった。
 が、チュンチュもすぐに作戦を立て直し、少女の鼻に手を伸ばした。

「触らないでくださいーっ!」
「ごめんね、泥だらけのお嬢さん」

 逃げようとする少女の柔らかい頬をぶにっと掴むと、チュンチュは少女の顔に付いた泥を全て落としてやった。頭から突っ込むように転んだのか、顔中どころか、髪にも泥が付いている。
 それを見て、どんくさい子だな、とチュンチュは内心呆れた。いくら元の顔が可愛かろうと、この鈍重さでは何をするにも失敗してばかりだろう。
 けれどもそんな感想はおくびにも出さずに、チュンチュは少女に合わせて身体を屈めて訊ねた。

「ところで、君はどこのお嬢さんなの? ご両親は?」
「名前を聞く時は、まず自分から名乗るものです」
「……」

 その瞬間、チュンチュは初めてピダムのように、「このクソガキ」と毒を吐きたくなった。私はピダムとは違う、と堪えたが。

「失礼した。私はキム・チュンチュだ。君は?」
「キム・ソヒョンの娘、ムニです」
「……ユシン郎の妹か」
「はい」

 そこで、少女――ムニは、どうだと胸を張った。自慢の兄らしい。
 チュンチュも思った。確かにこの鈍重さはユシンそっくりだと。

「あ! そうだ、見つかったから、言っちゃいます。公子様、命は玩具じゃありません!」

 そして、これまた兄そっくりなお説教をムニは始めた。兄妹揃って、チュンチュにする話はまずお説教らしい。

「犬でも人でも、血が出たら痛いんですっ。簡単に……それも、あんな風に公主様を危険な目に遭わせて、おまけに犬を斬らせようとするなんて、公子様はお顔は綺麗でも、性根がひん曲がり過ぎですっ!! 不細工ですっ!」

 頬を上気させながら一息に捲し立てると、ムニはその円らな瞳でチュンチュを睨んだ。ユシンにそっくりな表情だと言うのに、まるで仔犬に噛みつかれているようで可笑しくなって、チュンチュはぷぷっと笑った。その笑顔は幼く、ムニはハッと息を飲んだ。
 ――この方がこんな風に笑うのを、初めて見た。
 チュンチュは口元を押さえて笑いながら、ムニを見下ろした。

「面と向かって不細工呼ばわりされたのは初めてですよ、娘主」
「おっ、お子様扱いしないでください……! わたし、もう七つですっ」

 いきなり言葉遣いが丁寧になったことに面食らってどもる少女に、チュンチュは益々可笑しくなった。
 ――七歳? 丸切り子供じゃないか。
 まさかそのどんくさい子供が後々彼の王后になるとは考えもしない少年チュンチュは、彼に三つも「初めて」を経験させてくれたムニに、真面目に語りかけた。

「そうだ、娘主」
「な、なんですかっ」
「お忘れのようだけど、あの時、私は公主様の隣にいたんだ。……ピダムが犬を斬らなければ、公主様ではなく、私が襲われていたかもしれない」

 ――何せ、犬を引き寄せた匂袋は、私と公主様の間に置いていたのだから。
 チュンチュの言葉に、ムニの瞳は望月のように丸くなった。咄嗟に何か言い返そうとするも、何も浮かばない様子だ。

「じゃあね、お嬢さん」

 先程引っ張った丸い頬に羽毛のような口づけを残して、チュンチュは立ち去った。
 その後、生まれてこの方家族以外の男に触れられたことのなかったムニは、頬を両手で押さえ込んだまま、姉が捜しに来るまでその場に立ち尽くした。……チュンチュに上手く丸め込まれたとムニが気付いたのは、全てが終わった翌日のことだった。



 一方、ピダムは宴の席に戻る気にもなれず、トンマンをはじめとする貴賓に宛がわれた宮の周辺をなんとなく彷徨いていた。本戦が終わった後、トンマンはすぐにこの宮に引っ込んでしまい、それ以来姿を見ていない。

(犬に襲われそうになるわ、俺が先に剣舞を舞うわ……公主様に嫌われるようなことばかりしちまった)

 ――もし怒っていたら、どうしよう?
 本戦の前も、トンマンはどこかよそよそしかった。例え集まった女達に好かれて比才に勝ったとしても、肝心のトンマンに厭われては、何の意味もないではないか。

「ピダム郎」

 その時、うろうろうろうろと衛兵が不審がるくらい落ち着きのないピダムに、思いもよらぬ人物から声がかかった。耳にした声が信じられず、呆気に取られること数秒。気付いた時には、彼の隣にはミシルが立っていた。

「今日は懐かしいものを見ました」
「え?」

 驚くピダムにちらりと振り返り、ミシルはどこか遠いところを見つめた。

「国仙の剣舞……。もう、見ることはないと思っていたものです」

 ミシルの表情は、ピダムにとっては意外なものだった。我が子を捨て、過去を振り返らず生きていると思っていた母が今見せている顔は、まるで自分のもののようで――。

「……私が国仙の弟子だと、認める気にでもなったんですか?」
「認める?」

 感傷を上手く言葉に出来ず、全く関係のないことを聞いたピダムに、ミシルはいつも通りの表情を取り戻した。

「あれが、国仙自らお前に教えたものであると言うなら、確かにお前は国仙の愛弟子だな」
「――」

 そして、ミシルのその一言に、今度はピダムの顔が凍りついた。

『師匠の全てを習いたいんです!』

 いつからか、ムンノはピダムに自分の全てを教えようとはしなくなった。剣舞も、いくら頼んでも教えてはもらえなかった。だから――結局、ピダムは盗み見て、一人で覚えた。

(愛弟子……)

 ムンノは確かにピダムを花郎として認めてくれた。そのおかげで徐羅伐の花郎になり、ユシンと同じ立場でトンマンに仕えることも出来た。……だが、ムンノはピダムが彼からあらゆるものを盗み覚えていたことは知らないまま、死んでしまった。もう、それを伝えることすら出来ない。一生、ピダムはムンノへの罪悪感と……行き場のない苛立ち、哀惜を独りで噛みしめなければならない。
 ピダムの表情が変わったことを見て取ったミシルは、ムンノが消えたことに対する疑念を再び蘇らせた。確かにムンノは神出鬼没、掴もうとすればすり抜ける風のような男だったけれど――。
 さすがのミシルも、ムンノが殺されたとは考えていなかった。誰かに殺されるような男なら、自分達がとっくに殺せているはず――ミシルはそう信じて疑わなかったし、ムンノが殺されるほど衰えたとすれば、即ち、それは同じ時代を生きてきたミシルも衰えたと言うことになる。それだけは、認められなかった。

「先程は、私の孫娘が驚かせましたね」
「え?」

 ムンノの話は利にならないと本能的に察知したミシルは、素早く話題を切り換えた。

「手を叩いた娘はハジョン公の娘――このミシルの孫娘です」

 そしてその声は、シンガンに促されて宮を出てきたトンマンの耳にも届いた。自然と、その足は止まっている。

「妹のヨンモはユシン郎に嫁ぎましたが、姉のユモはまだ独り身です。閨を慰める男が美しい花郎であれば、祖母としては喜ばしい限り」
「な……」
「……」

 トンマンとピダムは、ミシルの言葉に全く異なる理由から息を飲んだ。
 ――俺は、そのユモとか言う女の叔父で、あんたの息子だぜ。
 真実を知ってか知らずか、実の母としてはあまりに無神経な発言にピダムは頬をひくつかせた。
 ――ミシルは……ユシン郎の次は、ピダムを抱き込むつもりなのか。
 ユシンを婿に迎える時には、「若ければ、このミシル自ら抱いてやったものを」とまで言い放ったミシルだ。おまけに、先程の振る舞いを見る限り、楚々としたヨンモと違って、ユモはまるでミシルのようにピダムに対して「女」の眼差しを向けていた。……「女」の眼差しなどよくわからないトンマンだが、とにかくそう見えた。
 トンマンとピダムが硬直する中、恐らく始めから気付いていただろう気配に、初めてミシルは振り返った。

「公主様」
「!」

 その一言にパッとピダムが反応したのを見て、ミシルは二人の見えないところで口の端を上げると、一礼してさっさと立ち去った。

「公主様!」

 ピダムは慌ててトンマンに駆け寄った。ミシルと話しているところを見られるなんて、と気持ちが勝手に逸る。ミシルに通じているなどと言う誤解だけは、されたくなかった。

「……」

 しかし、トンマンはピダムの呼び掛けに答えなかった。若干唇を尖らせて、ミシルの背を睨んでいる。

「こ、公主様……?」
「……ピダム」
「はい」

 やっとピダムの名を呼びはしたものの、それ以上口を開くと予期せぬ言葉が飛び出してきそうで、トンマンは口篭った。結局トンマンに出来たのは、化粧が崩れないように足早にピダムから離れることだけだった。


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  1. 2011.04.14(木) _18:41:33
  2. 中篇『第一美花郎比才』
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

<<4月14日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | 『第一美花郎比才』第捌話 本戦・下>>

comment

  1. 2011/04/16(土) 13:10:05 
  2. URL 
  3. げん 
  4. [ 編集 ] 
こんにちは!

弱冠十三歳早熟少年Tと推定三十歳暫定大人の男P。
二人が並んでタメ口きいてても違和感無いのはこれも役者さんの並びの関係でしょうか…

聞かれちゃまずいお話をムニに聞かれてしまって私の出番とPいるとややこしくなるからさっさと去っちゃって後は私が穏便に丸く収めるからーとチュンチュ。それでいいのかピダム…ガキにはガキをーめんどくせーことはよろしくな!な感じと取れもするけれど…やっぱり残念だぞ…

洞察力鋭いミシルママの前ではいっぱいいっぱいになっちゃって、トンマンの気配に見られていることにも気がつかないなんて駄目だろう…ピダム。ああますます…

「三十にして立つ」というんだぞ!ピダム。
でもおばちゃんは実はアカン子ほど好きでもあります…むしろチュンチュにはいつかそのうちムニの掌でコロリンコロリンと転がされてほしいかも…
でもあの微笑を前にするとおばちゃんの方がコロリンと転がされてしまうんだろうな…
なんてこと考えながら読んでしまいました…

続き楽しみにしてます!

げん様へ

  1. 2011/04/17(日) 10:21:57 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
げん様、こんにちは~v

書いている時は特にダメなPを意識してはいなかったんですが、こうしてまとめて頂くとダメダメですね!(笑) うーむ…もはや私の中ではダメなPが当たり前のものとして定着してしまっているのでしょうかw
どっちかというと、自分も子供なくせにムニを子供扱いするTをツッコミ対象として意識していたのですが……P、恐ろしい子…!(コラ)

TとPがお友達に見えるのって、確かに変ではありますよねー。実年齢的に(Pすまぬw) 年の離れたお友達って言うのも世の中あるので、それを意識してはいるのですが…もう少し大人っぽさが欲しいのも事実ですね。トンマンにはたまに包容力満点なのに、どーしたもんかと思います(笑)

Pとママンの語らいについては、ドラマのPとママンの会話は気持ち悪いものが多かったので(コラ!)、自分なりの二人のイメージを踏まえて書いているのですが、果たしてドラマと違っているのか、段々自信がなくなってきました(笑)
とりあえず、ママンは常に余裕たっぷりですねw

チュンチュとムニに関しては、ポリャンが難産で早死にしちゃった後(花郎世紀情報です)、幼い娘を抱えたやもめチュンチュ(二十歳過ぎ)にムニ(十代半ば)が押し掛け嫁して結婚するイメージを持っています。
ムニを「夫に捧げるのは愛と野心と子供」なキャラで考えているので、チュンチュも貴公子然と接し続けたポリャンと違って、ムニには気付いたら素で接してた、みたいな関係になればいいなーと。子沢山な夫婦ですが、ラブラブとはまた違ったカラーを目指したいですw

続き頑張ります!


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