善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 永遠無窮の

第一美比才の番外編、ポジョンのお話です。
『花郎世紀』ベースで、ポジョンの妻が出てくる上に、ポジョンの性格が結構悪い気もするので、すーさんのスンポジ好きな方はご注意ください…!


* *


 身形を整えたポジョンが表に出ると、見覚えのある老女が彼を待っていた。彼女が差し出したのは、紫の花を咲かせた無窮花の枝。それを受け取ったポジョンは、ほんのりと香るその花を暫し眺めてから、静かに返事をした。

「承知しましたと公主様にお伝えください」



 ポジョンが「公主様」と出会ったのは、彼が少年だったある秋のこと。将来を嘱望される者のみが許される真骨花郎の座を経て、見事に副弟に昇格した彼の初仕事が、「公主様」の華やかな清遊のお供だった。

「なあなあ、公主様のお姿は見れたか?」
「いや、まだお姿は……。でもお声は聴いたぞ。綺麗な声だった」

 ポジョンと一緒に清遊にお供するのは、彼と同じように、貴門花郎や貴方花郎と言った名門子弟のみが就ける地位にあった、ピルタンとワンユンだ。二人はポジョンが副弟に昇格する前に十花郎になっていた為に、供に選ばれた。が、十花郎の中でも彼らが選ばれたのは、なんでも、「公主様」が「桔梗を見に行くのだから、桔梗色の装束を纏う花郎を供につけて」と言ったかららしい。そうと聞いた時から、ポジョンはこの任務が嫌で嫌で堪らなくなった。

(まるで、ハジョン兄上のように高慢だな。やっぱり、殿君や公主と言ったお偉方には、ろくな人間がいない)

 物静かに馬を進めつつも、勝手に顔は捻じ曲がっていく。いつもなら一緒にいる彼の腹心ソクプムもいないせいか、愚痴を吐き出す場もなく、ポジョンはどんどん不機嫌になっていき、案の定、南山の野に着いてもその顔は一向に綻ばなかった。
 とは言え、ほんの数日前に嘉俳を終えたばかりの今、南山の野は爽やかな風に吹かれて訪れる者を楽しませる。桔梗、萩が野を覆い、木陰には秋桐がそっと彩を添えていて、紫が目にも鮮やかだ。紗を垂らした笠を被った公主も表に出て、宮女達に何やら命じている。その場にいたら、己もそれに借り出されそうな気がして、ポジョンは一行から離れた。
 南山は、ポジョンにとっては幼い頃から慣れ親しんだ山だ。幾度も訪れ、時に祭祀を、修行を、清遊を行ってきた。この山について知らないことは、ほとんどない。
 ところが、やっと一人で思索にでも耽ろうかと考える彼の背後から、何やら草を踏み分ける音が聞こえてくるではないか。それも、困ったことに、女だ。

(……またか)

 兵部令と璽主を両親に持つポジョンは、本人の意思とは関係なく、女人に持て囃された。遊花も宮女も、己の容貌に多少なりとも自信がある者は必ず彼の袖を引く。十を過ぎた頃からそんなことが繰り返され、うんざりした彼は、今ではすっかり女嫌いになっていた。自然、誘い水をかけてくる女人への対応も、どんどん険しくなっていく。

「ポジョン郎――」
「お断りします。お引取りを」

 だからか、その足音に向かって振り返った時、ポジョンはとてつもなく凶悪な顔をしているはずだった。――ところが。

「無礼者!! 公主様になんと言う口の利き方を!」

 何やら嗄れた声で怒鳴られて、違和感を覚えて振り返ってみれば、宮女の筆頭、白髪混じりの乳母が、眦を釣り上げて彼を睨んでいた。その、さすがのポジョンもたじろぐほどの鬼の形相を浮かべた乳母の隣には、確かに公主が佇んでいる。どうやら、二人でポジョンを追いかけてきたらしい。
 が、公主の姿を見ても、ポジョンの表情には大きな変化はなかった。公主だろうが乳母だろうが、女は女、嫌なものは嫌だ。

「公主様とは知らず、無礼を働きました。お許しを」

 そんなわけで、ぞんざいに聞こえないよう気をつけながら謝ると、ポジョンはさっさと立ち去ろうとした。しかし、ポジョンの足はすぐに止まった。

「貴方は、私の護衛に来たのではないのですか……?」

 早春の夜に咲く梅花のように馨る声――。思い描いていたものとはかけ離れた柔らかい声音に、仄かに匂う白梅の香りに導かれるように、ポジョンは振り返った。

「護衛を、頼みます。ポジョン郎」
「……はっ」

 言い返そうにも公主の言うことは正論だったので、ポジョンは姿勢を正して一礼した。

「参りましょう」

 公主は一歩前に出ると、近くにある桔梗が咲く苑に爪先を向けた。そこには、用意させてあったのか、丸椅子が一つ置いてあって、公主はポジョンの手を借りてそこに座した。公主らしい、白魚のような指先は、必要以上に彼に触れようとはしない。
 公主の横に立ったまま、出来る限り笠の内の公主を見ないようにして、ポジョンは時が過ぎ去るのを待った。
 すると、ふとそよ風が紗を揺らした時、公主が呟いた。

「……実は、今日は璽主に頼まれて、貴方をお呼びしました。貴方は、女人を近くにお寄せにならないそうですね。それが、璽主の悩みの種だとか……。……何ゆえですか?」
「――」

 言葉と声は美しくとも、単刀直入な物言いはポジョンをたじろがせた。確か、公主は彼とほとんど年も変わらないはずなのに、深窓で育ったせいだろうか、妙な威厳がある。

「まだ……一人前とは言えない私が、誰かを妻にするなど、考えられません」
「では、いつになれば、貴方は一人前になり、婚姻を考えられるのですか」
「それ、は……」

 ――汚れ仕事などせずに済むだけの地位を獲、異父兄を蹴落とした時。
 そう心の内で紡いだ瞬間、視線を感じてポジョンは顔を上げ、瞠目した。紗越しに、微笑を含んだ眼差しが彼の隠された想いを見つめていた。

「っ……」

 息を飲むポジョンからまた視線を逸らして、公主は歌うように語った。

「貴方も、ご存知かと、思いますが。私は、公主ですが、皇后の御子ではありません。ゆえに、夫となる方は、聖骨でなくとも良いのだそうです」
「……」
「されど……公主と生まれたからには、やはり、公主と言う身分を活かすことの出来る婚姻をすべきだと、思うのです。公主の名声を欲する殿方を、夫にお迎えしたいと。……もちろん、私一人が望んだところで、叶うことではありませんが……璽主の願いに添えば、叶うこともあります」

 そこまで言われれば、ポジョンにも公主の話はわかった。けれど、頭が追いつかなかった。皇后所生の公主ではないとは言え、眼前にいる公主の母ポミョンは、あのセジョンと同じ、故チソ太后の産んだ公主だ。血筋の良さで言えば、マヤ皇后の産んだチョンミョン公主と比べてもさほど劣ることはない。
 と、次の瞬間、ポジョンの緊張と困惑を吹き消すように、公主が笑声を漏らした。

「……と言うのが、表向きのお話」
「は……?」
「裏向きのお話はね、もっと簡単なことなのです。……実は、貴方の操に、璽主が賞金をかけたの」
「!?」

 ポジョンが驚愕して何も言えずにいると、くすくす笑いながらも公主は話を続けた。

「近頃、どなたかに、袖を引かれた覚えは……?」
「あります、が……」
「けれど、それも成果がないからと、璽主が痺れを切らしたそうで……。思案の末、璽主に頼まれた母上が、私に今日のことをお命じになったのです」
「左様、です、か」

 確かに、ポジョンは兄達や仲間の花郎達とは違って、婚姻もする気はなかったし、公主の誰かの私臣になるつもりもなかった。それを苦々しく思った両親に叱られることも度々あったが、まさか、操に賞金がかけられているなどとは考えなかった。
 不愉快な一方で、幾ら皇后腹の公主ではないとは言え、れっきとした真骨正統の公主の……それも未婚の公主の私臣ではなく夫になることには、彼も魅力を感じていた。異父兄ハジョンですら、そんな幸運は味わっていない。

「……まだ、お話ししましょうか?」

 ふっと微笑を浮かべる公主を見つめて、ポジョンは冷静に思考を回転させた。
 ――しっかりした女人のようだし、何より、私の出世の役に立ちたいと言っている。これ以上の良縁はない。
 不安なのは、彼自身がどれだけ結婚生活に耐えられるかだが、とにもかくにも、一度くらいは結婚しなければ父も母も黙っていないだろう。父の家も母の血統も、嗣ぐ者は他にいるのだからポジョンが無理に頑張る必要もないのだが、特に父ソルォンはポジョンが子を儲けることを待ち望んでいる。ポジョンに娘が生まれたら、きっと祖母に似て美人だろうに、と酔った時にボヤいていたと、叔父ミセンから聞いたことがある。

(……まぁ、公主様も、どうせ私の他に私臣を置くだろう)

 公主が私臣を持ち、その者と懇ろになるなんて、良くある話である。

(どう転んでも、私に損がないなら……結婚するか)

 ――と、その日、ポジョンは顔すらまともに見たことのない公主との婚姻を決心した。



 そして、十数年が経ち。ポジョンの予想通り、二人の結婚生活は、二人の娘を儲けた後に破綻した――もとい、ポジョンが破綻させた。

「お呼びと伺いまして参上しました……『夫人』」

 第一美比才の後、夜陰に紛れてリャンミョン公主の室を訪ねたポジョンは、白梅の香りが漂うそこにいるモジョンを見て、軽く微笑んだ。
 モジョンは、ポジョンにとっては憎らしい異父兄ハジョンの息子でもあるが、可愛い甥でもあり、妻リャンミョン公主の私臣でもある。とは言っても、互いに愛憎渦巻く関係と言うわけではない。モジョンは彼ら夫妻を慕っていたし、そもそも彼はリャンミョン公主が自ら選んだ私臣とは言えなかった。全てを仕組んだのはあくまでポジョンで、彼は夫婦仲を形骸化させる為に、半ば強引に妻と甥を結び付けたのだ。ちなみに、後にリャンミョン公主がモジョンとの間に儲けた息子リャントは、ポジョンの血を受け継ぐ異父姉と婚姻し、ポジョンの後継者となる。
 そのモジョンが心得顔で退出すると、珍しく一夜を共にすることになった仮面夫婦の妻は、早速話に入った。二人とも、今さら躯で話をする気もない。

「私に年若な殿方を宛がうのは、構いませんが……まだ幼い娘に年長の殿方を宛がうなんて、早過ぎると、思いますが」

 まさか愛娘が親と言っていい年齢の男を落札するなど夢にも思わなかったらしく、公主の機嫌はいつになく芳しくない。それを長続きさせるつもりもないポジョンは、一気にことのあらましを語った。
 すると、公主は茶器を傾け飲み干してから、濡れた唇だけ、にっこり笑ってみせた。

「将来の婿殿に、体よくあしらわれていらっしゃいますのね。情けないこと」
「……は」

 が、いくらなんでも常ならばこうまで厳しい言葉を口にする公主ではない。モジョンがさっさと消えたことと言い、何やら怪しい雲行きを感じ取ったポジョンは、己の前にある茶器をそっと持ち、中身を改めた。一見すると白湯に見えるが……。

「っ」

 ――酒じゃないか、これは!
 真っ青になる夫ポジョンの前で、妻はぐいぐい酒を継ぎ足し、手酌で飲み干していく。その手つきには、日頃の淑やかさは見られない。端的に言えば、リャンミョン公主は酒に弱い上に、酒乱と呼ばれる部類に入る女人なのだ。

「夫人、もう止めておいた方が宜しいのではありませんか」
「あらぁ、なぁに、ゆえ?」

 しゃっくりをしながらなんとか唇を開くと、リャンミョンは立ち上がろうとしてよろめいた。それについ手を差し出してしまったポジョンは、妻の腕に捕獲され、身動き出来なくなっている。

「貴方のことですもの。今宵もまた、どなたかに、私を預けるおつもりなのでしょ。……れも、私が酔った時には、逃げ出しません。律儀ね」

 時折呂律をおかしくしながらも、リャンミョンはぐいとポジョンの顎を引いた。

「貴方と、ハヒ娘主の清遊は、私が潰します。……よろしくて?」

 どうやら、滅多に飲まない酒に手を出した本当の理由はそれらしい。そうとわかると、ポジョンは妻の躯を横抱きにして、ゆっくり寝台に下ろした。

「夫人。ハヒ娘主のことはヨムチャンに押し付けるつもりでした。金満家の彼なら、金伍仟両も払えますから」
「そう言えば……私も、昔ヨムチャンに押し付けられましたね。……貴方は、要らぬ女人の始末が、とてもお上手ですね」
「……」

 ――その、笑うに笑えない冗談の後、この夫婦がどのような夜を過ごしたのかを知るのは花瓶に生けられた紫の影だけだった。




*****

ポジョンの夫婦ネタはもう少しほのぼのするのかと思っていましたが、いざ書いてみたら、こんな感じになりました。
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  1. 2012.05.09(水) _18:00:00
  2. 中篇『第一美花郎比才』
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