善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 春駒の野

先日の記事で呟いたソルォンのお話ですー。
た、ただ、ソルォンと言うより、若き日のミシル一派みたいになっています。また、今回も人間関係がややこしいです。すみませぬー(汗)


* *


「ミセン、あなたに何十人目かの妻をあげるわ」

 うららかな陽が藤棚から降り注ぐ、ある日のこと。真興大帝に懇願されて王宮に返り咲いた大輪の花ミシルは、常の優雅さとはかけ離れた様子で、臨月の不快さを隠しもせずに、苛立ち混じりに告げた。

「妻ですか? おやおや、珍しい」

 そのミシルのご機嫌取りにひらひらと風を送りながら、ミセンはにやりと笑った。例え姉が地獄の鬼より恐ろしい眼をしていても、女と聞けば自然と口許が綻ぶのがミセンだ。

「さてさて、今度はどの公主様です? 贅沢は言いませんが、出来ることなら……」
「公主ではないわ。……それと、身籠ってもいるのよ」
「は?」

 耳飾りを無造作に弄りながら、ミシルは自分の腹を鬱陶しそうに撫でた。
 ……ちなみに、現在真興大帝の後宮を牛耳るミシルだったが、お腹の子は夫セジョンの子だ。前年の三月にトンニュン太子が不慮の死を遂げた際、太子との密通が露見したミシルは王宮から出され、セジョンを引っ張って隠棲した。お腹の子はその隠棲中に出来た子で、産まれた暁には真興大帝の摩腹子となるはずである。

「ミセン、あなた、トンニュン太子にお仕えしていたチュンモ娘主を知ってるわね?」
「ああ、知ってますよ。何せ私は、太子と楽しんだ仲ですからね」

 トンニュン太子の生前、ミシルはサド王后の命令で彼と通じていた。……と言うより、そもそも太子妃の座をこそ狙っていたのに、真興大帝がミシルに惚れた為に、ミシルは後宮の華になり、トンニュンは父にミシルを譲らざるを得なくなった。
 しかし、恐れを知らない若い彼はどうしてもミシルを諦めきれず、父の寵妃と知りながらも逢瀬を迫った。はじめのうちはそれを受け入れていたミシルだったが、あまりに周囲を憚らないそのやりように嫌気が差してからは、ミセンに命じて、数多の女との色事に耽溺させることで矛先を交わしてきたのだ。つまり、ミセンはトンニュンの後宮にいる女は片っ端から「味見」なり「ご相伴」なりによって知り抜いている。

「可愛い女ですから、文句はありませんが……いや、また誰の子を身籠って厄介なことになったんです? クムニュン太子ですか」

 トンニュンが死んだのは、もう一年以上前のことで、今の太子はトンニュンの弟クムニュンだ。これもまた色好みで、太子と言う身分に有頂天になってあちこちの女に手を出している。
 ところが、ミシルが口にした名は、ミセンの予想を大きく裏切るものだった。

「父親は、風月主……ソルォン郎よ」
「ええっ!?」

 扇ぐのも忘れて叫ぶと、ミセンは姉に顔を近づけて、こそこそ囁いた。

「で、でも、ソルォン郎の正宮夫人は確か、あのオバサ……チュンファ娘主でしょう?」
「ええ。私がソルォン郎が郎徒を纏められるよう縁付けたチュンファ娘主は、今、一人娘に若い夫を寝盗られて、恥辱に戦慄いているわ。しかも、その衝撃でなかなか産褥から回復しないんだとか」
「うわ……」

 ソルォンが風月主となった時、実父が郎徒に過ぎないソルォンを良しとしない郎徒が大量に現れ、郎政は頓挫しかけた。前の風月主セジョンの信望者達は身分卑しいソルォンの台頭に憤り、副弟のミセンも馬にも乗れぬ男がと皆に侮られ、ソルォンは窮地に陥った。そのソルォンを救うべく、ミシルは隠棲先から彼にチュンファを娶るよう勧めたのだ。
 チュンファは三世風月主モランの寡妻であり、初代風月主の娘でもある。そのチュンファを正宮夫人にすることで、ソルォンはようやく風月主としての支持を得ることが出来たのだ。
 ――そして、今回ミシルがミセンに妻にしろと迫っているチュンモ娘主は、そのチュンファが亡きモランとの間に儲けた一人娘なのだ。

「何故ソルォン郎ともあろう人が、一生頭の上がらない年上妻の連れ子に手を出すなんて愚かな真似をしたんです。しかも、バレるような手抜かりをするなんて、全く……」
「……それはそうと、一刻も早くチュンモを隠す必要があるの。ミセン、あなた、引き取ってくれるわね?」
「はいはい、任せてください、姉上。チュンモの産んだ子は、私の子にしますよ。何、次は本当に私の子を産んでくれれば……ウェ~ヘヘ!」
「……」

 感じやすくなっているからか、高らかな笑声が常にも増して不愉快に思えたミシルは、冷めた眼差しで弟を睨むと、しっと追い払うような仕種をした。

「……もう用は済んだから、出ていって。休むわ」
「わかりましたよ、姉上」

 心得たと言わんばかりにそそくさとミセンが退出するや、ミシルはふかふかとした枕に寄り掛かって瞼を閉じた。



 ミセンと話をつける前夜、ミシルは秘かにソルォンを宮に呼んで、跪く彼を憤然と見下ろしていた。

「ソルォン郎。このミシル、ソルォン郎を買い被っていたようです」
「……」
「チュンファ娘主がどれほど大切か……ソルォン郎は何もご存知なかったのね」

 悩ましげに嘆息すると、ミシルはついと横を向いて宣った。

「――もう、ソルォン郎をお呼びすることはありません」
「璽主……!」

 その瞬間、黙って頭を垂れていたソルォンは、寝台に横たわるミシルへとにじり寄った。

「璽主、お許しを。必ずや娘主のご勘気を解きますゆえ、どうか……!」
「離しなさい。見苦しい真似はソルォン郎には似合いません」
「璽主!」

 ソルォンは初めて鋭く叫ぶと、寝台から垂れているミシルの裳裾を震える手で掴んで、項垂れた。

「……どうか……どうかお許しください。璽主のお側に侍れぬなら、私は……この場で果てます」
「……では、何故このミシルの不興を買うような真似をなさったのです?」

 その憔悴が本物であるとわかると、ミシルは僅かに声を和らげた。
 けれども、ソルォンは相変わらず肩を落としたまま、ぎゅっと裾を握る手に力を籠めた。

「王宮を出られる時……璽主は私を置いていかれました」

 絞り出すようになされた告白には、彼の苦衷が溢れていた。

「セジョン公をお連れになり……私は風月主として王宮に残されました。璽主が……璽主が恋しかったのです。お声も、お姿も、何もかもが恋しく、一夜たりとて璽主を想わぬ夜はありませんでした」

 そんな時、チュンファはあまりに年を取り過ぎていた。眼を瞑って彼女をミシルだと思おうとしても、肌の張りも、香りも、何もかもが惨いくらい違っていて、やりきれなかった。――そんな時、チュンファと相談して尼にすると決めたチュンモが、チュンファが悪阻に苦しんでいる隙をついてソルォンを誘った。
 若いチュンモは、まだミシルに近い身体を持っていて、ソルォンは多少なりとも慰められた。……尤も、すぐに虚しくなって手を引いたものの、すでにチュンモは身籠り、しかもソルォンが自分を避けているとわかるとしつこく迫るようになったのだ。ことが露見したのも、チュンモの執念の賜物だった。

「臣ソルォン、この身も心も全て璽主に捧げております。璽主、どうか……お許しを」
「……」

 けれども切々と訴えるソルォンの声は、ソルォンではなく、亡き人の俤ばかりをミシルの目裏に蘇らせた。
 ――サダハム。
 私生児の異父弟ソルォンをこよなく慈しんだ恋人の俤は、ミシルにその異父弟を許すよう告げている。夢枕に立って、まだ腹の中にいたハジョンを我が子と示した時のように。
 ――ソルォンは、サダハムとは、声も姿も似ていないのに。
 それでもやはり許したくなるのは、亡き人に縁のある者だからか、それとも……ソルォンが役に立つ男だからか。

「……下がりなさい」

 幾分か和らいだ声で命じると、ミシルは艶やかに吐息を溢した。



 さて、ミシル宮から追い出されたミセンは、急ぎ風月主の執務室へ駆け込んだ。

「風月主! 上手くいきましたよ」
「真ですか」

 振り返ったソルォンは、あまり表情が豊かでない彼にしては珍しく、ぱっと花が綻んだように顔を明るくした。

「ええ。ウェ~ヘヘヘ! やはりこのミセンの眼に狂いはありません。臨月の時、姉上は周囲にやたらと甘くなりますからね。今をおいて他に、時はありませんよ」
「……安堵しました」

 あれやこれやと捲し立てるミセンに対してぽつりと呟くと、ソルォンは緊張で凍りついていた身体をほぐすように眼を瞑った。

「……」

 それをきょとんとした面持ちで見つめた後、ミセンはだらしなく笑ってソルォンを小突いた。

「これからがまだまだ大変ですよ。気位の高い年上女のお怒りは、なかなか解けませんからね」
「……真心を尽くします」
「いいですか、やたらと言葉を尽くしたり、身体で丸め込もうとしてはなりません。女人と言うものは、望まぬ夜を過ごすと、曙の訪れより早く、恐ろしいばかりに醒めた心地になるものですから。岩戸を開けてもらうには、とにかく細々とした心遣いをするのが一番です」

 くどくどとソルォンに注意事項を並べ立てた後、ミセンはふうと一息つくと、そっとソルォンの耳許に囁いた。

「……ま、姉上も女と言うことです」
「は……?」

 てっきりチュンファの話だと思っていたソルォンは、ミセンの言葉に訝しげに眉を顰めた。しかし、ミセンは自慢の表衣の袖を一振りして、ふふんと笑ってみせた。

「ソルォン郎、次はお気をつけなさいよ。女が欲しければ……先に、姉上の了承を取り付けてから抱くことです。姉上も、我らにとっては、立派な「気位の高い年上女」ですからね」
「ミセン郎、口が過ぎます」

 ミシルに惚れ込んでいるソルォンは、疎ましい妻と愛しいミシルを一緒くたにされて気分を害したようだった。――が、それ以後、ソルォンは決してその助言を忘れることはなかったと言う。



「夫人、気分はどうかな? 何か持ってこさせようか」

 そして、時を同じくして、ミセンを退けたミシルはセジョンの労りの手を慎ましく受け止めていた。繋いだ手を引き剥がしたいような、そうすることが恐ろしいような、あるいは大樹の影でひと時の安らぎを得ているような、そんな葛藤は美しい微笑の下に押し隠して。

「いいえ、何も。セジョン公がいらっしゃるだけで十分です」

 そんな時、ミシルは二つの思いに囚われる。
 ――我ながら、つまらないことを。
 と、セジョンに媚を売る自分を吐き捨てたいような苛立ちと、
 ――セジョン公は、やはり他の男とは違うわ。
 と言う、セジョンへの信頼とも安堵ともつかぬ想いがミシルの中で鬩ぎ合う。特にソルォンに接した後は、この二つがより激しく絡まった。
 ミシルの煩悶に気づかず、セジョンは優しくミシルの背を撫でている。

「陛下も随分と気を揉んでおられたよ。私に傍にいてやれと仰ってね」
「まあ……」

 真興大帝とセジョンはもともと仲の良い異父兄弟だったが、ミシルを巡る相克を経て、今再びかつての睦まじさを取り戻したらしい。異父兄との仲が戻り、ミシルは己の子を産もうとしている――例えミシルが異父兄の寵妃に戻ろうと、セジョンは彼なりに満足を得たらしい。
 ――ソルォンなら、ここぞとばかりに私の想いを確かめそうだけれど。
 セジョンはただただ、ミシルを愛して、ミシルの姿を見ていられれば幸せらしかった。しかも、例えミシルと離されても、ソルォンのように他の女にミシルの幻を求めることもない。傍にいようと離れていようと、ミシルの為になることだけをして、おっとり微笑む。

「夫人、身体を大切に」
「はい」

 ――この人は、一度だって私の愛がどこに向いているのか詮索したことがない。
 数多の男から日夜愛を、身体を求められるミシルにとって、セジョンは不気味なくらいに寡欲だ。決して「私を愛してくれ」とは言わない。異父兄に隠れてミシルを求めることもない。誰かの目を盗むと言うことを、そもそも知らないようにすら思える。
 そのことに思い至った時、ミシルは仄かな陶酔にその身を浸すことが出来るのだ。

(……セジョン公は得難い夫だわ)

 血が違うからか、あるいは品性か、奪うことよりも与えることに満たされるこの夫を誰よりも頼りに思いながらも、どう言うわけだか、ミシルの心には物足りなさばかりが残った。




****

ソルォンの艶福家SSと言うより、若き日のソルォン、ミシル、ミセン、セジョンと言う感じになってしまいました。
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  1. 2011.09.14(水) _23:01:21
  2. SS(ドラマ準拠)
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