善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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アシュヴィン×千尋『新婦の落胆』

倉庫の方にある『新郎の憂鬱』の対になるお話です。
新郎は憂鬱で、新婦は落胆。

「つくづく先が心配になる夫婦ですね…」(byリブ)

ええと、今回はアシュヴィンは出てきません。代わりに「トゥーフィ~」の海賊さんが登場ですが、あくまでアシュヴィンルート前提ですので!(大体、7章くらいです)
ちょっと長めですが、お楽しみ頂ければ幸いです。



***


 アシュヴィンと千尋が婚儀を挙げ、アシュヴィンが常世へと出立してから早数日。
 本来ならば、新婚だと夫婦揃って仲睦まじく過ごしているであろうこの時期に、この夫婦は戦の準備にその身を費やしていた。無論、アシュヴィンはその戦の真っ最中で、自身の常世での拠点を守るべく、奮戦中。そしてその後を追うべく準備を進める千尋もまた、日が暮れてからやっと解き放たれるほどの多忙振りであった。
 そんな中、千尋の多忙振りを目にしているサザキは疲れ果てているであろう彼女を慰めるべく、千尋が自由になった所を見計らって、天鳥船内の彼女の部屋へと向かっていた。

「トゥーフィ、トゥートゥーフィ~」

 口笛も高らかに廊下を闊歩する彼の手には、その奔放な姿には不釣合いな、可愛らしい皿が握られている。そこには大小様々なカリガネの力作が並んでおり、香ばしい匂いで辺りを満たしていた。

「おーい姫さん、カリガネから菓子を分捕ってき……って、いない!」

 ところが。
 てっきり自室にいるものと思って扉を開けると同時に声を掛けたサザキは、予想外の千尋の不在に思いっきり面食らった。
 かーっと頭を掻いて、開けてしまった扉をどうしたものかと翼をばたつかせながら悩む。と、その時、ふいに気配が感じられて、サザキは渋面を引っ込めて部屋の奥へと目を向けた。
 慣れた気配に、その主を間違えよう筈もない。
 姫さんか、と見当をつけて奥に進むと、案の定バルコニーに佇む人影を見つけて、サザキはニッと笑った。笑って、固まった。

 そう、見つけたのはいい。見つけたのはいいのだが、その千尋が星空を見詰めたまま動かないものだから、声を掛けて良いものか、と再びサザキは額を手で覆った。

「ありゃ、どう見ても恋する乙女が悩んでますう、ってな感じだなあ…」

 ここで登場するとなると、あの乙女度満点の“姫さん”を慰めなければならない。サザキとしては願ってもないお役目だったが、果たしてそんな事を部外者である自分がして良いのだろうか。

「かーっ。夫婦の問題ってえのは、夫婦で解決すんのが一番なんだがなあ」

 ま、夫不在なんだから仕方がないよな、と結論付けると、サザキはすう、と息を吸った。

「ひーめさん!」

 まるで今やって来ました、と言わんばかりの満面の笑みで、ブンブンと手を振る。パッと振り返った千尋も、一瞬呆けたものの、すぐにその顔に笑みが浮かんで、サザキへと駆け寄って来た。

「サザキ!」
「よう」
「サザキ、こんな時間に珍しいね。どうかしたの?」

 にこにこと笑う千尋は、一見いつも通りの明るい姫だ。
 だが、先ほどの姿を見てしまった今となっては、その姿もいじらしく健気に見えて、サザキは常世にいる“夫”に僅かに悋気を催した。すぐに、それは塵となって吹き飛んだが。

「こ、れ。カリガネから分捕ってきたんだ。一緒に食べようぜ」
「わあ…!って、サザキ、駄目でしょ。カリガネに言ってこないと…」
「良いんだよ。アイツだって姫さんに食べて欲しくてこんなに作ったに決まってんだから」
「もう、サザキったら…」

 苦笑する千尋の肩に危うく手が伸びそうになったが、それをぐっと堪えて、サザキはまた人懐っこい笑みを浮かべた。

「それより!あんまし夜風に当たると、風邪ひいちまうぜ。さあ、中に入った入った!」
「あ。それもそうだよね…」

 ごめんなさい、と笑う千尋はどこか寂しげで、やはり彼女は落ち込んでいるのだとサザキは悲しくなった。
 皇子だかなんだか知らないが、姫さんを悲しませやがって。次にあの黒雷に会ったら、一発ぶん殴ってやんねえと、と。些か乱暴な決意をした事は面には出さず、サザキは千尋を部屋の中に誘うと、その辺の椅子に座らせた。
 ごほん、と大仰に咳払いして、ニカッと笑う。

「さあーてお立ち会い!これなる菓子は、この大海原を叉に掛ける大海賊、サザキがその弟分であるカリガネに作らせし物。おお、そこの姫君。どうそ、一つ御手に取ってみなされ」
「はい」

 芝居がかった口調でサザキの差し出した菓子を、堪えきれない笑いを零しながら千尋が受け取る。
 千尋が一口菓子を口に含むと、さらにその笑顔が柔らかくなって、サザキは一気に部屋が明るくなったような錯覚に囚われた。

「どうです姫君、お味は」
「すごくおいしい!ありがとう、大海賊さん」
「花のような姫君が笑って下さるなら、この程度はお安い御用。またこのサザキにお申し付け下され」
「うん!」

 千尋の顔に、今度こそ一点の曇りもない微笑が広がった事を確認すると、ようし、とサザキもそこら辺に腰掛けた。羽根がある為に、実際は千尋の寝台に勝手に座り込んだのだが、まあ、特等席だ、と位置づけて、サザキは千尋が菓子を頬張る様子を眺めた。
 近頃は心労の為か激務の為か、やつれがちだった千尋がこれで少しでも元気を取り戻してくれるなら、彼にとってこれ以上の喜びはない。
 千尋に言ったら怒られるであろうが、サザキにとって、千尋は大事な“姫さん”であると同時に、小さな娘のようでもあるのだ。

 その時、ふいに千尋の手が止まった。

「ごめんなさい、私一人で食べてしまって…!サザキは食べないの?」

 慌てた様子で千尋が皿を持ち上げる。だがサザキはすぐに首を横に振ると、千尋にそれを押し返した。

「いいって。これは姫さん用だ。俺はもう散々つまみ食いしたから、味はわかってるしな」
「つまみ食い?カリガネ怒らないの?」
「そりゃあ怒るさ。怒るから、あいつが目を離した隙を狙って、ちょろまかす」
「まあ」
「今度、姫さんもやるか?なかなか楽しいぜ、あれは」

 そうして他愛ない事を話しているうちに、千尋の皿の菓子は一つ、二つと消えていき…全部消えたのを見届けたところで、サザキは軽やかに立ち上がった。千尋から皿を受け取り、部屋の外へと向かう。
 扉を開けて外に出かかったところで、初めてサザキは振り返ると、彼にしては珍しい、困ったような笑みを千尋に向けた。見たことのない表情に、千尋の胸が僅かにざわめく。

「サザキ…?」

 声が震えそうになるのを必死で堪えて、千尋がその名を呼ぶ。それと同時に、ぽん、と大きな掌が千尋の頭に添えられた。

「姫さん、あんまし一人で泣いちゃ駄目だぜ」
「……ッ」

 いつになく優しいサザキの声音に、千尋が息を飲む。ところがその途端、サザキはいつものようにニカッと笑うと、おどけた口調に戻って喋り出した。

「おーっと!そこで、俺のこの、暖か~い胸を貸しても構わないんだが…」
「構わないの?」
「姫さんがお望みなら。っかー!だが残念な事に、今はそのお役目をあいつに譲らなきゃなんないのさ」
「あいつ…?」

 きょとんとした表情のまま、千尋が首を傾げる。その頭をわしゃわしゃと撫でると、サザキは千尋の顔を覗きこむようにして言った。

「姫さん~!そこは察してやんないと、あの黒雷も涙目になっちまうぜ?」
「あ、アシュヴィン!?」

 無理だよ、と千尋が首を振る。
 その頬が心なしか紅潮しているのを見て、サザキは嬉しいやら哀しいやら、複雑な気持ちのまま、続けた。

「そ。まー今は離れちゃいるが、姫さんの旦那様だ。泣くんなら、あいつの胸で泣いてやれ。驚くぜ~あいつ!」
「でも、そんな、アシュヴィンが困るよ」
「おいおい!こ~んな可愛い姫さんが、自分を心配して泣いてくれるんだぜ?男冥利に尽きるってもんじゃねえか。あの黒雷だって、姫さんにベタ惚れなんだ。喜ばないわけがない!」
「でも、アシュヴィンは忙しいし、私の事は単なる政略の為の…」

 浮かぬ顔でそう呟く千尋は、どうやらサザキの言葉の中にあった重大な単語を見事に聞き逃していた。姫さんにベタ惚れ、と。これ以上ない言葉でサザキとしてはアシュヴィンと千尋の為に一肌脱いでやったわけだが、どうも、口数が多すぎてその大事な一節は紛れてしまったようだった。
 だが兎にも角にも、アシュヴィンに甘えてやれ、と言う事は伝えた。
 これ以上は何を言っても、アシュヴィン自身から聞かされない限り、千尋は信じないだろう。妙な所で用心深い少女に苦笑しつつ、サザキはもう一度千尋の頭を軽く叩いた。

「ま、後は向こうに行って感動の再会を果たしてからだな」
「か、感動って…」
「姫さんは、寂しかったのお、私、って飛びついてやりゃあいいのさ」

 驚くぜ、あの黒雷も、と片目を瞑ってサザキが笑う。つられて千尋も笑ってしまい、彼女はこくんと頷いた。
 やっと前向きな気持ちになってきたようだ。それでこそ姫さん、と心の中で賞賛を送って、サザキは今度こそ踵を返した。

「じゃ、いい顔であいつに会えるよう、姫さんは寝なきゃな」
「うん。あ、サザキ!」
「ん?」

 名を呼ばれて、振り返ると、扉から顔だけ出した千尋が、恥ずかしそうにはにかんで笑っていた。

「あの…ありがとう」
「姫さんの為なら、お安い御用で」

 可愛い笑顔も頂けた事だし、とは口に出さない。だが、まんざらお節介も悪いもんじゃねえな、と笑って、サザキは再び口笛を吹きながら歩き始めた。
 その姿を見送った後、千尋も中に入って扉を閉める。その顔には、柔らかい微笑みが広がっていた。
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  1. 2008.07.16(水) _15:48:34
  2. SS<アシュ千>
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