善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

砂漠編も佳境に入ってきましたー。せっかくなので、公式サイトから画像も拝借。

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SSを書いていて思うのは、トンマン達の家の間取りが知りたい…と言うことですねw 王宮とかも、どう言う構造になっているのか知りたいです。隠居シリーズの家なんかは自分で書いて決めちゃっていますが、ちゃんと正確な間取りを考えたのは最近で、それまではアバウトに「こう」とあったイメージで書いていたので、矛盾するところがあるかもしれません…!


* *


「トンマン、こっちへ」

 カターンは不意に固い顔つきになると、トンマンを引っ張って自分の部屋へ向かった。チルスクもカターンに顎で促されて付いて来ている。

「いたたっ……。おじさん、どうしたの?」
「いいから、黙ってついておいで」

 わけがわからないトンマンが不安げに訊ねても、珍しくカターンは優しい顔をしない。トンマンを部屋に入れると、誰かが近づいてきたら教えるようチルスクに命じて、ぴっちり戸を閉めた。くるりと振り返った顔は、明り取りの窓から入る細い光に照らされている為か、凄味すら覚える。

「おじさん……?」

 思わず怖くなって、トンマンはそろりとカターンを見上げた。すると、カターンも自分が怖い顔をしていると、気づいたのか、小さく息を吐き、苦笑した。

「怖がらせてごめんよ。でも、トンマン、自分のやっていることがわかっているのかい? いや、トンマンがお馬鹿さんじゃないのは知ってるよ。ただね、小さい頃から、無茶だけは皆の何倍もしてきただろう?」
「おじさん……」

 カターンは眉尻を下げたトンマンの肩に手を置いて、ぽん、と元気づけるようにそこを叩いた。

「これまでにも、領主が変わる度に、何かしら揉め事が起きたよね。トンマンは、その度に商人達を助けようとして、危ないこともしただろう」

 幼い頃から母一人子二人、しかも母ソファは病がちとあって、ピダムとトンマンはあの手この手で儲けようと知恵を働かせた。しかし、そうは言っても小さい子供では、店に奉公してもろくな稼ぎにならない。その結果、二人は大人が手を出さないような仕事――つまりは、かなり危ない橋を渡る何でも屋のようなことをして、金を稼ぎ、ついには旅閣を建てる資金を生み出した。
 カターンがトンマン達と懇意になったのも、元はと言えば、馴染みのある幼い兄妹が危ない橋を渡るのを見過ごせなかったからだ。

「いいかい、トンマン。諸侯はね、今、駆け引きをしているんだ」

 その言葉に、トンマンはきょとんと瞳を丸くした。一拍置いて、眉根を寄せると、うーん、と唸る。

「そっか。おじさん達を追い払おうとしてる……なら、最初から茶葉を扱う商人はオアシスに入れなきゃいいよね」
「そう。つまり、諸侯は私達に商いをさせたくないわけじゃないんだ」

 ただ、と付け足すカターンの声は、重い。

「もっと、己が儲かるように商いをさせたい。そうするには、どうしたら良いのか、諸侯は知恵を働かせたのさ」

 諸侯が民から儲けるには、税率を高くするか、新しく税金を設けるしかない。が、オアシスに暮らす者達の懐具合はさほど豊かではない。裕福なのは、一部の商人と、商いの為に砂漠を越えてくる、異国の商人だ。

「まさか、関税を高くするの?」

 驚いて顔を上げたトンマンに、カターンは苦い微笑を浮かべて頷いた。
 関税は、諸侯が、関所や城門を通過する者から徴収する税金のことで、通る際には、荷を改められる。異国から来た商人達もそれは同様で、例え茶葉を手に入れても、関所や城門で茶葉を持っているとわかれば、通行料とは別途に関税がかかる。今なら、捕らえられ、投獄されてしまう。
 諸侯の目的は、その関税を高くすることだとカターンは話した。

「ただ税率を引き上げたんじゃ、反発が起きる。異国の商人だったら、砂漠を越える為に数多用心棒を連れているから、尚更大変だ。商人に結束して抵抗されたら、暴動になるかもしれない」

 けれども、その前に何人も商人が殺されていれば、話は変わる。

「穏健に済ませてくれない相手と喧嘩をしたって、仕方ない。むしろ、多少税率が上がっても、ローマでは茶葉は高く売れるのだから問題ない、と思う奴が、必ず出る」
「そうしたら……皆、買い占められる前に、我も我もって高い関税を払う……」
「そして、諸侯は大儲けする。間違いないね」
「そんな……!」

 カターンは息を飲むトンマンを宥めるように自分の唇に人差し指を当てると、軽く首を振った。

「ただし、これはかなり荒っぽいやりようだ。こう言う駆け引きはね、出来るだけ死人を出さないようにやるものなんだよ。特に、異国の者が絡んでいる時は」

 諸侯は急いでいるに違いないと、カターンは話を締め括った。
 薄気味悪い沈黙が場を支配する。ややあって、トンマンは恐る恐る面を上げて、カターンをじっと見つめた。

「そんなに慌ててお金儲けをするってことは、何かあるのかな」

 領主が急に徴税を厳しくし始めた時と言うのは、決まって何か起きる時だ。例えば――。

「おい」

 ところが、トンマンの思考はチルスクが戸を叩き、中に入ってきたことで途切れた。その後ろからは、がやがや見慣れた顔が近づいてくる。カターンの顔つきが、いつもの柔和なものへ、さっと変わった。

「おうい、トンマン、お袋さんが捜してたぞう」
「あっ! そうだ、夕飯の仕込み!」

 トンマンもまた、はたと日常を取り戻した。が、立ち去る前に、ちょいっとカターンの袖を引き、囁いた。

「カターンおじさん、やっぱり後で見て欲しいんだ。茶葉」
「トンマン!」

 咄嗟にカターンが声を高くしたのを見て、皆の目がトンマンへと集まる。

「なんだなんだ? 内緒話か?」
「教えてくれよ、なんだい? 俺達にもわかる言葉で喋ってくれ」
「まだ秘密!」

 色とりどりのトーガの隙間を縫うようにしてトンマンは部屋を抜け出すと、軽やかに階下へ降りていく。その後ろ姿を見送り、カターンは小さく嘆息した。他の商人にはわからぬよう、鶏林語でぽつりと呟く。

「……諸侯より、トンマンの方が心の臟に悪いよ」

 その呟きに、チルスクだけが、さもありなんと内心ひっそり頷いた。



 おかしなもので、人と言うものは、腹が膨れると、ささくれ立っていた気持ちもだいぶすっきりするらしい。

「あー食った食った」

 トンマン達の手料理をたらふく食したおかげか、昼下がりのザズの眉間からは、昼前までは深く刻まれていた皺は取れて、日に焼けた顔はしゃんと前を向いていた。自然、気も優しくなり、先刻などはトンマンの手伝いをして、重い鍋まで運んでやったりもしたくらいだ。
 兄の優しい友人に、妹のトンマンは感謝の証として、おかわり無料と、次に兄が仕事をサボっているのを見つけた時には家に帰るよう自警団から叩き出すよう頼んだ。
 トンマンは、本当にしっかりちゃっかりした娘に育っている。実に末頼もしい限りだが、ザズはおかわりを控え目にする代わりに、ピダムを更正させることには返事をしなかった。あれで、ピダムも母と妹のぶんまで稼ごうと知恵を働かせているのを彼は知っている。

(……そうだよな。あいつはあいつで、必死さ)

 ザズと違って父親のいないピダムは、まずは暮らしていけるだけの金を稼ぎ、病持ちの母を医者に見せる為にさらに金を稼ぎ、家族を守らなければならない。……家に帰れば親兄弟がいて、仕事と言ってもまだまだ父親頼りのザズとは、同じようでいて全く異なる境遇にいるのだ。

(諸侯が許せないのは変わらない。だけどさ、許せなくても、それを口にする余裕がない奴だっているんだよな……)

 だからと言って、ザズは引っ込むつもりはないが、家族を抱える友人を巻き込み、拒まれたからと言って怒るのは……我が儘ではないかと言う気がしてきていた。何でもかんでも同じくすることが友情だなどと、そんな押しつけがましいことを言って、いいものかと。
 一頻り黙り込んだ後、ザズは詰めていた息を吐き出した。
 ――俺は、何もかもをピダムに合わせるなんて出来やしない。
 それなら、ザズもピダムにそんなことを要求してはいけないのだ。例え、一緒に怒って、一緒に拳を振り上げたいとしても。
 そうして気持ちの整理もつくと、視界も広がるものである。

(……あれ? あいつ、さっきの男じゃんか)

 得体の知れないその男が、店を冷やかしもせず、脇目も振らずに駆けていく。おまけに、まるで、これから褒美をもらうかのように、顔を輝かせているではないか。
 父親の仕事柄人を見ることに慣れているザズは、先程までの機嫌の良さはどこへやら、ぐっと顔を顰めた。

(嫌な予感、再来だな)

 つい先刻まで何食わぬ顔をしてザズの友人の宿にいた小者が、今や褒美目当てに頬を赤くしているのだ。……ザズの勘によれば、ろくでもないことになりそうなのは、ほとんど間違いなかった。

「ったく、ふざけた野郎ばっかだぜ」

 ザズは砂埃を避けるように頚に巻いていた布を口元まで引き上げると、小者を見失わないよう、勢い良く走り出した。


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  1. 2011.06.15(水) _21:00:46
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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