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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by saki

リレー小説第23弾、saki様のターンです!saki様へのご感想は↓のコメント欄にどうぞ~v


* *


乾いた風が外套を容赦なく打ち付ける。陽は暮れかけているのに此処に到るまで商団はおろか旅人ひとりとも遇えなかったピダムは肩を落とし駱駝を引く腕に力は無い。



「まじでやべぇ。」



空を見上げれば止めの如く東の空に一番星が煌めいている。たらり、額を流れる汗はけっして暑さによるものだけでなかった。ピダムはこれ以上進むことを止め踵を返す。無論オアシスに帰る為では無い。少し戻った場所に点在する砂漠の岩場。その中に風雨によって出来た洞がある。何も客引きに出て収穫が無いのはこれが初めてというわけでもないのだ。更にいえばトンマンの機嫌を損ねて成果を上げれぬ限り帰れないというのも既に数度の経験があることだった。そういった時に利用してきた簡易な寝床がそこにある。僅かながら食料と水もまだあったはずだとピダムは重い足取りで今夜の宿と定めた洞を目指した。



+++



獣避けに火を起こした洞の中でピダムは長櫃をひっくり返していた。干からびてとても食えそうにない乾物が数個転がり出る。ピダムは眉をしかめてそれを躊躇なく後ろに放った。2度3度と跳ねてそれは洞の入口に繋がれて休んでいた駱駝の前まで転がっていく。己に与えられた餌と判じたのか駱駝は徐に鎌首を持ち上げると、はくり、それを口に入れた。はくり、はくりと転がってきたそれらを全て平らげて、もっとないのかというように主を伺えば何やらきょとんとした顔でその主がこちらを見ていた。



「腹減ってたのか、お前?んな干からびてたんじゃ喰っても美味くなかったろ。鶏はお前喰えねぇしな。あんなに美味いもん喰えねぇのは絶対損してるぞ、お前。」



空になった長櫃を放って駱駝の側に歩み寄ったピダムはそこで夜空に昇る白煙を認めた。数は三。単体ではない。隊商か。この場所からオアシスの街までは半日もあれば着く。あの煙りの主達がオアシスから発った人間でないのは確かだ。距離はあるがそれでも三刻も歩けば追いつけるだろうと思われた。目を見開きピダムは口角を上げる。夜になれば獣避けの為に火を焚く。これはピダムに限ったことでなく、いわば旅をする者の常識だ。燻ゆる白煙は今日ピダムが進んでいた方向とは若干ずれた位置から上がっていた。



「っの野郎、そっちかよ!無駄骨折らせやがって。見てろ、明日絶対に捕まえてやるからな!」



そちらに向けて指を突き付けピダムは大声で宣言した。これで少なくとも明日の夕方には街に、トンマンと母のいる家に帰れる。今日帰れなかったことについてはまた怒られるだろうがそれはそれだ。ふんっと鼻を鳴らし洞の中に戻る。砂避けの外套を敷布代わりにピダムは早々と眠りを受け入れるが為に目を閉じた。



+++



声が聞こえる。覚えがないのに懐かしいと感じる声が。己の名を呼び、気に入ったかと問い掛ける。あぁ、いつもの夢だ。ほら、己の伸ばす指の先に小さな温もりを感じる。しかし、気のせいか以前より周りを囲む霞が薄くなっている気がする。今日はこの指の先に在るはずの姿に逢えるのだろうか。夢とはいえそれに対しての興味をピダムが今まで全く持っていなかったわけでもないのだ。浮される想いにしかし妙な感覚をピダムは覚えた。何故、気になるのか。母や妹以外の存在に何故自分がこれほどに固執しなければならないのかと。



『その娘が、将来お前の伴侶となる王女だぞ、ピダム。』



そしてそれを覚えた矢先に再び降りてきた『声』にピダムは、はたりと我に帰った。



「んなことより今は客だろうがっ!?」



自分の声で目が覚めて、ピダムはあれ?と首を捻る。土煉瓦とは違う岩壁に届ききらない日の光り。消えかけ燻った焚火に昨日は街に戻らなかった事を漸く思い出しだ。そうだ、客捕まえねぇと帰れねえんだよ。がっくり肩を落としたその様子を先程のピダムの声で起きたのか脚を折りたたんだ駱駝が欠伸をひとつあげて見ていた。



「・・・さっさと飯喰って行くか、俺。」



呟き立ち上がる。荷物は駱駝の背に括り付けたままだった。用があるのは麻袋の中身なのだが己にこそ用があると思うのか駱駝は首をピダムに擦り寄せる。その頭を軽く撫で構ってやれば嬉しげに目を細める。手早く食事を終えたピダムは駱駝を引き連れ昨夜見た白煙を目指す。見た夢のことなど既に忘れていた。やがてじりじりと陽射しが強まる中、先回りをするためややオアシスに近づく形で進んでいたピダムは空に高く渡る声を耳にした。警戒と威嚇のないまぜた声は死喰い鳥のそれだ。ピダムは視線を空に移し、次いで遠く周囲を見回した。行き倒れか屍か、死喰い鳥の鳴き声が聞こえるはそのどちらかがあるということであったので。まだ息があるようなら捕まえて客の一人に出来るし、死んでたならば貰う物を貰ってから墓穴の世話くらいは軽いものと昨夜見た白煙の方角とも重なっていたこともあり足を緩める。だがやがて重なり聞こえる声が増えはじめた。

2つ。3つ。4つ。鳴き声が響く。複数いるのかとピダムは眉はひそめた。死喰い鳥は本来単体で行動する。この暑さと砂の中で群れで行動するということは餌の取り分を奪われるという事だからだ。それが、群れと呼べる数で行動しているとなれば十二分に餌となる何かがあるということ。



「・・・まさか、な。」



『またひとり消えた』と怒りを押し殺した顔で言ったザズが脳裏に浮かぶ。ピダムは頭を振ってその考えを追い払った。だが、駱駝がひくひくと鼻を奮わせ頻りに周囲を気に始めたときにはピダムも異臭に気付かざるを得なくなった。そしてついには威嚇の声のみを発するようになっていた死喰い鳥の群をピダムは前にしたのである。



「おいおいおい。洒落になんねぇぞ、この数は。」



とてもではないが貰う物貰ってから墓穴の世話なんていえる光景ではない。下手にこれ以上近付こうものなら生きていようが構わず餌にされそうだ。ピダムは迂回することを決め握る手綱に力を込める。砂漠で死んだ者の末路は砂に埋もれるか、ああやって獣達の餌になるかだった。しかしこの近くで商団が消えたとか襲われたという話しはどこからも聞いていない。なれば、あの大量ともいえる屍達はどこからと考えれば思い付くのはひとつしかないのである。



「俺達、あの領主を甘く見すぎてたかもしれねぇぞ。ザズ。」



進む足の下に砂ではない何かを覚えたのはその時だった。眉をしかめ、けれど十中八九予想はついたのでそのままざりざりと足で砂を掃ける。果たしてやはり出てきたのは人の腕だった。まだ新しい。胴に続いているらしいところをみるとあの群に近付く危険を考慮したのだろう。誰がとはいわない。無論、それがこの屍を棄てにきた誰かであるのは明白であったので。ピダムは膝を折り腕から続く顔があるであろうと思われる場所の砂を掃った。あの時は全く聞く気は無かったのだが一応ザズに消えた人間の確認をといわれてもいたのだ。ついでという気持ちを多分に含んでの作業だったが、しかし砂の掃われた先にあった苦痛に歪んだ男の顔にピダムは見覚えがあった。

宿に来た客ではない。自警団の仲間と足腰立たなくさせた連中でもない。街で擦れ違う気のおけない住人達でもない。



「・・・・・・・・・・・・・!?」



思い当たったときピダムは全身の血が音を立てて引いていくのを感じた。

あれは、あいつは自分が茶葉を買い付けた随の商団で遠目に見た男だ!しかも身なりやその態度からその商団の中でも上の人間だったはず。それがここに転がっているということは。ピダムはそれまで引いていた駱駝の背に飛び乗ると勢いよく手綱を手繰る。それに応えてゆっくりと肯首を巡らした駱駝はオアシスに向けて進路をとった。やがて常よりも速く進んで行くその背は吹きすさぶ砂塵に消えていった。

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  1. 2011.07.04(月) _00:09:10
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