善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 風来・上

十五夜の名月が近付いていますね…。だ、第一美比才が書き終わらなくてすみません…!(滝汗)

そして、続きは、「うおー書けー書けー」と自分にピシパシしていたら、何故だかこんな迷宮シリーズが「おーい、気分転換にどー?」と登場しました…と言う感じのSSです。本編ではなく、「今のところこんな雰囲気になりそうだよん」と言う感じの公主編です。このお話ではいちゃいちゃ描写はないですが、迷宮シリーズなので、次のお話では登場する予定ですー。


* *


 慌ただしい毎日だった。礼儀作法、学問、公務と、あらゆるものがユシンの訓練以上の厳しさで襲い掛かってきて、トンマンはその歯車の中で走り続けていた。
 ――そうして駆けずり回っていたある日、トンマンは便殿に向かう途中で踞り、動けなくなった。

「お熱が高い。十日は公主宮の外に出ぬようにとの陛下の仰せです。皇命により、ご本復まで近侍致します」

 目蓋を上げたトンマンの顔を覗き込んだピダムは、ぼんやりしている彼女に口移しで水を飲ませたかと思うと、囁くように現状を報告した。
 その報告をなんとか頭に染み込ませたトンマンは、途端に顔を顰めた。――なんで、ピダムに看病されなければならないのか。

「……母さんは?」

 蚊の鳴くような声で問い掛けるや、ピダムはトンマンの額に滲む汗を拭きながら、さらりと応じた。

「薬草と女官の検分をしています」
「検分……?」
「はい。――この機に、あなたが殺されぬように」

 トンマンの私臣としての仮面を取り払って答えるピダムに、トンマンは寸の間目を丸くして……次いで、頭痛に眉を寄せた。そんなトンマンの髪を、ピダムは落ち着かせるように軽く撫でた。

「ご安心ください。私がお側に侍るのは、公主様をお守りする為です。龍華香徒と飛天之徒も交代に公主宮の守衛を務めます」
「……」
「ゆっくりとご養生をなさってください。こんなところで死んでは、ミシルに嘲笑われるだけですから」

 然り気無く毒を混ぜるピダムを、トンマンはじろりと睨んだ。

「お前は……私の私臣だろう」
「ええ」

 しかし、手応えなど感じぬほどにさらりと頷いたピダムは、次の瞬間にはまた塩水をトンマンに含ませた。それをトンマンが飲み込むや、ひんやりとした舌が絡まってきて、熱を吸い取るように蠢く。

「んっ……」

 もう馴れたはずのそれにやけに頭がくらくらとして、トンマンは眉根を寄せた。思わず顎を引いて唇を離すと、瞼を上げたピダムは冷ややかな眼差しでトンマンを見下ろす。その眼差しから逃れるようにトンマンがぎゅっと目を閉じたまま顔を背ければ、ピダムはゆっくりと顔を上げて嘆息した。その姿は、臣下としてのものではない。
 ややあって、苦く口の端を上げてピダムはトンマンの髪を撫でた。

「私は公主様のお身体を案じて散々休息を勧めて差し上げたのに……肝心の公主様が聞かなかったから、こうなってしまったのだと、おわかりですか?」
「……」
「そうですね……おわかりなら、公主様、ご本復されたら私に褒美をください」
「……なんでだ」
「まず、私はこの半年の間に幾度も公主様の夜なべを阻んでお身体を気遣い、今は看病と護衛だけでなく、お毒味もしています。司量部はほったらかしで。それもこれも、公主様が無理を重ねられるからではありませんか」

 その夜なべの阻み方や、看病、護衛の仕方について、トンマンは大いに抗議をしたかったが、頭がぼうっとして、何も言い返せない。しかも、何食わぬ顔でピダムがあやしてくるので、その手が心地好くて、いつの間にか眠ってしまっていた。
 先刻よりも幾分か安らかになったその寝顔を暫し眺めてから、ピダムは立ち上がって、寝台の周囲にかかっている紗の外へ出た。ソファが調えた膳の隣に置かれた水差しを傾け、杯に水を注ぐ。一息に飲み干すと、長らく水を飲んでいなかったからか、生き返るような心地がした。

(……あれなら、大丈夫だ)

 ふっと吐息を漏らしたピダムは、疲労を感じて椅子に座り込んだ。
 ピダムが「公主様御病気」の一報を耳にしたのは、恐らく王よりも早かった。彼はトンマンの傍に幾人も息のかかった女官を入れていたし、何より、昨夜も顔色が冴えないと忠告したところだったのだ。いくら休めと言っても聞かなかったトンマンの頑なさを思い出して、ピダムは小さく苦笑した。
 ――利かん気の強いところがまた、可愛いんだが……。
 ピダムは苦笑を唇に湛えたまま指先で額に浮かぶ汗を拭ってやると、ソファが戻るまで寝台に座って、飽かずその顔を見つめ続けた。



 声を潜めての会話は、時に大声でのそれよりも意識を引き付けることがある。

「――……」

 聞き覚えのある密やかな声音に、トンマンは重たげに瞼を上げた。見慣れない気がするその景色を軽く見回せば、そこが公主宮の寝台だとわかって、ひっそりと息を吐く。けれどもすぐに、眠りを妨げた声の正体がわかって、トンマンは眉を顰めた。

「……――しろ」

 嫌と言うほどに見覚えのある後姿が、女官に向かって何やら囁いている。寝台の周囲には紗が下ろされている為に、憎たらしい後姿のすぐ傍にいる女官の顔は判然とはしなかったが、トンマンにはやけに愛らしい顔立ちに見えた。背の高いトンマンとは違って背丈も程よく、まろみを帯びた腰つきが艶かしい。ように、見えた。
 何を話しているかは、相変わらずわからなかった。トンマンを起こさないようにと言う配慮か、それとも聞かれたくないような話でもしているのか、あまりにその時間が長く感じられて、トンマンはわざと咳をした。
 すると、すぐさまピダムが振り返って、女官を追い払った。足音も立てずに寝台に駆け寄る姿に少し溜飲を下げて、瞼を閉じる。眠ったふりをしていると、いつもなら狸寝入りに誤魔化されない男が、安堵したように吐息を漏らして寝乱れた髪を撫でた。

「……傍にいなくていい」

 しかし、今のトンマンにはその手つきが優しいことにすら腹が立って、低い声で呟いた。
 ピダムはその言葉に寸の間黙り込んだ後、ふっと笑ってトンマンの頬を撫でた。

「どうやら私は、公主様のご気分を損ねることをしたようですね。何がお気に障りましたか?」

 幼子をあやすような口調で訊ねられて、トンマンは益々腹が立った。思いっきり皮肉をぶつけてやりたいのに、上手く頭が回らない。

「お前は私の私臣だ。私の許しもなく……他の女に、微笑むな」

 結局、乾いた唇から飛び出たのは嫉妬をそのまま表したような言葉で。それを耳にしたピダムの瞳は、丸く見開かれた。
 自分の言ったことの意味は、まだ思考が纏まらないトンマンには良くわからなかったけれども、なんだか空気が変わったような気がして、ぷいっとトンマンはピダムから顔を逸らした。

「もう、一人にし――」

 ところが「一人にしてくれ」と告げる前にピダムの指先はトンマンの顎を捕えていた。拐うように唇を重ねたかと思うと、切なげに揺らめく瞳でトンマンを見つめる。

「私は公主様のものです。公主様だけの……」

 眼差しだけでなく、許しを乞う声すらも、とろりと甘く耳許を掠めていく。傲慢な支配者だった男の気弱な一面に、トンマンは微かに震えた。掌からそれを感じ取ったピダムは、この上なく優しく彼女を見下ろしている。

「お寒いのですか?」
「……違う」

 熱で頭がはっきりとしないからか、未だに慣れないその優しい物腰に我慢出来なくなって、気がついた時にはトンマンはぼろっと本音を溢していた。

「優しくするな。不気味で……嫌いだ」
「――」

 子供じみた文句は、あのピダムを黙らせる効果があったらしい。それに満足して小憎たらしい男に背を向けると、トンマンはさらにつっけんどんに命令した。

「あっちに行け。私は寝る」

 しかし、ばさりと布団を被ると、急に背中の気配が気になってきた。ピダムの気位の高さはよく知っているし、何より、今は二人きりだ。二人きりの時まで紳士ぶるピダムではない。
 ――さて、ピダム、どうする?
 一方、トンマンが全身で様子を窺っているのがわかるピダムは、肩透かしを食らわせるように立ち上がった。

「公主様。私は、病でお苦しみの公主様に、無体な真似は致しません」

 からかうようにそう告げられて、トンマンは布団の中で赤くなった。まるで、「私に触れて欲しいと言わんばかりだが、いい気になるなよ」とでも指摘されたような気がして、悔しさに肌がひりひりした。
 ――誰が、ピダムなんかにそんなこと……!
 もう公主になったのだ。彼の良いようにされる筋合いはないし、ピダム以外の者を私臣にしても構わない身分になった。今も、トンマンはピダムに出ていけと言っても構わないし、反対に、公主の私臣となったピダムは、トンマンの許しなしに婚姻することも出来ない。支配者は、ピダムではなく、トンマンになった。そのはずだ。それなのに……。

(こうしていると、昔とちっとも変わっていない気がする……)

 トンマンはピダムに鼻先であしらわれて、振り回されて。きっと、ピダムが密やかに女官に手を出しても、トンマンにはさっぱりわからないに違いない。
 そうして、しょぼくれたトンマンは、いつの間にか眠っていた。ピダムは本人の宣言通り、その日は触れることすらなかった。



 それから十日もの間公主宮に縛りつけられたトンマンだったが、実のところを言えば、三日ほどで床上げも済ませて、五日が過ぎた頃には暇を持て余すようになっていた。

「母さん、陛下にもう大丈夫ですからって伝えてくれない?」

 早く宮殿の外に出たくて、時にはソファにおねだりをしてみるのだけれども、ソファは苦笑するばかりだ。

「公主様、せっかくですから、お休みになってください。もうずうっとお忙しかったんですから」
「もう元気になったのに」
「もっともっと、お元気になってください。書物のことも、あと五日は忘れて……ね?」
「……」

 別れた時よりもしたたかになった義母をむすっと睨んで、トンマンは格子越しに外の景色を眺めた。
 暫くそうして見ていると、アルチョンが衛兵達が弛んではいないか見回っているらしく、木立の隙間から黄色い花郎の姿が見えた。思わず、今日はユシン郎はいないのかな――と思った、その時。

「何を期待しているんだ?」

 いつからいたのか、藪から棒に声をかけられて、首筋に氷でも当てられたかのようにトンマンはぎょっとした。

「逃げ出したい……いや、誰かに拐って欲しいとでも?」

 やけに絡んでくるピダムを振り返れば、彼は覚えのある底知れぬ漆黒の眼でトンマンを見ている。……そして、郎徒だった頃にそう言う眼を見てしまった時は、大抵トンマンの辿る道は決まっていた。
 お陰で、トンマンは逸早く逃げを打つことが出来た。さっと窓を開き、風を呼ぶ。その風がトンマンの下ろし髪を靡かせ、ピダムの頬を撫でると、その目許が刹那、苛立たしげに引きつる。勝ったとトンマンは思った。
 ところが、すぐにピダムの双眸から不快の色は消えて、ただ静かな眼差しでピダムはトンマンを眺め、つかつかと歩み寄ってきた。

「――」

 息を呑んで身構えるトンマンのすぐ横をすり抜け、窓に手をかけるや、あっという間にそれを閉ざしてしまう。その瞬間に、寝所の中に流れる風は消え、一気に空気が重苦しくなったようにトンマンは感じた。

「……外の風に当たるのは、五日が過ぎてからです」

 最後に囁くようにそれだけを告げて、ピダムは退出した。
 それを見送ったトンマンは、何事もなかったはずなのに立っていられなくなって、尻餅をつくように寝台に座り込んだ。激しい鼓動が胸を叩き、息を吐くにも難儀するような疲労感にどっと襲われた。
 しかも、近頃のピダムは、時折、トンマンが郎徒だった頃には見せなかった凄まじい眼を彼女に向けることがままあった。それに加えてその眼は、狂ったように抱かれる時よりもさらに強くトンマンを消耗させるのだ。
 ふっくらとした唇をきゅっと噛んで、トンマンはどこともつかぬ一点を見つめ続けた。


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  1. 2011.09.08(木) _00:00:00
  2. ダーク連載『迷宮』
  3.  コメント:4
  4. [ edit ]

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comment

おお! 迷宮シリーズ!

  1. 2011/09/08(木) 14:17:46 
  2. URL 
  3. すー※さん 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さん、こんにちわ♪
迷宮シリーズ! 待ってましたーー♪ 
ずぅっと想像していた公主編! 嬉しいです

嬉しすぎて舞い上がりそうです♪(すみません、変なテンションで・・・)

誰が主導権を握るかでの2人の攻防が楽しいですが、ドラマと違いここではピダムが主導権を握っててるのが1番嬉しいです!!!

楽しみに続きをお待ちしております

すーさん様へ

  1. 2011/09/09(金) 23:23:59 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
すーさん、こんばんはーv
うわわ、ありがとうございます!公主編をそんなに楽しみにして頂いていたとは思いもせず…。
細かく連載していくのは無理そうなので(←コラ)、迷宮シリーズも家族ものと同じく、出来るだけ齟齬がないよう気をつけつつ、色んな時代を書いていけたらなーと思いますw

迷宮シリーズはピダムが主役っぽいので、ピダムが主導権を握っていると言うか、よりトンマンに食らいついている感じですね!(ドラマ設定だと、実はトンマンの方がピダムにすっぽんのように食いついて放さないイメージが…)

続きもお愉しみいただけるよう頑張りますー!

管理人のみ閲覧できます

  1. 2011/09/09(金) 23:36:58 
  2.  
  3.  
  4. [ 編集 ] 
このコメントは管理人のみ閲覧できます

うさこ様へ

  1. 2011/09/10(土) 23:40:42 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
うさこ様、こんばんはーv
今日は暑かったですねぇえ…!久し振りにアイスを食べました(笑)

今回は公主時代なので、郎徒時代とはまた違う緊張感みたいなものが出せたらなーと…。実は子持ちですし、夫婦っぽくなってるところもあるんですが、トンマンの立場が変わったことで一気にピダムの焦りのレベルが変わったようです。また、子持ちになる前後で揉めてる設定なので、そこら辺のしこりもある…感じでしょうか。

> 『しかも、近頃のピダムは、時折、トンマン が郎徒だった頃には見せなかった凄まじい眼 を彼女に向けることがままあった。それに加 えてその眼は、狂ったように抱かれる時より もさらに強くトンマンを消耗させるのだ。』
>
> というあたりが全体のお話を集約しているような?で、次話への布石のような?
> 嫉妬とか疑いがちらちら見え隠れするかんじがいいです。

ありがとうございますー!そう仰って頂けると嬉しいです。続きで布石を回収出来ているかは別にしてw
今おまけを書いているところなので、それも合わせてお楽しみ頂ければ幸いですv


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