善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

リレー小説書くのを忘れてたぁあああ!!!と気付いたのが連休最終日の夜。
いやはや、自分のしでかしたことにいっぱいいっぱいで、もっと前に自分がしでかしたリレー小説が疎かになってました…。反省。

※今回、オリキャラ色が強いです。苦手な方はご注意ください。


* *


 時は遡って、ピダムが帰路を急ぐ前日のこと。

 店の奥でちょうどその日に仕入れたばかりの品をあらためていた若旦那は、小者の話を聞いても、暫くは何も答えなかった。弛んだ口調が特徴的な彼とて、商いに対して怠けるつもりはないのか、鋭い眼光で一つ一つの品を矯めつ眇めつ見ている。
 やがて手元にある全ての品を見終えると、年輩の使用人を呼んで、赤い石を使った首飾りを翳して告げた。

「ほら、粗悪な品が混じってる。こんなものを寄越す奴とは商いが出来ないと言って、突き返しておくれ」
「は……」

 この地では見られない雪と同じ色の髪を上品に結い上げている老人は、若旦那の口調とは対照的に、ゆるゆると頭を垂れた。が、その頭が上がりきる前に、若旦那はまた口を開いている。

「まったく、こう言う物を一つでも売っちまうと、この店が安く見られるってのに……。親父様は肝心なところで抜けていなさるよ」

 ところが、若旦那の父親への文句を耳にした途端に、老人はぴしりと背を正し、威厳に満ちた眼差しをちらと若旦那に向けた。幼い頃に店の物を玩具にした為に散々この老人に叱られたことが思い出され、若旦那の身が強張る。

「な、なんだよう」
「……若旦那。まだ、このお店は若旦那のものではござりませぬぞ」

 さすがに年だな、のろまになって――と彼を甘く見た若旦那に極太の楔を打ち込むと、にっこり笑って好好爺の顔になり、再び老人はのろのろ頭を下げた。

「坊ちゃまのお目の確かさを拝見し、この爺も嬉しゅうござります」

 それだけ言って、亀のような歩みで老人は去った。
 若旦那は、かなり時間が経ってから、はぁと大きく嘆息した。

「嫌だ嫌だ。じじいめ、まだ呆けてないのかい」

 文句を言いながら足を崩して座り直し、トントンと指先で卓を叩く。次の瞬間、若旦那はぽろりと零した。

「玉虫色だなぁ」
「は……?」

 何のことやらわからず呆けた顔をする小者を見もせずに、話し続ける。

「その飯店だよ。お前が噂を流したら、馴染みの商人がすぐに食いついたって?」
「は……はい」
「面白い」

 トン、と一際大きな音を立ててから一度指の動きを止めると、若旦那は食えない笑みを浮かべた。

「つまり、馴染みの商人達が見るに、あの飯店の主一家は、この御時世にも関わらず、危ない橋を渡ってでも商いをする連中と言うわけさ。商人の鑑じゃないか」
「……はい」
「そして、私も商人の鑑だから、儲け話は見逃さない」

 さて、と立ち上がると、若旦那は砂避けの布に手を伸ばした。

「行こう。今から行けば、日が落ちる前にお目通りを願えるからね。お前の褒美はその後だよ」





 ザズは小者が入った店を見て、眉を上げた。

(……ここ、確かお袋が好きな店じゃなかったか?)

 女物のことには疎くはないが詳しくもないザズとしては、この店に関して覚えているのは、この店は安い店ではない、と言うことだ。だから、彼の母は、何か祝い事があった時などに、夫に――つまりザズの父にこの店の品をねだる。そのおねだりが上手く行けば夫婦円満、子供達も美味しいご飯にありつけるが、もし後に禍根を残すような結果になれば、暫くはご飯が不味くなるので、ザズもこの店のことは覚えていた。

(確か……俺が子供の頃からあるよな、ここ)

 商売は手堅いと言う噂だったし、ザズの父親が目をつけたと言うこともない。いや、より正確に言えば、その店の主と、自警団の頭領であるザズの父親は、お互いの仕事柄良好な関係を築いており、店主はザズの父親が買い物をする時は値引きまでしてくれる。店にも、店の者にも怪しげな噂は何一つない。
 しかし、この店の小者が――それも、自分の時間などろくにないであろう小者が、昼日中から離れたところにある飯店に行くのは、普通のことではない。それは確かだ。
 風に煽られて崩れた髪をさっと撫で付けると、ザズはその店の隣にある店に顔を入った。そちらは武具屋で、ザズが一人で入ってもおかしくない。

「なあ、ちょっと、この剣なんだが……」

 ちょうど、喋るのが好きそうな、いかにも蘊蓄を垂れ流す手合いの男がいたので剣のことを聞いてみると、男の舌はすぐに軽やかに回り始めた。そうして勉強もかねて散々その蘊蓄に付き合った後、ついでのように隣家の小物屋について水を向けると、小物屋は女が、うちの店は男が客だからかろうじて商売敵にならずに済んでいると言うようなことを語られてから、ようやっとザズは欲しい情報を手に出来た。

(珊瑚の髪飾りをつけた若旦那! そいつがあの小者が入った店の跡取りだって?)

 しかも、最近戻ってきたばかりとは。
 砂埃に噎せていた男を懸命に脳裏に描き出して、ザズは腕を組んだ。

(なんで小物屋の跡取り息子がピダムの店を気にする? さっぱりわかんねぇ)

 嫌な予感だけは鳥肌が立つほどあるのだが、何がどうなっているのやら、ザズには理解出来ない。……ただ、もし悪友が絡んでいるなら、一つだけ思い当たることがある。

(あいつ……あの若旦那って男がこのオアシスに帰ってきた時に、客引きでもしてたんじゃないか?)

 てっきりオアシスへやって来た商人かと勘違いして客引きした挙げ句に、何か余計なことを言ったかやったかして、若旦那の恨みを買った。
 ……あいつなら有り得る、とザズは頭を抱えた。それと同時に、なんだか拍子抜けもして、ザズはとぼとぼ通りを歩いた。

(諸侯のことで大変なこの時に、何やってんだろ、俺……)

 もう西の空に赤みがさしてきたと言うのに、今日一日、やったことと言えばぎゃーぎゃー喚き、走り回ったことぐらいに思える。しかし、それでも悪友の大事な家族に、嫌がらせに気をつけるよう注意ぐらいはしておかなければ。
 ――ザズが去って間もなく、件の若旦那は諸侯に会う為に表へ出たものの、これも宿命か、ザズはその姿を見ることなく悪友の家へ向かったのだった。



 日暮れを迎えた飯店では、トンマンが店先にある行灯に灯を入れて回っていた。ぽつぽつと小さな灯りが増えていくと、昼間は少々古臭く見える建物の見栄えがぐっと良くなるのだと悪友兄妹が話していたことを思い出して、ザズは顔を綻ばせた。
 ――その時、灯りの入れ忘れがないかと辺りを見回したトンマンが、目敏く兄の友人を見つけた。

「あれ? ザズさん?」

 トンマンは足取り軽くザズに駆け寄ると、眉尻を下げた。

「ザズさん、ごめんなさい。兄さんはまだ帰ってきてなくて……。何か、急用ですか?」

 そう言えば、特に用事もないのに一日に何度もこの店を訪れるのは初めてだった――。
 ザズは頬を掻いてトンマンの手から灯りを奪うと、邪魔にならないよう時を見計らって用件を告げた。一応、悪友の名誉の為に、「俺の勘違いかもしれないけど」と断ってから。
 けれどもやはりザズの予想通り、トンマンは話を聞き終えるなり、「兄が小物屋の若旦那から恨みを買った可能性は高い」と判断した。

「もう! 今日もなかなか帰ってこないし、やっぱり兄さんに客引きは任せられない。ね、おじさん」
「……ああ」

 大皿を持たされている巨漢の男は、さすがに少しはトンマンの扱いにも慣れてきたのか、当たり障りのない返事をして、さっさと言われたことをしている。

「旦那は、覚えがいいですねぇ」
「……」

 が、うっかりザズが軽口を叩くと、無言で睨んでくるので、ザズは素早く話題を切り替えた。

「そう言うわけだからさ、トンマン、今日から暫く、ピダムが客引きに行ってる間は、俺が寄らせてもらうな。隋にかぶれた奴は、ろくなことしねぇし。田舎者は黙ってろ、なんて言いやがる」
「でも、お代は踏み倒さないよ。ちゃんと払ってくれるもん」
「態度はでかいだろ」
「それはそうだけど……でも、お代を踏み倒される方がやだなぁ」

 どこまでもちゃっかりしているトンマンは、ぶつぶつとそう溢した後、ザズが何気なくチルスクが持っている大皿の中身へと伸ばした手を、反射的に叩いていた。

 ――そして、同じ頃、噂の若旦那は、諸侯への拝謁を願っていた。


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  1. 2011.07.22(金) _21:25:28
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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