善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 至高の檻穽

50万打の御礼SS、『SS 太一』の続編『SS 至高の檻穽』ですー。

これまでこのブログに来てくださった皆様、ありがとうございます!
御礼と言うには暗い話ですが(笑)、お楽しみ頂ければ幸いですv


* *


 徐羅伐は、いつになく吹雪いている。
 しかし、便殿に並ぶ者達の頬は、興奮気味に紅く染まっていた。囁き声すらない静寂を、誰かの喘ぎが微かに乱していく。その波が大きな山を迎えた頃、落ち着き払った沓音がそれを踏み潰した。

「――陛下の御成りです」

 その沓音の主が紫衣を靡かせ横を向くと、続いて現れた女人が一同の眼を浚った。

「陛下、どうぞ玉座へ」

 息の詰まるようなその沈黙を、紫衣を纏ったピダムが容易く打ち払う。その声に耳を傾けもせずに、トンマンは階を踏みしめ、玉座へと腰掛けた。
 そして、ピダムもまた、階の上へと立った。――王に背を向け、居並ぶ者達を見下ろす姿は、彼が紛れもなく『王』であることを、全ての者の胸裏に刻みつけた。

「上大等ピダム、和白会議の開会を宣言する。――議題は、副君だ」
「……上大等」

 その瞬間、やって声を発することを思い出したかのように、ミセンが問い掛けた。

「上大等、副君とは? 我々は、陛下に譲位して頂く為に集ったはずです」

 ミセンの眼差しが、ピダムを過ぎ、トンマンへと注がれると、堰を切ったようにハジョンが賛同の声を上げた。

「そうです! 和白会議なら、すでに終わっていますよ」
「――いや」

 その声を遮り、ピダムは淡々と反駁した。

「先の和白会議は、二名の大等を欠いたものであった。畏れ多くも陛下の『御譲位』を求める和白会議に、不備があってはならない。故に、本日只今をもって反逆者キム・ヨンチュン、キム・ソヒョンの二名を大等より廃す」

 大等の欠員が出た――。その事実に、今度こそ大等に復帰出来るだろうとハジョンが自信たっぷりの笑みを浮かべた。
 ところが、ピダムの次の言葉はハジョンの期待をぽっきり折った。

「だが、乱により玉璽が失われた為、今は新たな大等を任命することが出来ない。玉璽が出来上がるまでは、非常時の措置として、上大等ピダムが副君となり、その権限により国政を執る。――これは、宸意である」
「上大等……」

 確かに、上大等には、王の代わりに政務を執る権利がある。けれども、てっきりピダムはすぐにでもトンマンを廃位して自ら即位するに違いないと考えていた貴族達は、驚きを隠せなかった。そして、そんな中、トンマンだけは、やはり何ら動揺を見せなかった。



 ピダムがそのことをトンマンに語ったのは、二人が便殿に赴く直前のことだった。

「廃位も譲位もしないだと?」
「はい」

 乱の前と変わらない席に座した二人は、夜明けまで続いた濃密な交合を少しも感じさせない冷徹な声で話をしていた。

「私は、真智王の遺児として即位はしません。奈勿大聖神帝の先例を用いて、あなたの夫として副君になり……」

 そこでピダムの眼差しは強くなり、再びその貪婪さが牙を剥いたが、今は時ではないと感じたのか、光を消した眼でトンマンを眺めた。

「……まずは失われた玉璽を新たに作り、唐に使節を送って後に、即位します」
「……」

 王宮を脱出するチュンチュに自ら玉璽を預けたトンマンは、暫くの間、何も答えなかった。それから、ふと前を見据えて、ぽつりと呟いた。

「私を手放さない限り、お前は孤立無援だ」
「――いいえ」

 ピダムもまた、トンマンから一度その眼差しを逸らしたものの、先刻よりさらに力のある眼差しでトンマンを絡め取った。

「あなたがいなくなった時、私は全てを喪うのです」
「……ピダム」
「便殿に参ります。陛下」

 ほとんど休んでいないトンマンの身体を気遣ってか、差し出された手を睨み付けると、トンマンはその手は借りずに歩き出した。


**


 それから、目まぐるしく一月が過ぎた。
 ピダムは副君兼上大等、さらには大将軍となって権力を掌握していた。民政においてはトンマンの方針を継承することで民心を落ち着かせ、落ち度なく政務を執った。
 また、チュンチュ達が逃げ込んだ復耶会の拠点だった砦を続けざまに陥落させて、アルチョンとヨンチュンを、続いてウォルヤを捕らえていた。残るチュンチュとユシンとソヒョンは玉璽と共に間一髪で脱出し、ユシンの弟フムスンの守る城へ入った。そこが最後の砦であり、最も攻め難い砦でもあった。
 トンマンは、抜け道だらけの仁康殿から、ピダムが急ぎ建てた宮へと移され、表向きには、療養と称して幽閉されていた。
 しかし実際にはその宮は、トンマンの病が悪化することと、彼女の身を誰かに奪われることを恐れたピダムが建てた要塞に等しかった。事実、いつまでもトンマンを廃位しないピダムに業を煮やした貴族達は、隙あらば、チュンチュらの仕業と見せ掛けトンマンに刺客を寄越している。
 ちなみに、要塞の守りにはサンタクが充てられた。トンマンを任せられるのは、彼しかいなかったのだ。
 こうして、王であるまま幽閉されたトンマンは、ただ静かに日々を送っていた。そして、夜になれば、その傍らには必ずピダムの姿がある。

「今夜は顔色がいいみたいだ」

 その日は彼を怒らせるようなことはなかったのか、落ち着いた様子で現れたピダムは、そっとトンマンの頬を撫でると、心からの微笑を浮かべた。愛おしさを隠さないその掌を、トンマンは黙ったまま受け入れている。ピダムが名を呼んでも、以前のような動揺は見られない。
 日に日に寡黙になっていくトンマンは、ピダムの心を締め付けた。

「トンマン……」

 それでも、抱きしめれば抗わずに身を委ねてくれることはピダムにとっては安らぎだった。
 王に代わって政務を執るようになって、ピダムは痛感していた。――頼れる右腕がいないことが、いかに苦しいことかを。
 ソルォンがいれば、ソルォンならばと、ピダムは彼の考えをまるで理解出来ない頼りにならない側近達に対して、この一月の間、幾度も幾度も苛立ちを感じていた。
 それと同時に、ユシンの投獄後の、トンマンの己への態度の硬化の理由も、わかるようになっていた。
 あの一件では、ピダムは決して間違いは犯していなかったが、トンマンの意に服従する姿勢は取らなかったし、トンマンの為にどこまでもユシンを庇うつもりもなかった。ユシンへの嫉妬もあって、如何に赦免させるかではなく、如何にして王の顔に泥を塗った罪を償わせることを第一に考えていたのだ。
 つまり、トンマンは頼れる右腕であり、相談相手であり、補佐でもあるピダムを失ったも同然だった。

(今の私は、まだあの時のトンマンより遥かに楽な状況にいるな……)

 トンマンは積極的にピダムを支援するようなことはしなかったが、ピダムの政策がトンマンのそれを下敷きにしていることを知っている為か、彼の慰めとなることに抵抗は見せなかった。トンマンはチュンチュを殺さないことを条件にピダムに副君の座を許して以来、チュンチュがまだ王になるには力が足りないなら、ひとまずピダムに王権を預け、自らはそれを監督することを選んだらしかった。
 ピダムもトンマンの考えを受け入れて、王としてのトンマンへの報告は欠かさずにいる。
 けれども、ピダムにとって何より大切なのは、やはり、二人が夫婦として過ごす時間だった。

「んっ……!」

 簡単に壊れてしまいそうな身体をきつく抱きしめると、何も言わずとも、優しく背を抱いてくれる手。唇を重ね、啄む度に漏れる熱い吐息に、微かな声。どこもかしこも絹糸よりも柔らかく、なめらかな肌。その全てが狂おしいほどに彼を駆り立て、一夜たりとて離れることを許さない。

「トンマン……トンマン」

 汗ばんだ肌は交歓が激しさを増すほど熱くなって、甘美に蕩けていく。寒くないようにと互いに羽織ったままの寝衣は、徐々にその役目を失い、二人の肌の濃淡を露にしていた。
 少しでも隙間があることが許せないかのように、ピダムは黒髪を絡みつかせて豊かな曲線を描く雪肌に食らいついた。

「っ、ぁ……」

 抗い難い悦楽が身体を痺れさせると、いつの間にか背から滑り落ちていた手でピダムの肩を掴み、トンマンは切なげに眉を寄せた。
 けれども、頭の芯が砂と化して消えてしまいそうな快楽の最中で溺れている時にこそ、トンマンは思う。――これは、政略の一つだと。全ては、トンマンとピダムの、まだ終わりを見せない戦いの中のひとかけらに過ぎないと。

「トンマン、愛してる……」

 それはピダムも同じだった。「愛しているかもしれない」としか言わないトンマンから、女王の鎧を剥ぎ取る為の戦い――その一つが、夜毎深遠さを増す身体の交合だった。
 時折、死んでしまえば、己の勝利になるだろうとトンマンは思った。この、『トンマン』を求めて止まない男から、『トンマン』を奪ってしまえば、きっとこの男は壊れてしまうはず。ならば、それもまた、考慮に入れねばならない一手だろうと思う。卑怯な、卑劣な一手だけれども。
 ――どうすれば良いのだろう。何が、誰が、神国をより良くするのだろう。
 考えても考えても答えの出ない問いで雁字搦めにされているトンマンは、乱の前と変わらない『王』のままだった。

「……」

 そして、恍惚の中にいるはずのトンマンが刹那に見せる怜悧な眼差しが、ピダムには歯痒かった。
 ――違う。違うんだ。あなたにそんな顔をして欲しくて、俺は乱を起こしたんじゃない。
 王として苦しみ抜いたトンマンに、救いの手を差し伸べたかった。乱が失敗されたなら、彼女を悩ます貴族どもと地獄に落ち、乱に勝利したなら、一人の女としてトンマンを愛しむつもりだった。現に、そうしているはずなのだ。
 それなのに、眼下にいて、強く抱きしめているはずの彼女が、どうしても遠い。何度二人で涯へ辿り付いても、瞼を上げた瞬間に、もうひんやりするような隔たりを感じる。……そうして、玉座にいた頃と同じように、その魂まで抱きしめることが出来ずにいる。

「愛してる。トンマン、愛してる……」

 ――うわ言のように繰り返す言葉は、どれほど彼女に伝わっているのだろう。濃い睫に浮かぶ涙は、己の為のものなのか、それとも違う誰かの為のものなのか、いつになったらわかるのだろう。
 餓えて、渇いて、ピダムは何度でもトンマンを抱きしめた。とても言葉では表し尽くせぬ全ての想いを、願いを伝える術は、他にない。

「ピダム……」

 その時、ゆっくりとトンマンの瞼を上げてピダムを見た。白い指先がそっと頬に触れ、いつの間にか垂れていた汗を拭い、頬に張り付いていた髪を後ろへ流す。そのまま疲労の色の濃い頬を掌で包み込むように触れて、トンマンは仄かな苦笑を漏らした。

「……めちゃくちゃだな」
「え?」
「いや……不思議だなと思ったんだ」

 ほう、と涙の混じった吐息を零して、トンマンはうつろに微笑んだ。

「ピダム、知ってるか? お前は……私とこうして二人きりでいる時、一番酷い顔をしているんだ」

 その言葉に、ピダムは何も答えられなかった。トンマンもまた、ピダムの応えなど求めていないかのように、間を置かずに言葉を紡いだ。

「お前がそうなら……私もそうなのかな。……きっと、お前といる時に…………一番、酷い顔をしているんだろう」
「……」

 何も言えないまでも、せめてその言葉の意味を考えようと、ピダムは黙り込んだ。きっと、きっと大切なことに違いないから、考えなければと眉を顰めた。
 けれど、ふっとトンマンが顔を背けた途端に、こちらを向かせたくて、本能が思考を蹴散らした。大事な言葉を紡ぎ出す唇を自ら塞いで、ただひたすら全身の感覚をもって彼女を感じようと、ピダムは全ての苦しみを吸い取ってくれるはずの肌に埋もれた。



****

やっぱりこの手の話は特に恥ずかしいwですねー!!
……なんとか『太一』の雰囲気に近づけようと奮闘はしましたが、今ひとつかもしれません(汗)『太一』を好きと仰ってくださった皆様に、どうか少しでもお楽しみ頂けますように…!
そして管理人は能天気なイチャイチャものを書くべく妄想をスタートさせたいと思います。←
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  1. 2011.08.16(火) _17:01:36
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
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