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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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【ときめき10の瞬間】 ヒノ望+敦盛SS

熊野ED後のヒノ望SSです。
ゲストは敦盛さん! ヒノエくんと敦盛さんのコンビは夢浮橋でも素敵でしたが本編でもいいなあと改めて愛蔵版で実感しました。普段は控えめな敦盛さんがヒノエに対してだけは辛辣だったり鋭いツッコミを入れるところが大好きですv


* * *


 ヒノエと望美の婚儀に参列した後、敦盛はヒノエの勧めもあって熊野本宮からそう離れていない山の中に庵を結び、そこで暮らしていた。心静かに、屠った命の成仏を願って経を読む日々を過ごすうちに、いつかこの熊野の清浄なる大気に溶けるようにして消えることが出来るなら……と。そう願っていた敦盛は、その日、意外な訪問客を迎えて驚きに目を瞠った。

**

「……なんだよ、お前もオレに先に謝れって言いに来たのか?」

 敦盛は「よう」といつも通り(と言うには随分と声が低かったが)挨拶をした後、いきなりそう切り出されて、少しばかりその愛らしい顔を傾けた。が、望美がいれば「可愛い……っ」とひっそり悶えそうなその所作も、今のヒノエにはなんら効果はないらしい。ぶすったれたままのヒノエは敦盛が室の中にいることは黙認したものの、それ以上何か敦盛の為に譲るつもりはないらしく、彼にしては荒っぽい筆遣いで決済を進めていた。
 そして敦盛もまた、烏に頼まれて来たものの、何をしたら良いやら、さっぱりわからない。なので敦盛は正直に、それを伝えてみた。

「いや……仲裁を頼まれて来たのだが、未だに何を言えばいいかわからないので、こうして黙している」
「……………………あっそ」

 敦盛の正直さに拍子抜けしたのか、ヒノエもそれっきり、敦盛がいることなど忘れたかのように執務に励んでいる。まだ外での身体を使う仕事なら良かっただろうに、どうやら今日の彼は一日筆を持ったままでいなければならないらしい。あれでは、日頃から行動的なヒノエのこと、鬱憤が溜まるだろうと敦盛は彼なりにヒノエを気遣ってみた。心の中で。

 それから暫く経って、もうだいぶ日も傾いてきた頃、唐突にヒノエが立ち上がった。もちろん寝ていたわけではない敦盛は、その動きを目で追った。
 ヒノエは、敦盛の前まで元々癖の強い髪をかき回すように弄りながらやってくると、どかっと乱暴に座った。

「……頼む」

 それはそっぽを向いて、不貞腐れた顔での“おねだり”ではあったが、敦盛は「わかった」と頷いていつも持ち歩いている笛を取り出した。
 幼い頃、僅かではあったが共に過ごした時、よくヒノエは敦盛の笛を嬉しそうに聴いていた。やんちゃで手のつけられない大人びた少年が、その瞬間だけは年相応の子供らしい可愛らしい笑顔を見せるのが一つ年上の敦盛には良いように思えて、ヒノエがねだれば幾らでも笛を奏した。……最も、病弱な敦盛はそのせいでよく体調を崩し、ヒノエは叱られていたが。
 やがて、敦盛が二曲ほど奏で終わった時、またしても唐突にヒノエが腰を上げた。

「……ヒノエ?」

 ゆっくりと敦盛が立ち上がったヒノエを見上げる。見上げて、ヒノエの表情が先ほどとは違うことに敦盛は気付いた。

「…………敦盛、ごくろーさん」
「……どこへ行くんだ?」

 なんとなく想像はついていたが、敦盛は訊ねた。ヒノエの答えを聞く為に。
 ヒノエは今度は照れ臭そうに首の後ろに手を回した。望美を相手にすると、彼は途端に不器用になる。それが敦盛には微笑ましかった。

「決まってんだろ。神子姫様のところだよ。……白龍に「帰りたい」とか頼んでたら、取り返しがつかねえし。…………望美なしは、もうありえねぇから」
「……そうか」

 そこで初めて敦盛は嬉しそうに微笑むと、ふいに格子の向こうへ声を掛けた。

「……だそうだ、神子」
「なっ……!?」

 幽霊が現れてもそこまで動揺しないだろうヒノエが、弾かれたように格子の向こうを見る。ようやくそこに佇んでいた望美の気配に気付いた彼は、些か乱暴に格子を上げ、それを飛び越えた。

「望、美……」

 望美もまた居心地が悪そうにヒノエを見て身じろぎした。彼女もまた反省して謝りに来たのだが、敦盛の笛の音が聞こえた為に入れずにいたのだ。

「…………」
「…………」

 二人は暫くの間、無言で互いを見詰めた。
 敦盛はそんな二人を見て、自分の役目が終わったと思い、静かに立ち上がり、奥へと消えていった。烏を寄越した湛快に、事の次第を報告しなくてはならない。
 一方、ヒノエと望美は敦盛がいなくなったことにも気付かぬままでいたが、ややあって、望美がぽつりとヒノエに語りかけた。その顔には、困ったような、泣きそうな、それでいて優しい微笑が浮かんでいた。

「……ヒノエくんって、私のこといっぱい誉めてくれるけど……私が一番嬉しい台詞は、敦盛さんに言っちゃうんだね」
「…………」

 望美の言葉を受け、ヒノエは彼にしては珍しく言葉に窮した。

「……私ももう、ヒノエくんなしはありえないから。……ごめんね、怒鳴って」

 ぎゅっと望美がヒノエの背に腕を回し、細い彼女の身体で精一杯ヒノエを包み込むようにして抱きしめる。後日、「ありえねぇ。このオレが、ありえねぇ」と散々ボヤくことになるこの日のヒノエは、望美からの抱擁によって初めて眉間に深く刻まれた皺を薄めていった。

「いや……オレも、ごめんな。……酷いこと言って悪ぃ、望美」

 望美を抱きしめ、くしゃりとヒノエが頭を撫でる。ヒノエにしては珍しく乱暴なその指先に、望美は嬉しそうに笑って彼を抱きしめた。


***
【ときめき10の瞬間】04. 乱暴に頭を撫でる指先
恋したくなるお題様より
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  1. 2009.06.15(月) _22:03:05
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