善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 厳つ霊(上)

落乱の映画を観に行きたいのですが、なかなかちょうどいい暇がありません。はよ夏休み来いーと落乱最新刊にお願いする日々です(ちょ)

キム・ソヒョンマンミョン
続きは、ソヒョンパパとマンミョンママの、馴れ初め話です。
ソッちゃん話に引き続き、需要はないだろうと思われるSSを書いてすみません…!


* *


 閃光を煌めかせた雷は、次の瞬間、どんっと地鳴りのように地を貫いた。大の男ですら怖じ気づくような大嵐に、馬はすっかり怯えてしまっている。小さなあばら屋など今にも吹き飛ばしてしまいそうな風には、さすがのソヒョンも内心困っていた。

(馬がこれでは、逃げられんぞ)

 一息に任地の萬弩郡に帰還するはずが、とんだ足止めを食らわされてしまった。家人に調達させた宿へ行こうにも、まだまだ遠い。己一人ならどうと言うこともないが、深窓に育った公主には辛いだろう。
 どちらにせよ、天の気紛れが終わるまでは打つ手なしだと、ソヒョンは公主へと視線を向けた。
 その公主――マンミョンは、着の身着のまま拐われた為に、寝衣の上からソヒョンが持ってきた鼠色の上衣を羽織っただけの姿だったが、男に拐われているのだと言う事実をわかっているのかいないのか、まるで今も自分の室にいるかのように、ちょこなんと藁の上に座っている。おんぼろ格子の隙間から稲妻が光り、地鳴りが起きればびくんと跳ねていたが、悲鳴を上げるわけでも、泣くわけでも、ソヒョンを罵るわけでもない。

「……」

 ――初めて逢った時もそうだったが、どうもおっとりしていると言うか、物に疎い公主様だな。
 これだから、老いた実父が一人娘を手放す決心をつけられないのだろう。こんなぼんやりした公主では、後宮には入れられないし、妹より嫁き遅れても無理はない。実父に猫かわいがりされて育った公主マンミョンは、実父の記憶を持たないソヒョンからすると、どうにも遠い生き物であるらしい――。ソヒョンはそう確信した。
 しかし、煩い老父のいる残り物に惚れて、こうして無理矢理拐ったのは、ソヒョンその人なのだ。

(……何を考えているのだろうな、私は)

 もう少年ではない。幼い頃に父に死なれ、花郎となってすぐに母にも死なれて、親のない者として、金官伽耶の者として、苦労ばかりしてきた。苦労に苦労を重ねて、おかげで老け込んで、やっと副弟の地位を手にした。
 ……にも関わらず、こんな苦労知らずの公主に惚れたばかりに萬弩郡へ左遷され、今またこうしてその公主を拐ったが為に、目をかけてくれたマノ太后と、この公主を溺愛する老臣スックルジョンの恨みを買おうとしている。

(私はそんなにこの公主に惚れているのか? 何もかもを失っても良いほどに?)

 いざ人生を懸けた恋の相手として公主を見ると、公主マンミョンの見た目も性格も、恐ろしいほどに冴えがないように見えた。ミシルのような、数多の男を虜にする艶やかさもない。もしマンミョンにその辺の女には及びもつかない価値があるとしたら……。

「……公主様」

 ――この冴えない少女が、太后を母とする聖骨の公主であることだけだ。
 ソヒョンの呼び掛けともつかぬ呟きは、雷に掻き消されてしまいそうなほどに小さかった。ところが、何も聞いていないようだったマンミョンは、ソヒョンの呟きに反応して彼を見つめると、静かに告げた。

「ソヒョン郎。萬弩郡へ着いた時、きっと、わたくしは公主ではなくなっていますわ」
「――」

 急に薄暗いあばら屋に虹がかかったかのように目を丸くしたソヒョンを見つめたまま、マンミョンは真摯に告げた。

「今なら、まだ間に合います。嵐の間にわたくしを還して数年の左遷で済ませるか、それともわたくしを萬弩郡へ連れて行って、聖骨でなくなったわたくしと暮らして、萬弩郡に骨を埋めるか。どちらになさいますか? ソヒョン郎」



 ソヒョンが初めてマンミョンに逢ったのは、二人があばら屋で足止めを食らう、僅か一月前のことだった。

「不細工ゆえに、陛下の妹君なのに風月主の奥方にもなれず、後宮にも入れないんだと口さがない郎徒達が噂をしています。宜しいのですか?」

 憂えるようでいて、どこか面白がるようなその口調。副弟には相応しからぬソヒョンの無礼さに、風月主ポリはにやりと笑った。

「言わせておいて構わないよ、ソヒョン郎。僕だって、なんで姉じゃなく妹が吾が妻になったのか、もう五年も疑問に思ってるんだ。郎徒達は僕の気持ちを代弁しているだけさ」
「左様ですか」

 ポリの妻は、マノ太后の末娘マニョン。まだ御歳十二歳の少女である彼女がポリの妻になったのは、彼らの母がそう望んだからだった。
 ポリの母スクミョンと、マニョンの母マノ太后は、真興大帝の生母であり、大帝の摂政として絶大な権力を誇った太上太后チソの娘なのだ。二人は、父は違えど繋がりは深く、事実、ポリとマニョンは兄妹同然に育った。また、特に母二人の繋がりを深くしたのは、スクミョンと真興大帝の息子であり、一時は太子になりながらも、スクミョンの恋の為に廃位されたチョンスク王子だった。――マニョンは、チョンスク廃太子とマノ太后の間に産まれた、唯一の娘なのだ。
 つまり、ポリにとって、幼妻マニョンは異父兄の娘であり、母の姪でもある。年齢差も、今は大きいけれども、すぐに気にならなくなる程度のものだし、差し当たり「釣り合った相手」だ。
 その点、ソヒョンとマンミョンは、到底「釣り合った相手」とは言えない組み合わせだった。
 ソヒョンの母アヤンは、真興大帝とサド法主の娘であり、れっきとした聖骨の公主だったが、その夫となったムリョクは金官伽耶王家の三男坊で、彼が中年になってから聖骨の公主を妻に出来たのは、彼が百済軍を打ち負かし、百済の聖王の首をあげると言う最高の戦果を新羅にもたらしたからだ。
 そして、その両親は、すでにいない。ソヒョンは、一人ぼっちだった。

「お会いしたことはないのですか? 義理の姉になる方なのに」
「ないよ。スックルジョン公の息子にも会わせないらしい。あんなに勿体振っちゃ、貰い手もなくなるだろうね。あるいは……」

 ――あるいは、もう貰い手が決まっているのかもしれないけれど。
 ポリが敢えて言わなかったその『貰い手』の正体は、ソヒョンには何となく想像がついた。
 先月、長女チョンミョン以来久方振りにマヤ王后が産んだ王子は、生後間もなく衰弱し、夭逝した。マヤ王后の嘆きは深く、また暫く子は授からないだろうと噂されている。

(そうだな……。きっと、また王子を産んでも……育たないだろう)

 今回の王子の死で、王夫婦の周囲には、ミシルの『悪意』を退ける力がないことがはっきりした。母太后が気を揉んでも、無理はない。
 ――やはり、マヤでは駄目だ。マヤには、この残酷な宮中で王子を育てる『力』がない。
 ならば、どうすべきか。
 美貌の裏に底知れぬ苦悩を秘めた太后の眼は、彼女の二人の娘のうち、何故だか掌中に仕舞い込んでいた長女へと向いたのだろう。いや、元々後宮に入れるつもりだった娘の、新たな『使い道』に気付いたのかもしれない。
 ミシルを王后にすまいと、太后は必死なのだ。例えマヤ王后が死んでも、異父妹ならば王も受け入れると踏んで、適齢期の娘を手離すまいとしている。
 なんとなれば、あと五年もすれば、さすがのミシルも子を産める年齢ではなくなる。この五年が勝負なら、まだねんねの妹ではなく、とっくに一人前の女になっているであろう姉を手元に置くのも無理はなかった。

(……大変だろうな、あのミシルの対抗馬は)

 マヤ王后の不幸を目の当たりにしている太后は、今頃は、娘に惜しみない教育を施しているのだろう。惜しみない教育を――。

 ふっと湧いた興味に突き動かされて、ソヒョンは太后宮の侍女を姉に持つ遊花に近付いた。その遊花の手引きでマンミョンが寺に詣でる際の護衛を勝ち取り、笠に垂らされた紗を通して、その顔を見て。
 気が付いた時には、何をしているのだろうと首を傾げながらも、よりによって境内で苦労知らずの柔らかい手を掴んで、侍女達を追っ払い、わけのわからないことを口走っていた。

「このキム・ソヒョン、公主様をお慕いしています。やっと二人きりになれて、光栄です」
「……」
「さぞ驚かれたでしょう。どうぞ、何か仰ってください。御声を聞かせてくださいませんか」
「……」

 が、マンミョンは貝のように唇を閉ざしたまま、何も答えなかった。恐れ戦いているのかと思ったが、手は震えていない。
 焦れたソヒョンは、一先ずマンミョンを抱きしめた。のんびりしている時間はないのだ。
 ややあって、ゆっくりとした動きでマンミョンはソヒョンを押し出し、甲高くはない声で告げた。

「……じっくりと考えてみましたが、やはり、私はあなたには今日初めてお目に掛かりました」
「はい。私も、今日、初めて公主様にお目に掛かりました。小鳥のように可愛らしい公主様であられ、何よりです。無茶をした甲斐がありました」
「ま」

 マンミョンは饒舌なソヒョンに瞳をくるくるさせた。頬に一差し、赤みが指す。
 その頬を押さえて、マンミョンは呟くように語った。

「……そう仰って頂けて嬉しいですわ。でも、ソヒョン郎、わたくしはお気持ちにお応えするわけには参りません」
「マンミョン公主様」
「このことは忘れてください。わたくしも、もう忘れます」
「――」

 後から考えてみれば、その一言が引き金になった。公主をからかう程度で終わらせるはずが、「忘れます」とあっさり言われて、腹が立ったのだ。
 ――公主様だって? 王の娘でもないくせに。
 ソヒョンは、真興大帝の孫だ。血筋で言えば、父方も母方も、祖父は王。その自分が口説いたのに、この公主はあっさり「忘れます」と言う。
 そう簡単に忘れられて堪るものですか、と、少し声を荒げた記憶はあった。しかし、それを聞いたマンミョンは、落ち着き払った様子でこう答えたのだ。

「忘れなければ、あなたは徐羅伐から追い払われます。優秀な花郎を神国は失うのです。わたくしも、叱責を受けるでしょう」

 忘れなさい、それがあなたの為ですとまだ少女の面影が残るマンミョンに言い聞かされて、思わずソヒョンはムッとした。

「何が私の為ですか。私は私の為にあなたを口説いているのです。断るなら、あなたも誠意を持って、御自分の為に私を拒んでください。その可愛い唇で、さかしらぶったことを言う前に!」

 よくよく聞くとおかしなことを口走っていたものの、ソヒョンにはそのつもりはなかった。初めて危険を冒して女を口説いている自分に興奮して、いつもの冷静さは吹き飛んでいる。
 マンミョンは再び「ま」と瞳を丸くした後、胸を張って反駁した。

「なんて分別のない方なのでしょう。思いやりと言う言葉を知らないのですか。わたくしは、あなたを思いやって、言っているのです」
「思いやって? 我が身可愛さに言っているように聞こえましたが」
「違いますわ」

 そこでマンミョンは自ら紗を上げると、きっとソヒョンを睨んだ。

「そもそも、境内で女人を口説こうなんて、なんてふしだらな方でしょう。わたくしはふしだらな卑怯者にほだされたりは致しません。どうしてもわたくしを口説きたいのなら、先に、わたくしを妻にすると誓いなさい」

 その挑戦を、ソヒョンは無視出来なかった。たかが小娘に言い負かされるなんて、ソヒョンの矜持が許さなかった。

「わかりました。公主様、たった今から、あなたは私の妻です」
「夫は妻を「公主様」なんて呼びませんわ。もう結構です。早く侍女を呼び戻してください。噂を立てられてしまいます」

 ぷい、と丸い頬を反らせたマンミョンの手を、ソヒョンは再び掴んだ。強い力に驚いたマンミョンの耳を熱の籠った息が掠める。

「――夫人」

 これでどうだと間近にある顔を睨むと、やたらと赤い頬が目についた。その頬も、頬の主も、もう自分のものになったのかを身体で確かめてから、ソヒョンは副弟の証たる袍を脱ぎ、マンミョンに渡した。

「吾が妻となった証に、これを」

 マンミョンは黙ったままそれを受け取った。……そして、翌日ソヒョンは副弟の地位を剥奪され、左遷されて萬弩郡の太守になった。



***

続きますー。
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  1. 2011.08.11(木) _21:30:07
  2. SS(ドラマ準拠)
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