善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by saki

リレー小説第28話!saki様のターンです。次は私です。ついに来た山場に、き、緊張します…っ!


* *


気づいたのはチルスクだった。
覚えのある、ある種独特の緊張感を含んだ空気が近づいてくる。懐かしいと思えるその空気の中に幾度となく身を置いていた男は微かに聞こえる戸惑いと忌避と好奇の声を聞いた。しかしトンマンや商人たちは磚茶の説明に夢中で雰囲気の変わったチルスクの様子に気付く者はない。ただ一人苦虫を噛み潰したような表情をしながらも感嘆の念を覚えていたカターンだけが隣に立つ男の発する空気に気づき問い掛けた。

「・・・どうした?」

「わからん。だが---」

同時だった。まるで彼らがいる厩舎を囲むように気配が膨らむ。遠くにあったざわめきも俄かに大きくなった。何事かと商人たちが首を巡らせる中、津波のように轟き現れた武装した男たちにチルスクはその正体を知った。そしてカターンを除く商人たちの間に動揺が走る。武装した男たちは明らかに領主の兵であった。鈍く光る矛の切っ先を向けられ平静でいられる者は少ない。身を寄せ合い小さくなる彼らを庇うようにチルスクは双方の間に立つ。腰に佩いた剣は無いがその手に先程の棍を携えて。しかし剣を交え叩き伏せるのはたやすくともまずい。どちらに義があろうとも実際に法を握っているのはあちらなのだ。一定の間合いを保ったまま仕掛けてこないのは商人然とした人間たちの中に一人異才を放つ男を警戒してのことか。チルスクはカターンに視線をやる。雇い主は彼だ。判断を求めたそれに応えてカターンは一歩前に出た。

「あ~。これは一体何の騒ぎか聞いても?」

「茶葉の取引をしていると報告があった。宿の人間が関わっている疑いもある。見たところ商人たちだけのようだがこんな厩舎の隅で何をしていた?」

「取引、ですか?禁止令の出たものの?」

「そうだ。この男も何だ?我々に敵意があるように見えるが。」

「あぁ。彼は私が雇っている護衛でしてね。状況判断に優れた奴です。」

「つまり我等の方にこそ敵意がある、と。」

「いや、そうは言ってませんよ。それと茶葉でしたね。残念ながらこのオアシスでは何処に行っても売ってもらえなくてね。困っているんですよ。足を伸ばすにしても休ませていた駱駝たちの様子がここ最近おかしいからと皆で見に来たところでね。ほら。もし流行り病なんかだとしたら自分の所だけの問題じゃありませんから。」

そうだろう、と同意を求めるカターンに他の商人たちが慌てて首を縦に振る。確かに取引自体はまだ行っていない。しかも問題の茶葉が一見しただけではただの干し煉瓦だ。ここは適当にごまかして彼らには早々に去ってもらい、トンマンたちには改めて釘を刺しておけばいい。あわやの目を見た後となれば今度こそ大人しくなるだろう。そう思い緊張を解かぬまま肩の力を抜いたチルスクは

---パチリっ。

誰かの後ろから小さく火が爆ぜる音を聞いた。

+++

その騒ぎを耳にしたのは昼近い頃。自警団の詰め所で半ばだれていたザズは息せき切って飛び込んできた仲間の言葉に耳を疑った。

「は?何だって?」

だってあそこは街の繁華街とも離れているしあいつらが興味を持つような物だって扱っていないただの飯店だぞ。確かに女将であるソファおばさんは美人だしトンマンだって将来が楽しみなほど可愛いが、だったらいきなり『暴れる』なんて物騒な単語が飛び出すはずが無い。あっていいはずがない。

「だから!あいつら今度はソファさんの店で暴れてんだよ!!」

しかし、やはり己の聞き間違いではないらしく仲間の口から同じ言葉が繰り返される。

「嘘だろ、何で。」

「何でも何も!っくそ!いいから人数早く揃えろ、ザズ!あいつらこっちが手を出せないと思って好き勝手しやがって!俺達にだって我慢の限度があらぁ!!」

思いもよらぬ知らせに思わず自失していたザズは我に返ると同時にもう我慢ならぬといきり立つ仲間の声も聞こえぬ様子で詰め所を飛び出そうとした。

「ちぃと待て、餓鬼。おい。それで相手は何人いてどんな様子だった。また酒に酔って管巻くそこらのゴロツキと変わらん奴らだったのか?」

しかしそれを止めたのはザズの父でもある自警団の団長であった。親父、とザズが口にするのを彼は手を振って制止する。のそり、現れた彼に意気込んでいた男も幾らか冷静さを取り戻す。

「あ、はい。それは。」

「どうなんだ。」

「えっと、人数は少なくとも12。いつもの奴らと違って統率も執れているようです。他の店や街の人間には目もくれず真っ直ぐにソファさんの店に向かったそうですから。」

ザズは妙だと眉をしかめた。今までなら多くても5、6人。冷やかし目的のそれは大抵が多分に酒に酔っていて目的地などなく目についたもの、興味を惹かれたものに絡んでいたからだ。

「・・・っち。まずいな。」

それは父も同じだったらしい。低く舌打つ。

「おい、ザズ。ピダムの奴はまだ戻ってないな。」

「あぁ。その筈だ。」

「お前らも見てねぇんだな。」

「いたらもっと騒ぎがでかくなってますよ。」

「最もだな。ザズ、ピダムを見つけて暴れねぇように首根っこ抑えてこい。あいつが本気で見境いなく暴れだしたら俺らも少しばかりてこずる。お前らは人数揃えたらソファさんとこの店行って片付けと怪我人の手当て。俺はこれから領主に会いに行く。今度ばかりは商人どもじゃねぇ、うちの街の人間だ。会わざるを得ねぇだろ。」

ざわり、空気が揺らぐ。その場にいた団員たちだけでなく、ザズもまた父の言葉に息を飲んだ。彼は今度の事が領主の指示によるものだと言ったのだ。
だが理由は?父の予測通りであるならば相応の理由があるはずだ。あの店が目をつけられる理由?

『・・・ある品の交易禁止令が出たって話しだ。』

ザズは撞目した。数日前の悪友との会話を思い出して。

「あいつ、まさか・・・。」

その品に手を出した?いや、だからってあいつが見付かるような下手を打つなんて。青ざめるザズに何を思ったのか父がその肩を叩いた。

「何か思い当たるもんがあるようだが今は考えるな。まずはピダムを取っ捕まえとけ。あれが知ったら何しでかすか分からんからな。」

確かに予想がつきすぎて逆に怖いとザズは頷いた。ピダムは他人に対して冷めているというか興味が薄い所がある。しかし反して身内や自身の内側と判断した人間に対しては程度の差こそあれ執着といっていいほど情が強(こわ)い。しかも今回は無二とも云うべき母親と妹に火の粉が飛んでいる。なれば押してしるべし。おそらくはザズが考えるに留めた事を『出来る』『出来ない』に拘わらず実行に移すだろう。そこまで考えてザズは身震いした。ピダムが遮二無二に暴れだしたらお互いに無傷のまま止められる自信などザズにはなかった。

+++

かける言葉も見つからない散々たる有様だった。店内に掛かる様々な色の紗は引きずり落とされて砂に塗れ、平時ならば陽気で憎めない賑やかな客たちで埋めつくされる卓や椅子は方々に転がり倒されている。遠目に騒ぎを見ていたのだろう。少なくない数の人の目が街の至る所からこちらを窺っていた。仲間と共にやって来た男は聞いていた以上の惨状に改めて怒りを覚える。兄妹がその歳に似合わぬ苦を厭わない理由も女将の持病の事も知っている身としては当然の感情といえた。

「おら、呆けてる暇なんてないぜ。ソファさんたちが戻ってくるまえに片付けちまわねぇとな。あの人等に片付けなんてさせられるかってんだ。」

「あぁ、そうだな。」

「なぁに。きっと直ぐに帰ってくるさ。」

知らず握りしめていた拳に力が入っていたのを気付かれたのか、わざとおどけた調子で仲間が言うのに男も頷ずいて返した。これが団長の予測通りならそう簡単に戻ってこれるはずがないことを彼らは知っていた。そして本当に戻ってこれるかも分からないことも。けれど敢えて軽口をたたき合う事で胸の内に燻る怒りも不安も皆がどうにかして宥めたかったのだ。そして彼らが帰ってきたならば酷い災難に遭ったものだと迎えたかった。それで済めば良いと、そうなれば良いと願いながら彼らは荒らされた店に足を踏み入れた。


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  1. 2011.09.29(木) _21:04:07
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