善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 何より雄弁なものは

実はお久し振り…!?な、隠居シリーズ家族ネタです。今回はトン&ピだけでなく、違う家族もチラッと出てきます。
さらりとお楽しみ頂ければ何よりですーv


* *


 産まれてからまだ一月も経たないへにゃへにゃした息子を前にしたピダムは、傍目に見ても挙動不審だった。
 小さな掌を指先で恐る恐るつつき、その指先を握られると、石像さながらに硬直して、指先を離されると寂しげに肩を落としている。しかも、一連の行為をわざわざトンマンが傍にいない時にするので、可笑しいやら微笑ましいやら、こっそり父子の触れ合いを眺めながら、トンマンは頬が緩むのを隠すのが大変だ。
 そうしているうちに、どうしても眺めているだけではなく二人と一緒にじゃれたくなって、トンマンは足音を忍ばせてピダムの横に立った。

「――ピダム」
「!」

 すると、ピダムはまるで見られてはならないものを見られたかのように、慌てて手を引っ込め、言い訳を始めた。

「ヒョンジョンが……少し……泣いた気がしたんです」
「そうか?」

 どうも、理由もなく息子に触れるのは良くないことだと勘違いしているらしいピダムに口の端を上げてみせて、トンマンはゆっくり息子を抱っこした。
 へにゃへにゃした息子ヒョンジョンは、一日のほとんどを豪快に眠って暮らしながらも、目を覚ますと元気に全身を動かし、ほぎゃっほぎゃっと泣くのも忘れない。が、この時は嬉しそうに寛いだ顔つきになって、大人しくトンマンの懐に収まった。小さい手はふよふよ動き、小さく欠伸をしている。

「ピダム、私達の王子様のご機嫌はいいみたいだな……」

 トンマンが柔らかく囁くと、ピダムはじっとヒョンジョンを見下ろしながら、恐る恐る小さな手に触った。

「……うん」

 そうしていると、不思議なことに、トンマンに直接触れているわけではないのに、身体の芯に、決して消えることのない温かい火が灯ったような感覚が膨らんだ。ひょこひょこ手足を動かすヒョンジョンの皺くちゃな顔が、トンマンの満たされた気持ちを精一杯ピダムに伝えてくれている気がした。

「……」

 味わったことのないその感覚がくすぐったくて、その感覚に慣れるのに、ピダムは暫くの間黙って息子の手を支え続けた。トンマンもまた、やっと出産に伴う慌ただしさが過ぎ去って訪れた、親子三人、水入らずで過ごせる幸せを噛みしめていたくて、何も言わなかった。
 静けさが心地好い昼下がり、トンマンとピダムは生まれて初めて経験する血の繋がった親子の時間を、飽かずに心に染み込ませた。


**


 それから十年。
 懐かしい夢を見た朝、息子を起こしたついでに、愛息を見つめるピダムに対して、愛息本人はわしわし腹を掻きながら欠伸をした。

「ぬぁに、ひろひろ見へんの。やっぱ、老眼? 父さんもじじいだもんなー」
「やかましい」

 その、口を開けば可愛いげのない息子の頭を軽くひっぱたくと、ピダムは小さく嘆息して土間に戻った。そこでは、十年前とは違って家事をしやすいように袖を捲ったトンマンが、朝餉を拵えている。今日の朝餉も、ピダムがしめた鶏を使った鶏汁だ。

「ヒョンジョンは起きた?」
「起きた」

 いつもならそこでトンマンからおたまを取り上げるピダムは、その日ばかりは鍋を掻き回すトンマンをじっくりと眺めた。毎朝恒例の眺めだからと、朝餉を作るトンマンを見られる有り難さを忘れかけていた自分に気がついたのだ。
 やがて、今ならそうそう邪魔にはならないだろうと言う瞬間を見計らって、ピダムは後ろからトンマンを抱きしめた。

「ピダム?」

 鳩尾の辺りに回した腕に力を僅かに込めて、華奢な身体を懐へと引き寄せれば、柔らかな髪が鼻先に当たって、ふわりと香る。どんな時でも彼の気持ちを落ち着かせるその匂いは、爽やかさの中に、一筋、甘みを滲ませていた。
 ピダムは瞼を閉じて、トンマンらしいその匂いで身体中が満たされるのを待った。――しかし、元気盛りの息子を持つ夫婦の朝に、そんな暢気な時間があるわけがない。

「イチャイチャイチャイチャ、うっとーしい!!」
「っ、危ないだろう!」

 早速飛んできたヒョンジョンの蹴りを避けるべく、ピダムはトンマンを抱きしめたまま身を翻すと、イイところで邪魔をする息子を叱りつけた。どうやら、息子の前で妻とベタベタすることに対しての反省はないらしい。

「ったく、少しは子供の教育に悪いって思わないのかよ!?」
「お前こそ、父さんと母さんが仲良くしてるのに、なんで邪魔をする! いいか、母さんは父さんの活力の素なんだぞ」
「はあ? どーせ、スケベゴコロが満たされるだけだろー」
「ヒョンジョン!」
「…………はぁ」

 毎日毎日飽きもせず、仲良くぎゃーすか喧嘩を始めた父子は放っておいて、トンマンはてきぱきと朝餉の支度を続けた。どうせ元気が余っている父子は、こうして毎朝修練代わりに喧嘩をして一汗流すのが好きなのだ。つまり、放っておくに限る。
 案の定、トンマンがいざ「ご飯だよ」と呼ぶと、木刀を取り出して庭先で暴れまわっていた父子はぴたっと動きを止めて、さっさと朝餉にかぶりついた。
 扱いやすいと喜ぶべきか、それとも毎朝不毛な喧嘩を繰り返していることに対して何らかの手を打つべきか迷いながらも、結局、トンマンは「まあ、元気なのはいいことだ」と余計な口出しはしなかった。ヒョンジョンが喧嘩を売ってくる度に、ピダムが自分の身体能力を受け継いだ息子の相手を嬉しそうにすることも知っていたし、ヒョンジョンもまた、父親相手に戦えるのが面白くて仕方がないらしく、わざと派手に怒っている節もある。要するに、これも父子交流の一つなのだから、トンマンが口出しすることではないのだろう。恐らく。
 それに、考えてみれば、ヒョンジョンが産まれてから暫くは、ピダムは息子にまともに触れることすら難しかったのだ。その時から考えれば、喧嘩が出来るなんて、素晴らしい進歩ではないか――。

 そう思い直したトンマンは、その夜、二人きりになると珍しく彼女からピダムを抱き寄せて、ぽんぽんと背を叩き、頭を撫でた。

「トンマン?」

 突然のことに驚きと動揺を隠せないピダムを間近で見つめて、トンマンはにっこり笑った。

「お前に惚れ直しているんだ」

 ふと唇をついて出た言葉を直接伝えたくてトンマンから唇を重ねると、華奢な背中に回された腕の力が強くなった。その腕の力強さを満喫しながら、トンマンはまた一つ、思い直した。――ヒョンジョンのことだけではなく、愛情を伝えるのに、こうして躊躇うことなく触れ合えるようになったのもまた、素晴らしい進歩だと。
 そして、今はただ二人きりで惜しみなくその愛を伝え合う為に、重なり合った。


**


 ちなみに、トンマンとピダムの重なり合う姿に気分を害するのは、ヒョンジョンだけではない。遠く徐羅伐にいる甥チュンチュもまた、どちらかと言えば……いや、はっきり言って、二人が愛しげに見つめ合っている図など、金輪際見たくないと言う人間だった。
 しかし、それでも二人が一緒に暮らし始めてからヒョンジョンが産まれるまでだけは、そのチュンチュも好意的に二人の仲を歓迎していた。とは言え、勿論それは純粋な好意からなどではない。当然の如く、目論見があった。――二人の間に娘が生まれたら、早々と掌中に預かり、息子の嫁にしようと言う目論見である。
 けれどもその目論見は、ヒョンジョン誕生の知らせと共に、儚くも散った。

「息子か……」

 ――どうやら、私はつくづくあの男とは気が合わないらしい。
 チュンチュは手にした文を火にくべながら、傍らで史記を読んでいる息子に声をかけた。

「ポプミン、お前の妻は産まれなかった」
「不運ですね、父上」
「ああ、全くその通りだよ」
「でも、男が産まれたのでしょう? それなら、その子をわたしの臣にします」

 にこっと笑ったポプミンは、まだ幼児と言って差し支えない。小賢しいクソガキと評判の――もとい、すでに大人顔負けの弁舌を揮う彼は、まだ足の届かない椅子から書を抱えたまま降りると、ぺこりと父にお辞儀をした。

「夜も更けました。父上、おやすみなさいませ」
「おやすみ」
「はい」

 そこだけは子供らしく、とてとて歩き去った息子を見送って、チュンチュは不思議そうに数度瞬いた。

(……会う度に、誰に似たのやら、可愛くなくなるなぁ)

 そう言えば、母方の伯父はあのユシンだ。子供らしい無邪気さに欠けるのは、伯父の影響だろうか。
 もっと愛想があった方がいいんだが――とチュンチュは双眸を細めて燃えかすを粉々に潰しながら、どことなく空虚で残念な気持ちをも灰塵に帰すよう、努力した。


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  1. 2011.12.09(金) _00:09:16
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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