善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

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【ときめき10の瞬間】06. 気丈なあの子が涙するとき

【ときめき10の瞬間】06. 気丈なあの子が涙するとき

今回は九郎さんです。
九郎さんルート二周目って感じでしょうか。


* * *


「濡れ髪の弁慶さんって敦盛さんのニセモノみたいですよね」

 望美が返答に詰まるような事を口走るのは今に始まった事ではない。
 しかし今回はまたえらく訳のわからん事を言う、と九郎は背後で彼の髪をやたらと丁寧に拭う望美の気配を伺った。

「……弁慶と敦盛のどこが似ているんだ」

 どこも似ていない。むしろそんな事を言ったら敦盛に失礼だ。
 ――と言うのが九郎、心の叫びだったが、口に出して、それを弁慶に聞かれたらと思うと恐ろしかったので、彼は後半部分を綺麗に飲み込んだ。
 これでも弁慶とは長い付き合いなのだ。何を言ったらどつき倒されるかくらいはわかっている。
 しかしまだその境界線が曖昧な望美は、九郎から見れば命知らずな主張を続けた。

「この前、髪を洗い終わって間もない弁慶さんを見たんですよ。なんと、あのウェービーな髪が真っ直ぐになってて」
「待て。うぇーび、とは何だ」
「くるくるぱーな感じです」
「…………真面目に聞いて欲しいんだったらさっさと訂正した方が身の為だぞ」
「……す、み、ま、せ、んー。ウェービーって言うのは、えーと……波打つような、って意味なんです。波、ウェーブの形容詞型」
「すまん、先に行ってくれ。後で譲に聞く」
「ちょっとそれ、どーゆー意味ですか! ……えぇと、とにかく髪が濡れて真っ直ぐになってるの見たら、あれ、弁慶さんって敦盛さんのニセモノっぽいなぁと思って。ニセ敦盛さん。甘い囁きつきの敦盛さん。そう考えてたらなんだか楽しくなっちゃって、誰かとこの気持ちを分かち合いたくて」

 そこで出てくる相手が何故俺なんだ。
 九郎は今度は思うまま声に出した。

「だって。こんな妄想型の質問、朔には出来ないじゃないですか」
「俺はお前と違って妄想なんたらじゃないぞ」
「あっはっは! 九郎さんそれ、笑えます」

 笑うついでに髪を拭う手つきが荒くなり、九郎はむうっと顔をしかめた。やがて、しかめるだけでは足りなくて、きちんと文句を言ってやった。

「望美。痛いんだが」
「だぁって九郎さんが笑わせるんですもん」
「何が「だぁって」だ。俺は妄想なんたらはしないぞ! そんな暇があるか」
「嫌だなぁ九郎さん、無自覚が一番怖いんですよー」
「だから自覚も何も、俺はお前とは違うと言っている」
「ハイハイそーです、かっ!」

 ガシガシと望美の手はますます荒くなった。

「おいっ」

 さすがに九郎も堪らなくなって、振り返ろうと望美の手首を捕らえた。

「全くお前と言う奴は、俺に何の恨みが……っ」

 けれども振り返った九郎は、言おうとした文句を言い損ねて、ポカンと間抜け面を晒す事になった。

 ぽた、ぽたり。

 望美の手首を掴んでいる九郎の手の甲に、何か雫が落ちてきている。それの出所を探して視線を上げた九郎は、彼の髪を拭う為に膝立ちとなっている望美の顔を見上げて瞬きを忘れた。

「望、美……?」

 そっと、伺うように名を呼んでみる。
 けれども何に衝撃を受けたのやら、望美はタオル代わりの布を掴んだまま何度もしゃくりあげるばかりで、話にならない。

「九郎さんは……妄想型、なんですよ……っ」

 しかも、やっとまともな言葉を喋ったと思えば言ったのはそんな事で。

「九郎さんは、ほ、本当に、妄想型、なんですから……っ! ちゃんと覚えてて下さいよっ」

 さらにはキッと九郎を睨んでそう言った挙げ句、望美は彼の手を物凄い力で振りほどいて逃げ出した。お前、なんて馬鹿力なんだ、と一言余計な賛辞を九郎が言わずに済むほどに素早いその動きに、九郎は改めて「あいつは山猿か」と春に思った事をもう一度思う。
 だが、九郎はもはや春の彼とは違う。
 今の彼は、望美がただの山猿少女ではない事を――言い換えれば、彼女が至極真っ当な人間である事を、きちんと理解していた。だから、望美の今の行動がいかに重要な事であるか、彼は知っている。

「……あいつが泣くなんて、初めてだな」

 ――半年近く一緒にいる彼女が、いかに我慢強く、その弱さを他人に見せようとはしない少女であるか、知っているのだ。
 である以上、泣いている理由が何であれ、放っておける、訳がない。
 九郎は望美が置いていった布を手に立ち上がると、髪の水気が飛ぶほどの速さで望美の後を追い掛け始めた。妄想型だかなんだか知らないけれども、彼女が泣くような大事なら、そのままにしておける訳がなかった。

 ――それはまだ、九郎が望美への気持ちを妹弟子への親愛だとやっと理解し始め、しかしまだそれ以上のものは全く自覚していない頃のとある夕刻の出来事だった。


* * *
【ときめき10の瞬間】
06. 気丈なあの子が涙するとき
恋したくなるお題様より
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