善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 盗人萩・下

トン&ピとチュンチュの三角関係?話の続きです。多少ヤラシー表現がありますので、ご注意くださいー。


* *


 ピダムはトンマンが彼を抱きしめ返したことを察するや、こめかみから首にかけて、隙間風が入らないくらい密に唇で触れていった。この上なく優しく、愛しさを溢れさせて。
 すると、ピダムが触れたところから血が蘇り、通い始めたように、瞼を閉じてそれを受け入れていたトンマンの頬にも、僅かに赤みが差した。雪のように白かった肌が、蕾が綻ぶように色づいていく瞬間は、トンマンにとっても、ピダムにとっても幸福の証そのものだ。
 けれども、トンマンはまだ微かに震えていた。

「陛下……」

 トンマンが震えているのは、芯から冷えていたからだろうとピダムは思った。それに、嫌なら拒むはずとわかっていたので、何も言わずに唇を重ねた。
 この震えを真に取り払うには、政しかないかもしれない。だが、一夜の安らぎなら、政ではなく、こうしていることで与えられるかもしれない。政で力の限りを尽くすように、この胸の内を満たす愛おしさを伝えることで、一夜でも穏やかな心地になれるかもしれない。
 何度か触れるように唇を合わせた後、どんな時でもふっくらと柔らかい下唇を食むと、トンマンがふと顎を引いた。ピダムの方が拳一つほど背が高いので、俯かれると、立ったままでは唇を合わせられなくなる。
 一体どうしたことかとピダムが双眸を丸くした時、トンマンが自分からピダムの肩に凭れかかった。

「陛下?」

 ――珍しい。
 即位以来、トンマンがこのような形で……自分から触れる、と言う形で意思表示をすることはなかった。驚いたピダムは、どうしたものかと動揺すらして、手が不自然に宙を彷徨った後、再びトンマンの背を撫でた。
 とりあえず、そうした方がいいのだろうと言う戸惑いの見える仕種ではあったけれども、そのぎこちなさに安堵して、トンマンはしがみつくようにピダムを抱きしめた。そうするだけで、心の中にある澱が全て流れ出すような気すらした。……それが、一夜の幻だとしても、一度その幻に魅了されたトンマンは、もうその幻を喪うことが出来なかった。

(私は……チュンチュをあんなにも失望させるほど、ピダムを愛しているのだろうか。これが、この想いが愛なのか……?)

 ピダムが必要だ。ピダムだけが与えてくれる、この幻が必要だ。
 けれど、この利己的な想いがピダムの想いと同じだとは到底考えられなかった。ピダムの想いが愛であるなら、トンマンの想いは違うはずだ。きっと、愛なんて美しいものではなくて――。

「っ……」

 ズキン、と身体が引きつった。心の臓が握り潰されそうな感覚がして、トンマンは小さく息を吐いた。

「陛下……?」

 まだピダムに病を知られるわけにはいかない。
 誤魔化す為に――そして何者にも代え難い幻に浸る為に、トンマンはそっと囁いた。

「もう、横になりたいな……」



 ピダムは、一も二もなく行動した。
 夜具を捲ってそこにトンマンを寝かせようとした。
 ――ところが、それを遮ったのはトンマンだった。

「……」

 何も言葉はなかったけれども、そんなことはピダムには関係がなかった。ピダムの双眸が捉えたのは、頼りなげに瞳を揺らめかせて彼を見つめる愛しい女人の姿だ。
 ――今は、何も訊いてはならない。
 沈黙の中で約定を交わして、ピダムはトンマンの寝衣を留めている帯をほどいた。
 己の表衣を脱いでから、内衣一つを纏うトンマンを寝衣の中から抱き上げる。常のことながら信じられないくらい軽やかな身体を寝台に横たえると、夜具を控え目なぬばたまの黒髪が飾った。その髪は数多の蝋燭の焔を反射して煌めいていて、さながら夜天の女王のようだとピダムは微笑んだ。

「――」

 その微笑みにつられたように、白魚のような指がそっと男の頬を撫でた。夢を見ているかのような瞳が静かに閉じられ、反対側の頬に柔らかい感触がした。

 刹那、ピダムは彫像のように固まった。
 ややあって、甘美な疼きを残した唇に躊躇いを吸い取られたかのように、ピダムの眼差しが獣性に縁取られた。
 噛みつくように白い項に顔を埋め、内衣を肌蹴させていく。桜色の波紋が首筋から広がるにつれて、少しずつトンマンの吐息は乱れ、のた打つ黒髪が金色に輝く夜具を塗り潰した。やがて、頬が唇に負けないくらい紅に染まるのをちらりと確かめたピダムは、髷をほどいて身に纏うものを脱ぎながら、胸元でツンと存在を主張するものを前触れなく舐めた。
 あとは、もう回り道はしなかった。トンマンが悦ぶことならなんだってするけれど、この瞬間だけは、それよりも彼女と一つになっていると断言出来るあの時を渇望していた。何もかもはっきりとしている、覆しようがない肉の交わりに我を忘れたかった。
 ――その瞬間を積み重ねて、いつか、トンマンからの愛を勝ち得る為に。


**


「……この九年、私は自らの分を弁えて生きてきました」

 一度話を切ったチュンチュは、余計な感情を見せずに済むよう、小さく息を吸った。

「ミシルが乱を起こした時……開陽者の子としてあなたと共に旗頭となり、貴族達を従えた私は、あなたの権力を脅かしかねない立場にありました。私はすでに、一度は副君に名乗りを上げた身です。……あなたに不満があれば、私が担がれると言うことはわかりきっていました」
「……そうだ」

 チュンチュは即位の時から、トンマンの立場をよく理解していた。ただでさえ「女」と言う負い目を持つトンマンが王権を高める為にはどうすればいいか、彼の明晰な頭脳はすぐに答えを弾き出した。
 ――私は、『影』にならねばならない。

「私は……己を打ち消すよう努めました。あなた一人が王であるよう、ユシンとピダムに権力を渡すことも許しました」

 その間に、剣を、馬を、戦を学び、トンマンの政に陰ながら尽力もした。だが、地位は求めなかった。
 この九年、チュンチュは与えられた権威は保ったが、それだけだった。権力は求めなかった。貴族達が離れていくのも、黙って見送った。不本意であっても、トンマンに王位を譲ると決めた時から覚悟していたことだったから、文句は言わなかった。
 ――もし。もし今、ピダムと王位を争うことになれば、チュンチュは九年の負債を抱えて戦わねばならなくなる。

「あなたはいつも、私を臣下達の誰よりも上座に据えました。……私の後継者としての権威は、そこにあった」

 しかし、もうそれは過去のことだ。

「今の私は内省私臣に過ぎません。上大等はヨンチュン公ではなく、長年司量部令として権力を蓄えてきた、陛下の夫です。ですから……私は、早急に権力を獲ねばなりません」

 チュンチュは何も言葉を返さないトンマンを冷ややかに見つめてから、ゆっくり腰を上げた。そして、戸の前に立った時、無邪気とも見える微笑でトンマンを振り返った。

「陛下は慧眼でいらっしゃる。『ミシルまでは私に任せろ』……その通りです」

 トンマンがその言葉に眉根を寄せて面を上げると、チュンチュはふと視線を逸らした。高みを見つめるその眼は、高揚と憤怒が入り交じり、漆黒の輝きを増していく。トンマンを戦慄させる輝きが、そこにはあった。

「その通り……ピダムと戦うのは、私の役目です」

 ――チュンチュは、私と言う楔から解き放たれた。

「陛下に御約束致します。――私はもう二度と、『あなたの後ろで楽をすることはない』と」

 射抜くような眼差しをトンマンに注いでそう宣言すると、チュンチュは人懐っこい笑みをその唇に刻んだ。

「色供のこと、どうかお忘れなく。御召しをお待ちしています、陛下」


**


 間もなく暁が訪れようと言う頃、トンマンは事態を正確に理解すべく、チュンチュの言葉を一つ一つ噛みしめていた。隣で眠るピダムと繋いだ手を頼りに心を鎮めて、感傷に押し流されないよう天井を見つめながら。
 そうして、導き出された結論は一つだった。

 ――チュンチュは、今度こそ私と戦うのだ。

 かつては、チュンチュはトンマンのことを誤解して、敵対した。けれど、今は違う。誤解ではない。
 チュンチュは、己の為に九年の遅れを取り戻さなければならないのだ。一刻も早く『権力』を獲なければ、忘れさられてしまうのだから。
 そして、彼はその為なら、ミシルの孫を妻にしたように王の情夫にも甘んじるだろう。離間計を駆使して、トンマンに対してどんな揺さぶりも辞さないだろう。

 しかも、彼はトンマンの旗幟をも鮮明にしていった。

 ――あなたは、私とピダムのどちらを選ぶ?

 トンマンの心を炙り出して、チュンチュはトンマンと袂を分かった。トンマンの病に感づいたのか、そうでないのか、どちらにせよ、それはもはやチュンチュの歩みを止める理由にはならない。チュンチュは、必ずトンマンを揺さぶり、ピダムを追い詰める。

 その時、トンマンはどうするのか?
 その答えは、今夜決まった。

 ――私は、ピダムを護る。

 トンマンの命がある限り……ピダムが、裏切らない限りは。



 ――私は、ピダムが憎いわけではない。
 自らの宮で、ほとんど消えかけている蝋燭の焔を眺めながらチュンチュは沈思した。

(確かにあいつには随分と痛い目にも遭わされた。だが、憎くはない。私は弱さを演じていたのだから)

 今も、ピダムの手が叔母の肌を這う様を思い描いてみても、それを理由にピダムに惨たらしい死を与えようとは思わない。不愉快ではあるけれど、それだけだ。不愉快なことなど、いくらでも転がっている。所詮、その一つであるだけだ。

(……だが、今、私の懐は今にも捻じ切られんばかりに痛み、私は苦しんでいる)

 不愉快どころの話ではなかった。
 母の死を聞いた時よりさらに根深い憎悪が貼りついて、ひと時も剥がれない。あの日以来、一夜たりともまともに眠れなかった。
 そして、その原因が何なのかは、もうわかりきっていた。

 ――チュンチュ。私のことを信じられないのか?

 心に語りかけてくるその眼差しに、首を振りたかった。裏切り者と罵り、何故今になってあの男を憐れむのかと、あの細い頚に手をかけて叫んでしまいたかった。……そして、九年も彼女の影になっていた己の愚かさを、呪いたかった。

 わかっていたことだった。
 彼女が便殿で突然結婚を口にした時から、わかっていたのだ。彼女がピダムを大切にするのは、ピダムを騙す為でも、信用させて欺く為でもなく……ただ、『ピダムの心を傷つけたくないから』と為されたことだと。
 全ては、ピダムの為。――ピダムへの憐れみではなく、ピダムへの愛の為だった。

 そう思った瞬間、総身を焔が突き抜けた。

 ――悍ましい。

 今この時にも、彼女がこの世の誰よりも愛しいと言わんばかりにピダムを見つめ、触れているのかと思うと、目に映るもの全てを灰塵に帰してしまいたくなった。
 悍ましい光景を目裏に浮かべる度に、悪寒と嫌悪が入り混じった醜い何かが身体の奥を掻き毟り、彼女を引き摺ってでも男から離れさせたいと身体が叫ぶ。その為なら、テナムボにした仕打ちよりさらに惨いことであろうと、容易く出来ると、チュンチュは確信した。

 そう。
 彼女がもう私を愛さないなら。私より、他の者を愛すると言うのなら。

 私は、どんな手を使ってでも、彼女の愛する男を永久に葬り去るだろう。
 ――私の人生を奪い去るミシルの血を、今度こそ滅ぼすだろう。




****

当初の予想とはちょっと違う話になりました。
盗人萩は、花言葉が『略奪愛』だそうで、三人とも似合うわーとこのタイトルにしましたが、ど、どうなのか…。
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  1. 2011.11.06(日) _13:34:49
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

<<11月6日と7日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | SS 盗人萩・上>>

comment

チュンチュの業と性、ここに極まれり・・・ですね。

  1. 2011/11/12(土) 23:31:31 
  2. URL 
  3. didi 
  4. [ 編集 ] 
お邪魔します。緋翠様。
この作品を最初に読んだ後、コメントに至るまでちょっと考えこんでしまいました。
トンマンがピダムと結婚するという一事は、チュンチュの側から見ると、こういうことなんですねぇ。
見事に、同じ物語の違う断面を切り取って見せられたような気がしております。
いえ、なんとなくわかってはいましたが、こうやってはっきりとした形で提示されちゃうと、なんだかますます、屈折率の高いお話なんだと実感。
ピダムが反乱の主に仕立てられなくても、トンマンにとっては、チュンチュとの闘いが控えていたということになりますか。そりゃ、つらい。
この作品を拝読して、改めてトンマンとチュンチュの性質の違いを考えてしまいました。
同じように孤独な子ども時代を送ったとしても、やはり、平等で構えのない人間関係の中で育ったトンマンの方が天真爛漫。
幼少期から政治のとぐろの傍で利用される対象として育ったチュンチュの闇は、深いんですね。
なんだか、この両者の争いになると、トンマンに勝ち目があるようには思えません。勝っても全然喜べないし(あ、王としての勝利って、どれもそんなもの?)。
こういうイメージをもって、再び女王時代をみると、見てるこっちも深みにはまってしまいそう・・・。
緋翠様の作品では、ピダムがトンマンの身体に触れながら、「信じられないほど軽い」、「儚い」と思う場面が多くありますよね。
そのたびに王としての立場の重さと、彼女の物理的な軽さのギャップを感じて、まさしく善徳女王ワールド!って思ってたんですが、今回はさらに強く
トンマンの運命の重さと存在の軽さを痛々しく感じております。
ピダムがしっかりしないと、吹けばとびそうじゃん。
・・・とにかくため息の出るお話でした。
なのに、怖いものみたさでもう一回読んじゃいたくなる吸引力に負けそうです。


didi様へ

  1. 2011/11/14(月) 18:12:27 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
didi様、こんばんはーv
おお、ここにコメントを頂けて嬉しいですー!いやー、チュンチュが大好きなので、彼の怖さも含めて(まさに業と性、言い得て妙です…!)、こうして書けて満足しています(笑)

> この作品を最初に読んだ後、コメントに至るまでちょっと考えこんでしまいました。
> トンマンがピダムと結婚するという一事は、チュンチュの側から見ると、こういうことなんですねぇ。

そうですねー。トン&ピファンとしては、「チュンチュ酷い!」と言う感じなんですが、チュンチュにもトン&ピと言うよりトンマンに対してあれだけ厳しい態度を取る根拠がちゃんとあるんだなと、私も改めて実感しました。そうしなければ、生きていけなかったんだろうと。

> ピダムが反乱の主に仕立てられなくても、トンマンにとっては、チュンチュとの闘いが控えていたということになりますか。

だと思います。もしピダムが反乱の主にならなくても(仕立てられる…と言うのは、ちょっと違う気が。自分の意思で貴族達を支配する権力を得たのですから、貴族達に期待されるのは、当たり前ではないでしょうか)、チュンチュは絶対にトンマンとピダムから権力を奪うべく、策略を練らないと、チュンチュのそれまでの人生が無駄になってしまいますから。

何より、チュンチュにとっては、幼い頃から「唐に送られる」と言う形で政治的に抹殺され、放置され、その屈辱に耐えて爪を磨いで新羅に戻ってきたのに、トンマンを公私共に信じてもう十年を自ら抹殺して、それを裏切られたわけです。
自分で選んだことと言えばその通りなんですが、その絶望と屈辱は、凄まじいものだったと思うんですよ。不信の中で育った若者が、初めて公私共に信じた存在に裏切られたわけですし…。

なので、トンマンがチュンチュにピダムの刺殺命令を記した勅書を渡したのも、チュンチュの心をある程度察してのことなのではないかと妄想しています(笑)

> なんだか、この両者の争いになると、トンマンに勝ち目があるようには思えません。勝っても全然喜べないし(あ、王としての勝利って、どれもそんなもの?)。

トンマンは、副君争いで言っていたように、いざとなると、チュンチュとは争わないと思います。ピダムのことを謀略からは守ると思いますが、女王でいるうちは、政治的に公平性を失うことは絶対にないんじゃないかなと…。
チュンチュもまた、自分とトンマン以外の人間に王位を渡すと言う考えを持っていないので、トンマンを直接殺しはせず、飼い殺しにする方を選びますし、ややこしいですよね…。トンマン、チュンチュにピダムも加えて、本来育つべき場所で育たなかった三人が、その為に全く別の方向へと才能を伸ばして性格を形成しているのを見れたので、本当に女王時代があって良かったと思います(笑)

> ピダムがしっかりしないと、吹けばとびそうじゃん。

ありますね、これは(笑) ピダムだけじゃなく、ユシンやアルチョン、チュンチュも頑張らないと、トンマンは透けて消えるように死んでしまう気がします(←妄想注意w)
その中で、ピダムは一番トンマンの才能や覚悟を尊敬して、女王であるトンマンを支えていると思うんです。なので、ピダムはトンマンのことをより重厚な存在としてイメージしていたけれども、実物の可愛さにビビる……と言うくだりをよく書いてしまいます。

> ・・・とにかくため息の出るお話でした。
> なのに、怖いものみたさでもう一回読んじゃいたくなる吸引力に負けそうです。

ありがとうございます!そう仰って頂けると、ニヤニヤ喜びますww


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