善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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『第一美花郎比才』第拾陸話 雨月

またまた比才話です。
最近、トンマンの公主時代の話を改めて見ているのですが、ミセンプロデュースのチュンチュやらしー度選手権(え)なんかは忘れていたので、思わずミセンの巧みさに感心してしまいました。んで、あの三人の女性の格好をトンマンにさせたら、鼻血の垂れた黒い花郎に袋叩きにされそうだなーと思いましたw

頂いたコメントへのお返事は、また明日に致しますv


* *


 猫の子のように追い立てられて廊下に出るや、テナムボは裾を翻してさっさと逃げ出そうとした。アルチョンだけならまだしも、ユシン達がいては分が悪い。

「テナムボ郎に申し上げます」

 しかし、その行く手を遮ったのは、予想外の顔だった。彼の前に静かに立ちはだかったのは、季節を先取りして紅葉に擬した色合いの衣を纏ったシンガンだったのだ。
 いつでも怖じ気づかない彼女は、今回もやはり滔々と語った。

「正真に申しまして、公主様がお疲れの折にあのような振る舞いをなさるのは、ご無体ななさりようではありませんか。公主様の無聊を手ずからお慰めになるのであれば、公主様がお疲れでない時になされませ」
「…………」

 テナムボに対して「公主様に触るな」ではなく、「元気な時に口説きなさい」と助言した人間は、初めてだ。思わず呆気に取られたテナムボに対し、シンガンはにっこり笑って「ですが、公主様をお慰めせんとなさるお心延えは本当に麗しきものだと……」と誉めそやしている。どうやら、場の空気が凍りついていることは全く感知していないらしい。

「では」

 満足のいくまで語ってから凛々しく一礼して去っていくシンガンを見送った後、男四人は漸くそれぞれに行動に出た。

「テナムボ郎、今の話はどう言う意味だ!!」

 勿論、アルチョンはテナムボに向かって抜刀する寸前になり、ユシンは想像だにしなかった話に愕然としつつもアルチョンを宥め、ピダムはふらふらとどこぞへ消えた。
 逃げる機会を失ったテナムボは、ソファが落とした白湯のお代わりを持ってきたシンガンに助けられるまで、延々とアルチョンに責められることになった。



 色の濃い衣を纏う妹とは対照的に、白藍と月白を重ねて薄氷を模した衣を着ているヒョンガンは、持参した盆を女官に渡すと、トンマンの身繕いを手伝った。なよやかな女人であるのに否やを許さぬ雰囲気を持った彼女の指示に従ってソファや女官は動き、ヒョンガン本人は白絹の寝衣に着替えたトンマンの髪を丁寧に梳った。

「公主様、嘉俳は楽しゅうございましたか」

 その時いきなりそう訊かれて、トンマンは一瞬詰まった。ゆっくりと嘉俳を味わう余裕は、正直に言って、なかったと言っていい。
 ヒョンガンはそれもわかっているのか、涼やかな微笑が鏡越しに微かに見えた。そうして、それ以上のその話題には触れずに、比才を取り仕切った女人らしく、事務的な話をした。

「生憎の雨模様ですけれど……この宮のお庭は、雨露に濡れても、えも言われぬ風情がございます。叶いますなら、幾日か此方にお留まりになり、御挨拶に参られる皆様をお迎えなさってはいかがでしょう。王宮へはゆるりとお戻りになられてはと、王后様も仰せでございました」

 初めての嘉俳を終えたトンマンの労を労うような言葉は、トンマンの心に気持ち良く響いた。
 確かに、大きな催しに付き物の後始末もまだまだ残っている。どうせなら、嘉俳や比才のことは全てここで終わらせて、すっきりとした気持ちで王宮に帰りたい――そう考えたトンマンは、ヒョンガンの申し出に素直に頷いた。
 それを見たソファもまた、トンマンの窶れ方が気になっていたので、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「公主様……しっかりお休みになってくださいね」
「うん」

 そうは言っても、そうそう休んでもいられないとトンマンは思ったが、下手なことを言って心配をかけるのは嫌だったので、それ以上は言わなかった。
 間もなくヒョンガンはトンマンの支度を終えると、立ち上がって見送ろうとするトンマンに、そっと頭を垂れた。

「娘主?」
「公主様。清らかな御方には、お気をつけ遊ばしませ」
「……?」

 怪訝そうに目を細めるトンマンに、ヒョンガンはやんわりと微笑んだ。

「清げな御方と言うものは、とても純真で……時に、惨くなられますから」
「娘主、それは……」
「お許しくださいまし。差し出がましいことを申し上げる年になったようです」

 ――そのまま静々と退出したヒョンガンの言葉の意味を、トンマンは一晩かけて吟味することになった。



 嘉俳の日、女達は皆、新調した華麗な衣裳を披露する。年に一度の女の祭りに相応しく、最も気合いの入った装いを見せるのだ。
 それはヨンモも例外ではない。ポリャンがチュンチュに薦められた布地で隋風の美麗な装束を仕立てあげたように、ヨンモもまた風月主の妻であることを意識して、華々しい装束を新調した。例年にも増して、金に糸目を付けずに準備をした。
 それと言うのも、今年のヨンモには彼女だけの批評家がいたからだ。

(……悪くないわ)

 鏡の前で濡れた髪を直しながら、ヨンモはふっと双眸を細めた。
 右側、左側と確かめるだけのつもりだったが、我ながら流し目がなかなか色っぽい。これも人の妻になったからかしら、と頷き、ヨンモは鏡をしまった。身繕いをする姿を夫に見せることは、有り得ない。
 けれども化粧直しを終えてしまうと、暇を持て余すことになった。化粧を直している間は気にもしなかった夫の居所が、急に気になってくる。そんなことは考えもしなかったが――。

(まさか……ユシン郎、お帰りにならないつもりなの……?)

 これだけ美しく着飾ったのだ。新婦への礼儀としても、今夜は懇ろに過ごすべきだし、何より、すでにヨンモは今夜ユシンへの『愛情』をきちんと示した。高値で彼を落札し、彼の妻に相応しい美しさも見せた。彼の家族に奉仕もした。
 ――妻として、私に何か不足があったかしら?
 いや、ない。いくら考えても、不足はなかった。つまり、今夜、ユシンは満足げにこの閨へ来て、それはもう情熱的にヨンモの美点を誉めそやしてくれるはずなのだ。
 が、ヨンモの甘美な夢は、先刻の夫を思い出した瞬間に砕け散った。

(…………公主様も、今宵は着飾っていらっしゃったのよね)

 ヨンモから見ればトンマンの舞はぎこちないものだったが、夫に舞の良し悪しがわかるはずもないことは承知済みだ。思い出してみれば、夫はただ公主に見惚れていた。懸命に舞う公主と同じくらい夢中になって、見つめていた。

「……」

 ――むなしいって、こう言うこと?
 美しさで公主に劣るとは思わない。舞だって、もっと華麗にこなせる。公主には出来ない妻としての奉仕も出来る。
 だが、そんなことはユシンには大したことではないのだ。夜を共にする度に律儀にヨンモを抱きしめるように、もはやヨンモのすることは何もかもが当たり前のことなのだ。そして、今夜は仕事が忙しいから交臥をしない、それだけなのだ。

「……来年もあるわ」

 そのように自分を鼓舞して、ヨンモは衣裳を脱いで寝衣に着替えた。どうせ、ユシンが来ても、華麗な装束など邪魔なだけだ。誉めてもらおうなどと言う考え自体が馬鹿げているのだから……。
 その時、いきなり戸が開いて、何気なくユシンが入ってきた。
 ユシンはヨンモと寝台を順番に眺めて、いつもの無味乾燥な表情で訊いた。

「……休むところか?」
「……はい」
「そうか」

 ヨンモの愁いには全く気がつかないままユシンは奥に入ると、常のように腕を広げた。妻が着替えを手伝うことに対して、少しも疑いを持っていないらしい。
 その上、あれだけ公主にときめいていたくせに、公主を想って一夜を過ごそうと言う気にもならないようだ。このまま眠るにしてはやけに凛々しい後ろ姿を見るに、淡々と恒例の夜を送るつもりなのだろう。

「……はい」

 そんな、妻の物思いになど生涯気付かないだろう広い背の世話を焼きながら、ヨンモは思った。
 ――張り合いはないけれど、これはこれで気が楽だと考えるべきなのかしら……?
 何せ、あれだけ公主の舞う姿に盛り上がっていたくせに、こうしてなんの躊躇いも見せずに『夫』であり続ける。祖母ミシルと兵部令がそうするように公主と私通をする気配は、皆無だ。祖父セジョンを思えば、夫の寵を独占しているヨンモは幸福だと言っていいだろう。
 ならば、必要なのはその幸福を維持する努力だった。



 したたかに降りだした雨は、悲喜こもごもの喧騒が止むに従って、静かな音色を奏でるばかりになった。
 慌ただしく帰宅する者、あらかじめ用意させていた宿所に戻る者は離宮を去り、その離宮にはもう宿所を用意されていた高貴な真骨貴族のみが残っている。その貴族達も各々の閨に引き下がっていた。
 ――しかし、一夜の祭りは、その閨に佳境があると言ってもいい。

「……ほんとうに、そうかしらん?」

 馴れぬ男の閨で、ユモはぽつりと呟いた。
 浅はかにもホジェに当たり散らし、父の手からも逃れたユモが駆け込む先は、自分の閨にはなかった。そこに戻れば、すぐに見つかってしまう。かと言って、友人の閨にはその夫もいるので飛び込めない。
 乱れた心地のままユモが捕まえたのは、同じく動揺と興奮が入り交じったテナムボだった。そのままテナムボの閨に隠れ、隠れたついでにむしゃくしゃしたまま二人は契った。そして今、うたた寝をするテナムボを置いて立ち上がったユモは、脱ぎ散らかした衣を手に、嘆息している。

(……一長一短ね)

 ホジェは、絶対にユモより先には寝なかった。優しく寝衣をかけてくれたり、髪を撫でてくれたりと、どんな時も細やかな気遣いを欠かさなかった。が、欠点はあった。ユモは、ホジェの腕の中で、所謂躯の激しい悦びと言うものを知ることはなかったのだ。ただ、ホジェ以外の男と寝たことがあるわけでなし、そんなものかと媚態に気を配っていたのだが……。
 ちらりとテナムボを振り返って、ユモは悔しげに顔を顰めた。どこぞでこさえてきた情欲を吐き出したテナムボは、自分の不手際など思いつきもしていないらしく、あどけない顔で眠っている。

(この、繊細さなんて一欠片もない男が……)

 益々唇をきつく引き結びながら、ユモは手にした衣に顔を埋めた。
 ――ホジェ公とだったら、それ以上の幸せはないのに。
 もしあの悦びをホジェがもたらしてくれたなら、愛人だろうが妾だろうが、もしかしたら、あまり気にならなくなっていたかもしれない。蕩けて満たされていただろう。
 しかし現実には、心と躯を同時に満たしてくれる存在などいない。心を掻き立てる男は躯も愛も満たしてはくれず、躯を蕩けさせる男は、夫どころか情夫にするにもあまりに無粋だ。

(……あのままホジェ公について行っていたら、違ったのかしらん?)

 テナムボの閨を離れて自分の閨への道を歩みをふと止めて、ユモはまた大きく嘆息した。いくら吐息を溢しても、未だに躯の芯を燻らせる焔は消えてはくれなかった。



 宛がわれた閨の辺りに遊花がいるのを見て逃げ出したピダムは、軒下からぼんやりとトンマンがいる棟の方角を眺めていた。
 雨月になると、中秋は月の輝きが一層強いだけに気も沈みがちになる。ピダムにとっては、さしずめ舞を披露するトンマンが中秋の名月で、そのトンマンと話も出来ない今は雨月だった。いつもなら、少しくらい月が欠けてもここまで物思うこともなかったのに、月が見えない今、何もかもが切なく感じられる。

(……公主様はきっと、もう寝てるんだろうな)

 今日まで寸暇を惜しんで舞の練習をしてきたのだ。その苦しみからやっと解放されたのだから、今夜ばかりは何も心配せずに眠って欲しい。そして、朝になったら、また溌剌としたあの愛らしい笑顔で言って欲しい。――ピダム、良くやった。お前が勝って嬉しい、と。
 ……その為には、ピダムもまた、こんなところで物思いに耽っていないで、トンマンに朝一番に逢えるよう眠らなければならない。寝不足顔では、微笑んでもらえない。

(……それは、わかってるんだが)

 ところが、その瞬間、瞼を閉じる度にちらついていたトンマンの姿にふいにテナムボが触れて、カッとピダムは眼を見開いた。

「……あんの野郎」

 やたらと馴れ馴れしかったテナムボの手を思い出したピダムは、ぎりぎりと嫉妬と憤怒を飼い慣らしながら柱から背を離し、自分の閨に戻った。




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  1. 2012.01.19(木) _00:00:53
  2. 中篇『第一美花郎比才』
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