善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by saki

今年第二弾のリレー連載でございます。今回はsakiさんの番です!
もしご感想をくださる方がいらっしゃいましたら、拍手欄ではなく、コメント欄からよろしくお願いいたしますv


* *


目の前に翡翠の牌が2つ。
差し出された手は大きく滑らかでおよそ剣を握った事はおろか働くことも知らない貴族の手だった。その手を持つのはこのオアシスの領主でアサドが苦い顔をし、ピダムが注意をはらい、そしてこの状況でトンマンが欲していた話しを聞いてくれる者の手だった。
牌と領主の間を行き来するトンマンの目には迷いがあった。
信じるか否か。
信に足るのか否か。
硝子のように透明で何色も映さない領主の目からは何も読み取れない。それでも時は待ってはくれぬ。いつ領主の気が変わるかもわからない。トンマンが牌を選ぶまで待ってくれるのか、それとも次の瞬間にはその手を戻してしまうのか。幾拍の時を逡巡に費やしたのかも分からないまま、果てにトンマンの口をついて出たのは・・・。

+++

正論を吐いて道を説こうとする娘。こんな辺境に住まう、ましてや平民の娘の口から道を説かれるとは予想だにしなかった。そんな学があるとも思わなかった。年の割に多少は商いに通じた小賢しい娘。祭りの為の贄。領主にとってはその程度の認識だった。だが、その考えを多少は改めなくてはならないようだ。

(・・・面白い。)

領主は目の前の娘に俄然興味を覚えた。だから牌を娘の前に差し出してみた。これがお前たちの最後の希望だと嘯いて。すると、また娘は領主の予想を裏切った。これまで同じようにした者たちは皆一様に考えも無く一縷の望みに飛びついたものであったがこの娘は違った。牌に刻まれた文字を見せてくれと言う。己が命を懸けるものが信頼足るか知ろうとする。追い詰められていながらも一握りの冷静さを失わぬ。その目も迷いが見えはするが強い光りを宿していた。故にその光りに陰りをより与えたくなった。領主は陰鬱に笑う。

「駄目だ。このまま撰ぶのだな。撰ぶ気がないのならば私はもう席に戻るし、刑も再開させよう。そう伝えよ。」

最後の一言はギロチンに架けられたままの西域の商人に向けて領主は言った。異国の言葉を操り伝える商人から領主の言葉を理解した娘の瞳に絶望の影が走ったのを確かに領主は見た。口の端を判らぬ程度に引き上げ愉悦に浸るが、しかしそれは一瞬の事でしかなかった。娘の目の光りはまだしぶとく灯り続けている。この状況でありながら諦めていない証でもあった。

(面白い。面白い。まだ足掻くか。諦めぬのか。ならばその目を早く絶望に染めた様を私に見せてくれ。)

娘の手が牌の片方を掴み自身の身に引き寄せる。誰もが固唾を呑んで己等が運命を見守る中、娘のとった行動を一体誰が予想しえただろうか。それはこの領主も同様であった。制止する間もあればこそ娘は領主の目の前で牌を飲み込んだのである。そして己を真っ向から見据え、いや、睨みつけて言うのだ。

「領主様がお持ちの牌を見せて下さい。領主様の牌が『生』なら私が飲んだのは『死』!領主様の牌が『死』なら私が飲んだのは『生』の牌です!!」

領主はこの時初めて他者の気迫に呑まれた。小賢しい娘と。悪辣な遊戯の贄と見做していた15の娘に気圧されたのだ。領主の手から牌が転がり落ちる。コロリと砂漠の乾いた砂にまみれたそれは風に遊ばれるまま領主と娘との通訳を果たしていた商人の前にまで転がってきた。ギロチンに体を固定され動けぬ身なれど牌は確かに文字を刻んだ表面を空に向けていて、限界以上に首を伸ばしその文字を確認した商人は次の瞬間、歓喜の声を上げた。

「『死』だ!ここにあるのは『死』の牌!トンマンの勝ちだ!!」

同じく捕らえられギロチンに架けられている者。その後ろで身を寄せ合い恐怖に戦いていた者たちの間から次々と歓喜の声が上がる。領主は娘を見た。娘の目を見た。しかしそこに歓喜の色は無く変わらず領主を見据える両の目があるだけだった。周りの音が聞こえていないかの様に微動だにせぬ娘が正にその通りの状態であるのだと、娘の名を何度も繰り返し呼ぶ商人の声に領主は悟った。娘の目は領主に言うのだ。この歓喜の声も聞こえぬほどに強く。約束を守れ、と。

(・・・こんな娘がいるのか。ただ騒ぐだけの贄の中にとんだ虎が潜んでいたものだ。)

そして約束は守らなければならぬ。もちろん娘とのではない。己自身との約束をだ。枷の無い遊びなど何が愉しいものか。

+++

そして娘の気迫に呑まれた者がここにもう一人。高所から広場を弓矢片手に窺っていたアサドである。番えていた矢を下ろし、額に浮かんだ汗を拭う。

「・・・心臓に悪りぃ。ありゃ、並の肝じゃねえぞ。」

騒ぎを起こそうとした自身の事は棚に上げてアサドは言った。眼下では領主の命により解放されてゆく商人たちの姿があった。その中には母親の元へ駆け寄るトンマンの姿もある。
領主に詰め寄りその首を絞めたいが彼等の解放が成った今とりあえずは退くべきか。それとも折角だ。何か領主の弱みとなりそうな物を一つ二つ探ってからでも遅くはないか。身を潜めアサドは考える。
しかし同時にトンマンがみせた気迫と行動が気にかかった。一介の町娘にあれ程の胆力が備わるものなのだろうか。
母親であるソファの気性は良く知っているから、では、あれは父親の方に似たのだろうかと。
それにしても、いや全く女であるのが惜しまれる。男であったならば長じて世に名を馳せるかもしれぬと思えるほどに少女はアサドの心を揺り動かしたのだ。
その時、廊の向こうから人が騒ぎ出す気配がした。この弓矢を借り受け場所もお譲り戴いた後その辺りに転がしていた見張りが気づいたらしい。
どうやらこれ以上この屋敷に留まるのは得策ではないようだとアサドの意識がそちらに向く。しっかり手足を縛り付け猿轡もしておけばよかったかとも考えたが、さすがにそれは冗談が過ぎるかと考え直した。
アサドは低く舌打つとその場から音も無く立ち去り、残されたのは結局使われる事のなかった弓矢のみ。侵入者があったのか眠り込んだ上に夢を見たのか、報告をした後にどう判じられるかはこの場を任されていた兵士の信用次第だろう。



トンマンたちよりはやや遅れて領主の館を後にしたアサドは近い内にまた領主と面通す事になるのだろうと思う。幸いにもトンマンたちは難を逃れたがこのオアシスに降り懸かっている問題は何一つとして解決していないのだから。

+++

オアシスの通りを賑やかしい声が行く。解放された商人たちだ。その中心にいるのはトンマンで気を失い荒い息をついている母を心細げに見上げ、その母娘を心中複雑に見るしかないチルスク。チルスクは領主館を出てからずっとソファを担いだままだ。

「トンマン、モスクたちが直ぐに医者を連れて来る。きっと大丈夫だ。」
「カターンおじさん。」
「ほら、君も黙っていないで何か言いなさい。」
「・・・あぁ。そうだな。」

確証を得てしまった今、彼の中にあるのはどうすることも出来ない忠義の心。領主の手の内からは幸運にも逃げられた母娘に対しこれから為すことを思えば眉間に深い皴が刻まれた。

(そうだ。俺に何が言えよう。)

けれどトンマンは2人から再三に受けた忠告を無下にした結果、皆を危険にさらしてしまった事を無言の内に責めているのだと思ったらしい。進む足が遅くなり少し距離があく。

「・・・糧にしろ。」
「こらこらこら。首の皮一枚で助かったから良かったものの助長するような事は言うんじゃないよ。今回みたいな事が早々あっては堪らない。トンマンもいいね?」
「うん。ありがとう。皆、ごめんなさい。」

似合わぬ事を、とんだ道化だとチルスクは自身を嘲笑った。それでもトンマンには効果があったようだ。微かに笑みを浮かべ歩調も戻る。チルスクはそんな少女から視線を外した。一度は鬼にと定めた心が揺らぎそうで恐ろしかった。

(璽主さま。ミシル様。どうか私が貴女の花廊として正しき道を撰べるよう導いて下さい。)

遠い過去にあって変わらず男の中で輝き続ける唯一の貴人にチルスクは祈る。それは、この期に及んでもなお、やもすれば母娘を見逃してしまいそうな己から目を逸らすためでもあった。



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  1. 2012.01.14(土) _18:47:42
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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