善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき』~砂漠編~ by saki

諸々のお返事をする前に、まずリレー小説第37話を更新させて頂きます!
今回はsakiさん担当です。ドラマの設定に合わせて、夜に読むと、さらにぎゅっと心が苦しくなるお話になっています・゚・(ノД`;)・゚・←完全に読者気分ですねw


* *


それは鎖のように。
それは怨嗟のように。
それは男の意思を捕えて離さず。

それは鎖のように。
それは呪いのように。
それは女の過去を捕えて離さず。

それは鎖のように。
それは祈りのように。
それは少女の未来を閉ざさず。

それは鎖のように。
それは願いのように。
それは少年の行動を諌めず。

廻る、廻る。錆び付いた歯車が動き出す。
キシッ・・・キシリ・・と軋んだ音を上げて・・・今。

+++

階下の喧騒が遠い。同じ旅閣の中だというのにここはとても静かだ。皆が階下に出払っているからだろうか?トンマンは自分の手を引くソファの背を見た。いつになく強い力に困惑し母の名を呼ぶがまるで聞こえていないようでぐいぐいとトンマンの腕を引っ張りその様子は何かに焦っているようにも見えた。進む先からしてどうやら自室に向かっているようだが本当にどうしたのだろう?

「母さん。母さんってば!一体どうしたのさ?早く下に戻ろう。お店を放ったままに出来ないよ。兄さんも直ぐに帰ってくるよ、きっと。」
「・・・ピダム。そう、ピダム。あの子も連れていかなきゃ。」
「母さん?」

それでもトンマンはどうにかして母の意識をこちらに向けたくて話し掛け続ける。兄の名を挙げた所でソファの足が止まった。意識が別に向いたせいか腕を掴むソファの力が若干、緩む。その隙にトンマンは自身の腕を取り戻した。少し痛む。もしかしたら痣になっているかもしれない。腕を擦り痛みを誤魔化す。

「ピダム、何処に行ったのかしら?早くしないと・・・・・・・早く・・・。」
「兄さんはザズさんとお酒取りにザズさんちに行ったじゃない。母さん、本当にどうしたの?それに行くってどこに行くのさ?」

ふらふらとまるで正体を失ったかのような母の様にトンマンはいよいよ不安になってきた。先程までは発作を起こした後とはいえ平常と変わらぬ働き振りであったので尚更に。しかしそこで原因はとトンマンが首を傾けてみても全く思い当たらず・・・否、ひとつだけあった。
ソファがおかしくなる寸前にカターンたち相手に話していたある男の物語だ。赤子を連れ追われた何処かの国の侍女の話し。そういえばあの物語の結末をまだ聞いていない。まあ、話の主役がチルスクである以上聞かずとも分かることではあったのだが。
チルスクは明日、カターンたちとローマに発つ。彼の捜し人たちは今どこでどうしているのだろう?何処かの見知らぬ土地で静かに暮らしているのか?それとも既に儚くなっているのだろうか?しかし、どちらにしてもそれが母にどう関係するというのか。しないに決まっている。それよりも今はソファをどうにか落ち着かせねば。どうしようかと考えるトンマンの耳に荒々しく物が倒れる不穏な音が響いた。

「え?」

音はトンマンたち親子が使っている部屋からだ。ピダムの姿を探すソファをその場に残し、トンマンはそろりと近づき薄く扉を開く。領主や珊瑚の簪の男の事もあって流石に慎重になっていた。扉から見える範囲には荒らされた様子も不審な影も見えずトンマンは更に一歩部屋に踏み込む。家族3人で暮らす為のこの部屋は狭くはないがそう広くもない。幾つかの垂布で部屋を分けていて、いわば初めの空間は人を迎えるための続きの間だった。そろりと奥に続く垂布をかき分け合間から窺い見えたのは散乱した部屋と見知った男の背中だった。

(おじさん?)

物盗りの類いを予想していただけにトンマンは首を傾げる。少なくとも彼は物盗りなどをする輩には思えなかったし理由もない。
ならば他にも誰かいて追い払った後とか?ここは2階ではあるけど窓から飛び降りれない高さではない。
ひとまずそれで納得したトンマンはチルスクに声をかけようとして気付いた。こちらに背を向けた男の手には見覚えのない箱。見覚えはないがおそらく彼の物ではないだろう。旅の手荷物にしては不似合いな大きさであったし、彼が街で何かを買い求めたとも聞いていない。それでは誰の物であるのかといえばトンマンも答えを持ち合わせてはいなかった。けれど、それがこの部屋にあったのならば母の物であるのかもしれない。兄の持ち物にしては年季が入っている様に見えるその箱に傷みが無かったからだ。蓋は何かの拍子に外れたのか僅かに中身が見てとれてトンマンは息を呑む。一目見て最上級と分かる艶やかな産着。鮮やかで緻密な細工物。箱から取り出されたそれらをチルスクは凝視していた。
何でそんなものがあるのだろう?というか捨て値で捌いたとしても数年は食うに困らないんじゃないだろうかとチラリと頭の片隅でトンマンは思う。声に出さなかったのはそれを見るチルスクが諦めたような泣きたいような、それでいて怒っているようで無表情な、これまでトンマンが見たことのない複雑な表情をしていたからだ。

(・・・えっと?これは声をかけて良いのか悪いのか?)

部屋の主はトンマンたちであるのでその疑問もどうかと思うがそう思うほどに彼が放つ空気は重苦しかった。しばし逡巡した後、結局トンマンは部屋を出る事にした。理由も経過も分からないが誰しも一人にしておいた方が良い時はあるものだ。取り敢えず部屋を勝手に使った文句は後で言うことにしよう。出会ってからまだ数日だが反面中々に濃い日々でもあったのでチルスクに対する信用はあったのである。
だから、気が抜けた。トンマンは入ってきた時ほどに気を配らなかった。カタリ。適当に立て掛けておいた支え棒に蹴つまずく。その音はチルスクの耳にも届いたようで彼が振り返りこちらに近づいて来る気配がした。

+++

まさか盗っ人の真似まですることになるとはとチルスクは思う。母子の部屋に潜み入り棚や唐櫃を開けては戻し、隠し棚の類いがないかと時間の許す限りの丁寧さで調べる。耳は誰かが2階に足を運びはしないかと階下の騒ぎに神経を澄ませていた。
そんな中、一際歓声が上がる。

(・・・皆、酒もかなり過ぎていた。そろそろ騒ぎ疲れた奴が上がってくるかもな。)

潮時かとも思う。何も出てこないのならばやはり自身の思い過ごしかもしれぬ。それに女主人は確かに『陛下』と口走ったが他国での厄介事の可能性だってあるだろう。この際彼女が口にしたのが鶏林語であったのには目をつむろう。生まれと育った土地が違う事も無くはないのだと言い訳のような理由付けをチルスクは思い付く限り続けた。後は誰かが上に上がってくる気配さえあれば・・・・と。
けれど。
棚の奥を見るのに手前にずらした位置が悪かったのか積まれた櫃や箱が均衡を無くし音を立てて崩れ落ちた。チルスクは軽く舌打つ。僅かの時間も惜しいこの時にと。いや、最悪、物盗りの仕業に見せ掛ければ良いのかとも考えチルスクはそこで漸く自身がこれまでにないほどに混乱している事に気付いた。

(・・・誰かの気配がすれば・・・盗っ人の仕業に。阿呆か、俺は。それがミシル様に忠誠を誓った花郎の考えることか!)

泣きたくなるほどの情けなさにチルスクは自身の目を覆う。

(・・・あぁ。花郎としての矜持も気概も俺は磨耗しきったのか。)

場所も忘れ己に対する嘆きの渦に身を投じかけたチルスクの前に角灯の明かりに反射する鈍い輝きがある。それは散らばった箱の一つから漏れていた。落ちた拍子に外れた蓋とどこにでもある古布から顔を出してしまったそれはこんな砂漠の辺境に在って全く似つかわしくない代物。象牙の鞘に小粒ながらも上質の紅玉や碧玉が幾つも散りばめられ緻密で繊細な細工を施された小さな短刀。

チルスクはまだそれに気付かない。



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  1. 2012.02.26(日) _22:17:56
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