善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

【ときめき10の瞬間】02. 俺様でもキスは優しい(知望)

※『善徳女王』とは何の関係もない記事です。


まさかまさかの遥か3、知盛のSSです。下天をやったら遥か3のSSが書きたくなるという不思議が起きました。




* *


 ――俺様でも、キスは優しい。

 望美が柄にもなくそんなことを考えたのは、知盛の三度目のキスのときだった。

 ちなみに、一度目は梶原邸の門前での別れ際、腕を掴まれ、強引に引っ張られてのことで、望美は迷わず知盛を張り倒して自由を得た。幸い朔や八葉には見られずに済んだが、憤懣やる方ない望美は翌日それはもう殺気を溢れさせて知盛に打ちかかったものだ。
 二度目は、知盛から六波羅の邸第が落成したらそこに移るよう言われた時のこと。「なんで」という望美に片眉を上げた知盛が、(望美が見るに、大変)イヤミったらしく口の端を上げた後、

「ほう……。神子殿はあれほど俺を欲しておきながら、今更怖じ気づかれたか」

 などと抜かしたものだから、カッとなって反論しかけた望美の顎を捕らえて引き寄せた挙げ句、

「すぐに噛みついてくれるなよ」

 とだけ言って、望美の唇を自分のそれで塞いで黙らせた(ついでに舌も入れてきた)というものだ。
 二度ともがそんな経験だったものだから、望美の繊細なオトメ心はそれはもうズタズタに引き裂かれたと言ってよい。
 思えば、知盛と刃を交えるようになって早数ヶ月。荒廃した京の復興を見守る傍ら、望美はまだ消滅していない怨霊の浄化に努め、求められれば南都にも近江にも行った。そして、その間、暇があれば知盛を捕まえて剣を撃ち合ってきた。そんな望美を八葉や平家の面々を始めとする周囲の者たちが案じていたことは、望美も知るところだ。
 だからだろうか、知盛が自分の邸第に引っ越せと半ば命令してきた時、望美はキスには心底憤りながらも、素直に頷いていた。なぜなら、望美が出掛ける度に朔がどんなに心配そうにしているか、よく知っていたから。
 しかし、当然といえば当然のことだったが、八葉の誰一人として、望美の引っ越しに首を縦に振らなかった。例えば弁慶は、

「望美さん。純粋な君にはこんなことは言いたくありませんが……」

 と心底困り顔で話を切り出した後、それはもう容赦なく宣ったものだ。

「正式の婚儀もなく知盛殿の邸第に入るということは、君が知盛殿の召人になってしまうということです」
「めしうど?……って、なんですか?」
「夜伽を拒むことの出来ない女房です」
「え?」

 馴れない言葉ばかりでピンと来ないらしい望美の様子を見た弁慶は、待ってましたとばかりに苦痛の滲む声で核心に触れた。

「つまり、君が不本意ながらあの知盛殿の赤子を生むようなことになっても、誰も文句を言えない、ということです」
「えぇえええっっ!?」

 さすがに望美も元高校生。赤ん坊はコウノトリが運んでくるんだとは思っていない。勿論具体的なコトは一切わからないが、あの知盛ととんでもない関係にならない限り、赤子なんて単語が弁慶から出てこないのはわかる。
 だが。だが、いったいどうしたら良いのだ。――それでも、まだ望美は知盛の邸第に引っ越すつもりでいるのに。
 狼狽する望美に、弁慶は更なる爆弾を落としにかかった。

「いいですか、望美さん。――この世界では、男女が対等な関係でいるためには、きちんと婚儀を挙げるしかありません」
「婚……儀……って、知盛と結婚しなきゃいけないってことですか!?」
「そうです。普通は婿君が花嫁の家に入るものですが、近頃は花嫁が婿君の邸第に嫁ぐ例もありますから。ですから、望美さんさえそのつもりなら――」
「っないです! そんな、ととと知盛と結婚だなんて……!」

 と、顔を赤くしながらも本当に鳥肌を立てていた日から、僅か一月後。なんと、血のように染まった紅葉の舞う夜、望美は知盛に嫁いでしまっていた。

 ――あれ? なんでこんなことになっちゃったんだろ?
 新婚の床で首を傾げながら、望美は記憶を引きずり出した。そう、あれから望美は息巻いて知盛の元を訪れ、人目も気にせず知盛に叩きつけたのだ。

『引っ越しは取り消し!!』

 と。
 にもかかわらず知盛は、以前と変わらぬ様子で邸第を建てさせた。望美のための北の対屋も忘れずに。
 さらに、この世界ではもはや望美の保護者といっていい将臣から結婚の許しをもぎ取り、望美まで何を丸め込まれたやら……もとい脅されたやら、やっぱり知盛の邸第に引っ越す、と決意を改めてしまっていた。その思いを、望美はこう語った。

「だって……神子殿はあれほど熱く俺を欲しておきながら、もうその欲望も潰えたか……移り気なお嬢さんだ……って、ものすっごくイヤミったらしく笑ったんだもん」

 売り言葉に買い言葉とでも言おうか、望美はついつい挑発に乗ってしまった。

『移り気なわけないでしょ! 知盛みたいなほっとけばドボン男を捕獲するのに、どれだけ苦労したか……!!』
『クッ……ならば、昼も夜も、俺を手放さないことだな……』
『もちろん、そうするよ!! 覚悟しなさいよ、知盛!』

 ……という次第で、望美が知盛に嫁ぐことが決した。



 平安時代の婚儀がどういうものなのか、当たり前のことだが望美は詳しくない。だが、朔が言うには婚礼はどんどん簡素になっているらしく、今はもう三日夜の餅とやらは初夜に済ませてしまうことが多いらしい。それでも知盛が婿入りしたなら、知盛は履き物を八葉のいずれかに渡さなければならないところだったのだが、望美が嫁入りしたものだから、それも省かれた。また、どうやら知盛の意向により餅も最初に出されて、望美がしたことと言えば、婚礼衣裳を着て梶原邸から牛車に揺られ、北の対屋の車寄せで知盛に有無を言わさず抱き上げられて簀子に着地し、北の対屋の昼の御座とやらでお祝いの膳に形ばかり手をつけ、単衣姿に剥かれて寝所に入れられたことぐらいだ。
 この間、望美は完璧にお人形化していたと言ってよい。おかげで、
 ――嫁ぐって、案外あっさりとしてるのかも。
 と一人になってから寝所の戸を開け、ところどころに揺らめく灯りを頼りに人気のない庇を歩き、妻戸を開けた。壺庭には、何やら見覚えのある大樹。

「桜……かな?」

 季節がら、花はない。けれども幹や葉の様子などが神泉苑の桜の大樹に良く似ていて、望美は思わず微笑を咲き綻ばせていた。花断ちを覚えて以来、桜の樹は望美の盟友も同然だ。
 裸足であっても構わず階を降り、太い幹に触れてみる。とくん、と鼓動が跳ねた。

「……」

 その望美の様子を、同じく単衣姿の知盛は妻戸の柱に寄りかかって眺めていた。どうせ寝所で大人しく待ってはいまいと踏んでいたから、望美が今ここにいることはさしたる驚きではない。いや、それどころか、知盛はこの大樹に望美が気がついてくれるのを待っていたのだ。何せ、望美のためにわざわざ六波羅の中でも桜の樹のある地を邸第に選んだのだから。
 そうして、穴が開くほど望美を見つめていると、桜の鑑賞も一段落したのか、望美が振り返り、知盛の姿を見つけて固まった。

「いっ、いつからっ……」

 背後を取られたのに気付かなかったのがよほど悔しいのか、赤くなるやら蒼くなるやら望美は言葉を詰まらせた。知盛はと言えば、そんな新妻の動揺には構わず、これまた裸足で階を降りてくる。銀砂の髪が星明かりのように煌めいて、望美がそれに目を奪われているうちに、知盛はもう目の前にまで来ていた。
 反射的に望美が後ずさっても、背後には桜の大樹。先刻までは確かに味方だったその大樹に退路を阻まれ、
 ――そうだった。この大樹は知盛のもの……つまり知盛の味方!
 ……と気がついた時にはもう遅く、知盛はじっと望美を見下ろした。身長差もあって、なかなか威圧感がある。負けじと望美は見返した。

「か、勝手に抜け出したことだったら、謝らないからね」
「――望美」

 しかし、知盛は怒るでもなく、初めて望美の名を呼んだ。神子殿、とは口にせず。
 それに対して望美が出来たことと言えば、返す言葉もなく真っ赤になるくらいだ。

(~~っ! なっ、なんで今こんな時に、急に優しい声で呼んだりするの……っ!!)

 こんな時どころか、今夜が二人の初夜で、桜の大樹と並ぶ望美に何やらこの世のものならぬ匂やかさを感じたからこその知盛の「望美」呼びなのだが、あれほど知盛を欲しておきながらまだ恋心の自覚がない望美は、とてもそんな考えには至らない。
 かと言って悲鳴も上げられないのは、無自覚ながらも知盛への恋慕に囚われているゆえだろうか。知盛が頬にかかる紫苑の髪を撫でやり、望美が苦しくないようわざわざ屈んで柔らかく唇を重ねた時、望美は無性に泣きたくなった。
 ――こんな優しい知盛なんて、詐欺だ。
 こんなところで望美を騙していったい知盛に何の得があるのかわからないが、とにかくそう感じたのだから仕方ない。おまけにその夜、知盛はずっとずっと優しくて、望美はついに知盛を殴り飛ばすことも蹴り倒すことも出来なかった。――こうして、望美は名実共に、知盛の北の方に収まってしまったのだった。



 婚礼を挙げた後には、行始というイベントがある。いわゆる仕事始め、あるいは挨拶回りといったもので、新郎は院御所、内裏、実家、舅の邸などを回り、新婦もまた実家には同道する。そんなわけで、婚礼から五日ほどを経た吉日に、望美は梶原邸に再び知盛をお持ち帰りした。
 ちなみに、決して望美が呼び集めたわけではなかったが、梶原邸には朔のみならず、八葉に重衡、経正までもが集合していた。なんでも、重衡は例の微笑で無理矢理将臣に付いてきて、経正は重衡の世話を一人でしたくない将臣に引きずられてきたらしい。
 よって、思わぬ大人数の歓迎と好奇の目、心配、殺気などに望美と知盛は囲まれていたわけだが、なんと当の望美は数日前までの威勢のよさはどこへやら、髪色に合わせた紫苑の襲の小袿姿で大人しく知盛に手を引かれ、終始恥ずかしそうに小さくなっている。新妻の愛らしさが総身から溢れている望美に、朔は涙ぐむやら、譲が部屋の隅で落ち込むやら、悲喜こもごもの輪の中で、相変わらず知盛だけは顔色一つ変えないどころか、つまらなそうにあらぬ方に眼を向けている。

「おい、知盛」
「……」
「ったく、お前は相変わらず可愛いげがねぇな。ま、いいわ。おめでとさん」
「……どうも」

 が、将臣が話しかければ返事はする。ということは、この環境を無視しているわけではないということだ。
 その証に、早速望美の梶原邸での次の里帰りについて話が及ぶや、知盛はさっさと望美の手を引いて彼女を立たせた。

「知盛?」
「……帰る」
「えー!? 朔がお夕飯一緒に食べようって」
「……」

 ちなみに、まだ陽は中天にある。

「知盛!」
「……うるさい口だ」

 とうとう元々さして得手ではない辛抱も限度となったのか。ここ数日、望美の身体が馴染むまではと大変優しい夫を演じ、また初々しい望美を楽しんでいた知盛は、唐突に常の彼に戻った。すなわち、望美の腰を抱き寄せ、周囲が大変目のやり場に困るような……要するに首筋にほとんど唇をつけるようにして、望美に囁いたのだ。

「昨夜、あれほど情熱的に俺を求めておきながら、神子殿は今宵は掌を返されると……?」

 ……あとは、将臣が頭を抱え、望美が慌てふためき知盛に斬りかかるような、全くもって和やかな一時となったのだった。





* *

【ときめき10の瞬間】02. 俺様でもキスは優しい
恋したくなるお題様より


関連記事
スポンサーサイト
  1. 2013.09.02(月) _20:00:00
  2. SS<遙か3>
  3.  コメント:0
  4. [ edit ]

<<SS 三匹の童 (『下天の華』信長×ほたる) | BLOG TOP | 8月24日から26日までにいただいた拍手コメントへの返信>>

comment


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。