善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃27

隠居連載の続きです。中身はありません…が(ちょ)、トン&ピが仲良しなら悔いはありません!←


* *


 トンマンは元々、眠りの浅い人間だ。
 と言うのも、幼い頃からずっと、彼女は何かに追われるように生きてきたからだ。ソファの発作に、男装が暴かれること、命を狙われること、彼女が解決しなければならない難題――様々なものに怯えて、トンマンは生きてきた。眠ってしまう間に何かに足を捕まれ、引き摺り下ろされることを恐れるかのように生きてきた。
 それは、譲位の後も変わらなかった。

「っ――」

 喉をひくつかせてトンマンが目覚めた時、辺りはまだ闇に包まれていた。思わず隣を見れば、仰向けになってのびやかに眠るピダムの姿が瞳に映る。その姿を見つめながら、深い寝息に耳を傾けていると、双眸から零れるものがあった。
 やがて、静かにそれの流れるままに任せていると、少しずつ心が鎮まった。身体の感覚もはっきりしてきて、トンマンはゆっくり寝返りを打った。寝台から抜け出すのは、壁側に横たわっている以上ピダムに覚られそうだったので、代わりに背を向ける格好で目元を拭うのが、こう言う時の常なのだ。

(夜中に泣いているなんて知られたら、ピダムはまた誤解をしそうだからな……)

 泣きたくて泣いているわけでもないし、今に文句があるわけでもない。事実、長く肌を重ねた夜なら、疲れきって気絶するように眠るので、夢も見ない。代わりに、翌日になっても抜けない疲れに手を焼く破目にも陥るけれども。

「……」

 ややあってから、ずれた袷を掻き寄せながら起き上がって隣を見下ろすと、ピダムはまだ先刻と同じように大の字になって熟睡していた。ピダムの寝相は大の字か、何かに抱きつくと決まっていたが、今夜は大の字らしい。
 近頃は、そうやってピダムの無邪気な寝姿を見ていると、トンマンの顔は自然と綻ぶようになっていた。

(図体はちょっと大きいけど……可愛いよなぁ)

 たまに鼾も掻くけれど、煩くて寝られないほどではないし、何より、無防備なところが良かった。何せ、出会った頃を除けば、これまでピダムはトンマンの前に出る度に襟を正しているようなものだったのだ。目付き一つとっても隙を見せまいとするところがあったし、特にトンマンが即位してからは、立ち居振舞いにまで品格が出てしまって、なんとも他人行儀だった。宮中なのだから致し方ないとは言え、淋しいことに変わりはない。
 二人で暮らすようになってからも、大概ピダムは家臣のように振る舞うものだから、トンマンがピダムの素顔を楽しめるのは、この瞬間だけだった。おかげで、今もトンマンは頬を染めて、高鳴りそうな鼓動をなんとか堪えながら、ピダムを見つめている。

(……こう言う気持ちを、ときめく……と言うのかなぁ……?)

 ふとこんなことを考えられるようになったのも、心に余裕が出来たからだろうか。
 ピダムと一緒にいると、トンマンは彼を愛しく想う気持ちだけでなく、彼に対する不安や心配、期待に願い、ついにはときめきまで、ありとあらゆる感情が引き出された。そのどれもが懐かしく、狂おしく膨らんでいく……それが夫婦と言うものなのだろうかと、今更ながら思い至ってきた最近は、その想いを伝える術を思いつかないことが、少しばかり歯痒かった。
 愛していると言う言葉では足りないし、悪戯に言葉を並べ立てればいいわけでもない。ただ一言、心を伝えたい――それだけなのに、たったそれだけのことが上手くいかない、このもどかしさ。

「……ピダム」

 その瞬間、勝手に唇がその名を呟いていて、トンマンは慌てて口元を覆った。起こすつもりではなかったのだ。
 ところが、小さな小さなその囁きにピダムは瞼をぴくっと動かし、重たげに瞼を上げた。

「……」
「……」

 寝惚け眼の黒い瞳と、焦る茶こけた瞳がかち合うこと数秒、ピダムはのっそり身体を起こした。

「……おれ、寝坊した……?」
「いや、違う。まだ夜明け前だ」
「ふぅん……」

 半ば寝ているのか、ほけほけした仕種でトンマンの頬に手を伸ばし、柔らかな頬をふにふに触る。かと思ったら、前置きなく身体を前に倒して、ピダムは間近でトンマンを見上げた。

「……」
「ピ……ダム?」

 夜明けが近づいて、多少は明るくなってきてはいるものの、閨の帳の中はまだまだ暗い。まじまじと見たところで何が見えるわけでもなかったが、何か気にかかることがあるのか、やけに据わった眼差しでトンマンを眺めた後、ピダムは細い肩を抱いて後ろに倒れた。トンマンは頭から硬い胸元に突っ込み、力強く抱きしめられた。いつもに比べて乱暴なのは、半ば眠っているからだろう。
 抱き潰されそうなところを辛うじて免れたトンマンは、苦しくないよう、もぞもぞ体勢を整えながら、そっとピダムの様子を窺った。

「ピダム……?」
「……寝て」

 それに、かすれた声で一言返したかと思うと、ピダムはさらにトンマンを抱きしめる腕に力を籠めた。

「寝ないと……また……」
「また……?」
「……倒れる。……いや、だ……」

 その声があまりに心許なく、小さな少年のようで、トンマンはぱちぱち瞬いた。

「倒れちゃ……や……だ……」

 それだけ言ったかと思うと、ピダムは再び寝息に埋もれた。トンマンを抱く腕からも、力が抜けていく。……どうやら、本当に寝惚けていたらしい。

「……」

 ピダムの腕から完全に力が抜けたところで顔を上げたトンマンは、今聞いた言葉の意味を確かめるように、ピダムを見つめ続けた。



 そうこうしているうちに、曙が景色をふんわりと照らす刻限となった。

「ん……」

 夜明けと共に起きる癖のついているピダムは、瞼を擦りながらのそのそ起き上がって、欠伸を噛み殺している。……はずが、その日、ピダムは寝衣を強く引っ張られて、寝台に肘をつくこととなった。そんなことをするのは、一人しかいない。

「トン、マン?」

 その、たった一人の容疑者を呼ぶも、俯せになったその容疑者は、顔を上げようとしない。代わりに衣の端はがっちり掴んで離さないので、ピダムは益々困惑した。彼は、深更にあったことは覚えていない。
 容疑者ことトンマンも、それはわかっていたので、深更にあったことを言うつもりはなかった。ただ、このまま家事に行かせたくなくて、トンマンは遠慮がちに呟いた。――まるで、幼子のような我が儘を。

「もう少しだけ……傍にいてくれ」
「……わかった」

 しかし、それはピダムにとっては待ち望んだお誘いだった。嬉しくなったピダムは、衣を掴む手に自分の手を絡ませて、重くないよう気をつけながら、臥せるトンマンに覆い被さった。
 そのまま、黒髪に、うなじにと唇で触れていくと、手が離れないよう気をつけながら、トンマンが身体を捻って後ろを見た。……どちらからともなく唇が重なったのは、それから間もなくのこと。

「もう少し、朝寝をしましょうか……?」

 たっぷりと溢れ落ちそうな口づけを終えたピダムは、トンマンから誘われたことが嬉しくて仕方がないらしく、隠しきれないくらい口の端を弛ませながらも、精一杯艶やかに囁いた。

「……」

 が、うきうきし始めたピダムとは対照的に、トンマンの反応は鈍かった。あれから眠れなかったせいか、瞼が少々腫れぼったそうにも見える。
 トンマンが行動を起こしたのは、そのことにピダムが気がつく前だった。

「トンマン……」
「……ピダム」

 トンマンは仰向けになってピダムを抱き寄せると、滑らかな黒髪を撫でながらぽつぽつ囁いた。

「朝寝はしたいけど……寝乱れたくはないな。……いい?」
「……はい」

 ピダムはあまり良くなかったが、トンマンに抱き寄せられている以上、強くは言えない。少しだけ不貞腐れたまま撫でられるままになっていると、トンマンが何やら呟いた。

「え? なんですか?」
「だから……」

 紅く染まった顔を見られたくないのか、起き上がろうとするピダムを力一杯抱きしめて、トンマンは蚊の鳴くような声で囁き直す。

「あんまり朝寝をしたら、また眠くなるだろう……? 出来るだけ長くお前を見ていたいのに、眠くなったら……困るじゃないか」

 だから、今はこうしていようと言われてしまっては、逆らう術もない。何より、彼を抱く腕が、むしろ彼にすがるように離さないのだから、ピダムも観念するしかなかった。

「わかりました。……でも、口づけだけは許してください。でないと、大人しくしていられそうにありません」
「……」

 と言いつつ、顔が見えないとピダムも図々しくなりやすいのか、唇をほとんど肌に触れんばかりに近づかせて、ちゃっかり脅し混じりのおねだりも欠かさない。脅し混じりと言うところがなんともピダムらしくもあり、また、困ったところでもある。

「……許す」
「光栄です、陛下」

 自然と女王さながらに応じると、ピダムも小気味良くそれに応じてみせて、言葉通りにトンマンの溜め息を奪った。
 それ以上は許されないとわかっているからか、ピダムは今度は幾度も互いの吐息を混ぜながら唇を重ねて、いつの間にか上に下にと転がっていた。しつこい、とトンマンが起き上がっても、大してこたえた様子もなく、むしろがっちりと腕の檻を固めて、離そうとしない。

「いいって仰ったくせに」
「度が過ぎる!」
「でも、度が過ぎたら駄目だとは仰いませんでした」
「もうっ……」

 怒ってみせても、トンマンもまた、このじゃれ合いが愉しいので、本気で逃げようとはしない。はっきりとした陽の光が射し込むまではと、睦み合おうと決めていた。

「なぁ、ピダム……」
「はい?」
「もし徐羅伐にいた頃に、お前と深い仲になっていても……こんな風になれたのかな?」
「はい……?」
「王宮にいたら、こうやって朝寝なんか出来なかったんじゃないか?」
「はあ……まあ、そうでしょうね」

 トンマンが何を言いたいのかわからないままピダムが応じていると、やけににこにこ微笑むトンマンが言葉をついだ。

「そう思うと、あの頃は深い仲にならなくて良かった」
「……そうですか?」
「だって、せっかく閨を共にしても、こんな風な朝寝が出来ないんじゃ、淋しいぞ」
「それはそうかもしれませんが……朝寝は出来なくても、共寝が出来れば十分ですよ、私は」
「そうか?」

 賛成しかねると言った風にトンマンが唇を尖らせても、ピダムは意見を曲げなかった。

「じゃあ、朝寝だけ出来れば、それでいいんですか?……私が欲しくはならない?」
「――」

 突然口調が変えて突きつけられた問いにトンマンが紅くなると、ピダムはその紅い頬に気づかぬふりをして、さらにトンマンを追い詰めた。

「私はトンマンの肌に触れられないくらいなら、朝寝は出来なくてもいい。……トンマンは違うの?」

 そう言われては、違うとは言えないし、言いたくもない。

(そもそも、私はどちらかを選ぼうと言ったわけじゃないのに……)

 巧みに話題をすり替えたピダムに些かムッとしたトンマンは、また近づいてきた唇を指で塞いで、ピダムを睨んだ。

「じゃあ、お前はこうして私と話したいとは思わないんだな? 私の心を知るより、肌を知りたいんだろう?」
「そう言うわけじゃありません」
「私もそうだ。私が言いたいのは、朝寝が大事だってことじゃない」

 そこでトンマンは起き上がると、座り直してピダムを見つめた。つられてピダムも居住まいを正す。

「私が言いたいのは……今だから、身も心も開いて互いに接しているんじゃないかと言うことだ」
「……?」
「もし、私が王で、お前が上大等でいたら、こんな話をしている暇なんかなかったかもしれない。違うか?」
「そう……ですね」
「だから思うんだ。今、たっぷり時間があって、その時間をお前と二人で過ごせて、朝寝を許されるなんて……」

 ――これで良いのだろうかと思うくらい……今日死んでしまっても構わないくらい、幸せなことだと。

「……」

 次の瞬間、ピダムはトンマンが声に出さなかった意まで汲み取る前にその唇に触れていた。……言葉の奥に隠された戸惑いを、優しく吸い取るように。



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  1. 2012.05.02(水) _23:00:00
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:4
  4. [ edit ]

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comment

緋翠様へ

  1. 2012/05/02(水) 23:42:06 
  2. URL 
  3. テヤン 
  4. [ 編集 ] 
こんばんは~(^o^)/
お久しぶりです。
ああっ、隠居連載やっぱり凄い良いですね♪
読み終わった瞬間、いえ読んでいる最中から心がほわっとなって…
(例えるならマッチの火くらいの小さな焔が心の中に灯るって感じでしょうか)
何時にも増して仲良しなトンピの様子に頬が弛みっぱなしな私(笑)
濃厚な触れ合いではないのに、心も身体も(たぶん魂も)凄い近くにある感じが溜まりません。
寝る前にもう一度読んでから寝ようと思います。
そしたらきっと幸せな夢が見られそうです。
素敵なお話ありがとうございましたm(__)m


緋翠さまへ

  1. 2012/05/03(木) 00:25:19 
  2. URL 
  3. あき 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さんこんばんは♪
拍手を打とうとしたら、どうしてもエラーになるので(最近調子良かったのにまたかーFC2!(笑))先にコメントを…vvコメントは大丈夫かな?

実は今、女王時代の朝寝の話(←ちょっと違う)を書いていて、眠くなったのでコーヒー入れて、子供に隠しておいたロールケーキを食べながら←この時間帯に…ヤバいですね(笑) そろそろ緋翠さんの新作が上がるのでは?と覗いてみたら、『ビンゴ!』でしたV(^-^)V

隠居シリーズは、ゆっくりできる休日前の夜にぴったりですね~vほんわかします。自分の気持ちをこうしてピダムに正直に伝えるトンマンに、『そうそう』と相槌を打ってしまいます。

行為そのものよりもただ触れ合っている事への安心感は、男性には…というかピダムには分かり難いのでしょうが、トンマンも供寝より朝寝を優先する為に、元女王特権を行使していて、萌えます(*^o^*)

今は対等でも、ベースは女王と臣下という設定は、やっぱり外せないなーと思いますv

そして、百万打おめでとうございます(^∀^)ノ
アンケート、衣装選びにママさん選びにスッゴく悩んでいます!もう少し熟考して回答しまーす!!

テヤン様へ

  1. 2012/05/04(金) 20:28:46 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
テヤン様、お久し振りです、こんばんは~v

隠居連載、私も書いててほわっとした気持ちになります(*´∇`*)(テヤン様の喩え、ありますあります!ちょっと疲れている時に書いて癒されたくなると言うか…)
特に今回は、一応前回のピダムの続きと言うことでトンマンの気持ちにスポットを当ててはいるんですけど、本当にいつにも増してトン&ピが仲良しで、なんか私もデレデレしながら書いていた気がします(笑)

> 濃厚な触れ合いではないのに、心も身体も(たぶん魂も)凄い近くにある感じが溜まりません。

確かに…!こう言う時の方がお互いをよく見れるからでしょうか(・∀・)

> 寝る前にもう一度読んでから寝ようと思います。

ありがとうございます~!嬉しいですvv
私も昨日、テヤン様のコメントを読んで、幸せに寝れました!(笑)

あき様へ

  1. 2012/05/04(金) 23:59:33 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
あきさん、こんばんは~vヨウォンさんの案外筋肉質なセクシー背を磨こうと糠袋にオイルに美容液まで持参したのに、黒い人に全部奪われた緋翠ですw

拍手の不具合はほんとに多いですね(;´Д`) FC2さんが大人気なのは嬉しいですが、拍手が出来なかったり、管理画面がうまくいかないのは困ります…!
でも、そのおかげであきさんからコメントを頂けたので、FC2に感謝してたりしますw

> 実は今、女王時代の朝寝の話(←ちょっと違う)を書いていて、眠くなったのでコーヒー入れて、子供に隠しておいたロールケーキを食べながら←この時間帯に…ヤバいですね(笑) そろそろ緋翠さんの新作が上がるのでは?と覗いてみたら、『ビンゴ!』でしたV(^-^)V

おおお…!なんというタイミングの良さvそして、お子様からロールケーキを隠し通すあきさん凄いです!私は帰宅したらまず冷蔵庫を見る食い意地の張った子供だったので、なんというか、感動が…(←意味不明w)
何より、あきさんの休憩時間に一息つけるような内容のSSを更新出来て、良かったですv このシリーズ自体が「癒し」が目的なので、今回はいい時に更新出来たなーと自画自賛してます(笑)

> 行為そのものよりもただ触れ合っている事への安心感

トンマンとピダムは、ドラマでも、大事なところでは触れ合ってお互いの心を癒していたので、その辺をイメージしましたー。ピダムはそのことがどれだけ大事なのか、あんまりわかってないと言うか、もっとハッキリした形を求める印象があるんですが、今回みたいなトンマンの教育を経てw、いいパパになってもらえればなーと思います(笑)
トンマンにも、これからも元女王特権を全力で行使して頂きつつ(爆)、主従だった時間を含めたこの二人特有の関係性を含めたお話を書いていきたいですv

そしてそして、お祝いをありがとうございます~!!
アンケートも真剣に考えて頂けて嬉しいです(*´Д`) 変な質問がいくつかありますしw、のんびりお考えになってくださいませvv
最後に、女王時代の朝寝の話、めっちゃ楽しみにお待ちしてます~!!(*´∇`*)


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