善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS その眼差しを知っているから・前編 ※微修正

ちっちき様に頂いたリクエスト「57話のトンマン告白シーンから霊廟シーンまでのトンマンの感情」と言うことで、視聴者の最大の不満である(笑)、「ぶっちゃけトンマンの気持ちの移り変わりがさっぱりわからん」に踏み込んでみました。
57トンマンの告白6
この後パスワード付きの後編があり、さらにとよ様リクエストの「58話の国婚発覚から寝室シーンまでのピダムの心情」で、トンマンの気持ちについて書けたらなあと思います。パスワード付きの後編に関しては大変申し訳ないのですが、ユシンとの初恋の時とは違って、ドラマの中のトンマンとピダムは多分パスワードが必要なとこまでいってると思うって言うかそう言う雰囲気満載なので(笑)、そんな感じで書くことにしました。
一応、前編だけでも話として区切りはついているので、このお話だけでも大丈夫だとは思います。

頂いたコメントへのお返事や本日の善徳女王の感想は次の記事にて!

●書き途中の話メモ→トンマン家出。アルチョン恋話。リレー。後編。迷宮。
(……あれこれ書き散らし過ぎですね。汗)


***

 いつからだろう。
 振り返ると、必ず目が合うようになったのは。……にも拘わらず、いざ目が合うと、困ったように視線を逸らされることが多くなったのは。
 そしてその一方で、感じる眼差しが少しずつ強く、激しいものに変わっていったのは――。



 また、同じ眼差しを感じた。考えるまでもなく、ピダムの眼差しだと躯が知っていた。

「それが私にとってどれほどに辛いことか、お前にわかるか……?」

 女王になってから初めて、心の中に積もっていた孤独を吐露した。孤独を受け入れ続けなければならない苦しさを、漏らした。
 泣くつもりはなかったが、枯れ果てた川に雨が降ったように心が緩んで涙が流れた。若い頃のような嗚咽はない。ただ、ピダムの眼差しを感じながら、心を覆っている荊の鎧を脱ぎたくなった。長年に渡って彼女の冷ややかな眼差しを受けても尚、「愛しています」と言ってくれた男に、嘘偽りない言葉で答えたかった。躯の奥で潰れかけていた心を、愛を与え続けてくれる男に渡してやりたかった。彼の誠意を、踏みにじりたくはなかった。

「私がどれほどお前を信じたいと思っているか……お前に、頼りたいと思っているか……お前はわかるか……?」

 振り返ったトンマンは、痛ましげに彼女を見詰める眼差しから逃げなかった。逃げたくなかった。
 ふと、トンマンは自らの筋張った肉のない手に温かな感触を覚えて、視線を落とした。漆黒の袖が、金色の光を放つ袖をくるんでいた。

「……お風邪を召してしまわれます」

 涙の止まらないトンマンの手を包み込むように掴んでいたピダムは、やっとトンマンの涙が止まった時、消え入りそうな声で呟いた。
 ずっと繋がれた手を見詰めたまま黙って泣いていたトンマンは、その声を聞いてゆっくりと顔を上げた。……ピダムの眼差しは、変わっていなかった。彼の求めるものは、何一つとして変わっていなかった。
 またトンマンは視線を落とした。その拍子に止まりかけていた涙が溢れて、ピダムの手に落ちた。ピダムは手を繋いだまま、まるで尊いものに触れるかのようにその雫に口づけ、飲み込んだ。
 トンマンは、静かにその姿を見詰めていた。湧き上がる感情は、決して甘美なものではなかった。むしろ、倦厭すべきものだった。けれど、ずっと……ずっと、望んでいたものでもあった。忘れようと努めても決して忘れることの出来ない、大切なものだった。

「……陛下」

 再び顔を上げると、ピダムは泣き出しそうに微笑んだ。その顔は、初めて彼女に心情をぶつけた時とよく似ていた。
 あの時、公主様にとって必要のない人間になってしまったら……と。そう囁いた男は、同じ唇でさらにトンマンの心を抉った。

「私にとって必要なのは……陛下、あなただけです」

 他には何もいらない。地位も名誉も、命も、幸福も。欲しいのは、必要なのは、あなただけだと囁く眼差しがどれほどに残酷か、彼はわかっているのだろうか。女王たるトンマンを欲すると言うことが、神国を敵に回すことなのだと言うことを、わかっているのだろうか。

『王を相手にしたって、跪いてはみせるけど、怖がったりしない』

 初めて会った頃、王もミシルも怖くない、怖いものなど何もないと笑った青年は、とっくに消えたと思っていた。ミシルだけでなくトンマンにまで謀られて命を落としそうになったあの時、青年は怖れを知ったと思っていた。
 けれども、青年の心は変わってはいなかったのだ。用心深い明晰な頭脳とは裏腹に、心は怖いもの知らずで、屈することを、諦めることを知らないまま。……子供のように無邪気で、未来のことなど考えられないまま。
 トンマンはふっと笑うと、ピダムの手から自分の手を取り戻した。それにピダムは切なそうに眉を歪めたが、トンマンが彼に背を向けてまた池を見始めた以上、この場に留まるわけにもいかなかった。播遷のことも、絶望的と言っていいだろう。
 だが不思議と、心は軽くなっていた。
 変わってしまった――そう思い続けていた人の心が変わらぬままでいたことがわかって、少しだけ安堵してもいた。嫌われ、厭われていたわけではないと知れただけでも、嬉しかった。
 その時、ふいにトンマンが彼を呼んだ。

「ピダム」
「はい」
「……近頃、また考えるのだ。このような時……璽主なら…………」

 トンマンはそれ以上は何も言わなかった。璽主なら、一体『何』をどうしようとしていたと言うのか、肝心なところをトンマンは口にしなかった。ただ、無言の命令に従ってトンマンから離れたピダムの足は、一度だけ振り返ってトンマンを見詰めたきり、自然と璽主ミシルの霊廟へと向かっていた。……母の霊廟へ立ち入るのは、久方振りのことだった。


 一人残ったトンマンは、選択を迫られていた。もう、奔流のように走り出した心の決着をつけないことには、先に進めそうもなかった。
 ピダムの心はわかった。彼の持ち札は全て彼女の前に示された。
 ――では、自身の持ち札は?
 考えた時、一つの札が浮かび上がった。これまで幾度となく目にはしてきたけれども、絶対に手にしようとはしなかった札。得るものの大きさは確かな一方で、僅かな間違いが地獄の苦しみへと直結している、魅力的な札。
 トンマンはその札に手を伸ばした。しかしその札を手にする勇気はやはり起きなかった。
 その札を手にした時、トンマンは自分が真興王と同じ道を辿ることになるとわかっていた。……いや、真興王よりもさらに残虐な道かもしれない。――その札を手にした時、トンマンはピダムを抱くと同時に、彼の心臓に刃を突き立てることになるのだから。

「……ピダム……」

 もし、先刻の会話でピダムが彼女のことを諦めていれば、トンマンはその札を取り出したりはしなかっただろう。だがピダムは諦めなかった。ユシンのように、自分を必要とする勢力の思惑やトンマンの想いに沿うことも選ばなかった。ピダムが求めているのは、ただトンマンだけ。他のものには見向きもしない。
 胸の痛みが、また少し強くなった。トンマンは息を吸ってそれを誤魔化すと、恐る恐る足を踏み出した。
 ――今夜はアルチョンもいない。ユシンは戦場で命を削って戦っている。チュンチュは……。
 脳裏を過る面々は、皆トンマンを咎めるような顔をしていた。踏み出す足が踏んでいるのは石畳ではなく、荊の道にも感じられた。
 それでもトンマンは、選び取った札を手に前へ進んだ。欲しいものが何なのか、それはわからなかった。しかし必要なのはただ一人、ピダムだけだった。彼の何を求めているのかはわからない。ただピダムが必要だった。彼の眼差しが、手が、言葉が必要だった。……彼だけが与えることの出来る安らぎが、必要だった。『トンマン』と言うちっぽけな人間が、あと少しで良いから神国の王として責務を全うする為に、ピダムだけが与えることの出来る安らぎと、その力が必要だった。
 ……ただ、それを『愛』と呼ぶには、その想いはあまりに利己的だった。
 よく働く頭はピダムを抱くことによって得られる利を瞬時に弾き出して、トンマンの足に鎖をかけた。かつてユシンを受け入れなかったように、ピダムも受け入れるべきではないのかもしれない――その思いが、その鎖を鉛のように重くしている。
 全身全霊で神国を愛してきた。なのにその愛情が揺らいでいる。必要なのはピダムの握る力と彼に従う兵だけ、ピダムを抱くのは彼が裏切らないようにする為……それこそが女王に求められていることだとわかっているのに、どうしてこんなに胸が苦しいのか。ピダムを抱いて、安らぎを得る……それだけのことが、何故こんなにも躊躇われるのか。
 ピダムは欲しいのは彼女だけだと言った。だから、与えるだけだ。与えて、必要なものを貰い受けるのだ。
 トンマンは強く唇を噛んでミシルの霊廟へと入った。



 霊廟に足を踏み入れても、始め、ピダムはそれがトンマンだとは思わなかったらしく、珍しく反応が鈍かった。

「陛下」

 慌てたように立ち上がって退いたピダムをトンマンはじっと見詰めた。ピダムは顔を上げなかった。……考えてみれば、自らピダムを探しに来たのもあの時以来だった。ミシルが死んだあの日以来、初めて……ピダムを抱こうとしている。
 あの時は、ただピダムへの友情と、溢れる想いに突き動かされて彼を抱きしめた。
 ――なのに、今は……本当にただピダムが必要だから、ピダムを失うわけにはいかないから……神国を守る為に必要だから、彼を抱こうとしているのだろうか。今にも涙が溢れてしまいそうなのは、心が張り裂けてしまいそうなのは、何故なのだろうか。
 その問いの答えに至る前に、トンマンは言葉を紡ぎ出した。込み上げる全ての感情に蓋をするように、強く、抑揚に欠けた口調で。

「――お前が必要だ」

 ……よく知っている眼差しが、また彼女を捕らえた。そのひたむきな眼差しに貫かれ、トンマンは語った。――彼を抱く為の、言葉を。


****
連載では違う設定にしていますが、57話の霊廟のシーンの後、絶対に何かあったと言うか…まあ次がいきなり朝になっていることからして、やることやったよね、あれは…と確信している管理人(笑) なので、そんな感じの切ない後編もこのまま書きたかったのですが、そうするとパスワード記事になるのでここで切りますー。
あ、この文だと、トンマンが果たしてピダムを本当に愛していたのか、それとも愛してはいなかったのかわかりづらいですが、一応前者のつもりで書きました。60話の指輪を渡してピダムを逃がそうとするトンマンは、本当にピダムを愛してるなあと感じさせてくれたので…。
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  1. 2010.07.22(木) _20:09:31
  2. SS(ドラマ準拠)
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