善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき』~砂漠編~ by saki

リレー小説、第40話です!今回はsakiさんのターンで、前回に引き続き、砂漠編をお送りしますvv

※ご感想は、拍手からではなく、↓にあるコメント欄にお願い致します。


* *


風が吹く。オアシスの街に。砂漠の地に似合わぬ湿り気を帯びた風。ザズは月明かりの下、空を見上げた。嫌な風だった。酒樽を乗せた押し車を押しながら同じ様にピダムが空を見上げている。言い知れぬ不安を感じたのは己だけではないらしい。

「・・・誰か来るぞ。」

ふと、その視線が前に向けられた。目と耳を凝らせば確かに風に乗るような軽快な足音が聞こえて来る。その足音には覚えがあった。

「アルだな。向こうから来るって事は・・・あいつ旅閣にいたのか?餓鬼はとっくに寝てる時間だろうが。姉貴に絞られるぞ。」

闇の中、高く低く、足音の位置が変わるのはあの弟特有の移動方法の為だろう。一際高く軽く跳ねる様な音がしたかと思えば目の前に人型の闇が降ってきた。

「・・・言伝。」

けれど驚きはしない。予想通り、それがアルであったからだ。

「言伝?親父からか?」

ザズの問いにアルはこくん、と頷く。何だ?酒が待てなくなっての催促かとザズは首を捻る。

「酒が遅いって文句なら聞かないからな。あと、半時くらい待てるだろ?」
「・・・違う、と思う。」
「思うってなんだ?」
「・・・。」

黙ったかと思えばアサドに言われたことを反芻していたらしい。何度か首を傾げてからぽつりと口を開いた。

「・・・目?」
「いや、疑問で返されても俺が困る。」
「なあ、言ってたのは酒の事だけか?」
「・・・ん。・・・布団に入れ。」
「それはお前にだな。けど・・・なぁ、ピダム?」
「あぁ。酒の催促ってだけじゃないだろうな。」

ピダムと2人、顔を見合わせる。たかが一刻程度の時間待てぬはずがない。何かあったと考えるべきだろう。しかも言伝た相手がアサドだ。仮に倍の時間かかったとしても『待ちくたびれた』と笑って済ますだろう。それが真実危急を求めないものであるかぎり。

「わかった。言伝、ありがとうな。アル。できるだけ急いで戻るさ。だからお前も・・・。」

アルの頭をくしゃりと撫で、早いとこ寝ちまえ、と続けようとしたザズの耳に遠く高く警鐘の鐘が響き渡るのが聞こえた。街の物見櫓から聞こえるそれは主に外敵や災害等の有事の際に鳴らされるものだ。考える前に風に混じる火の気配に気付く。

「ピダム!」
「先に行く!」

ザズは視線を跳ね上げる。先程の嫌な感覚。今日あった領主との事件が重なった。それはピダムも同様であったらしい。ザズの言わんとする事を理解してすぐさま彼は行動に移った。
駆け出す少年の向かう先、通りの家の屋根が重なる向こう側、空に満天の星々が煌めくその一角に、数刻前に終わった夕闇が再び舞い戻っていた。
風は南々東。アサドやトンマン、ソファたちのいる旅閣の方から吹いている。次第に強まる風にザズは眉を寄せた。下手をすれば広範囲に飛び火するかもしれない。

「アル。兄貴たちに酒の回収頼んどいてくれ。」
「・・・盗られる、かも。」
「火事場泥棒が出たら後でしっかり取っ捕まえるから心配すんな。な?頼んだぜ、アル。」

もう一度アルと目線を合わせザズはそう言うと自分もまたピダムと同じように駆け出していく。彼の脳裏にあるのは早く戻れと言ってきた父親の事。
彼も自分たちと同じように何かを感じたのか。それとももっと具体的な何かがあったのかと。ザズはその具体的な何かがあの夜空を染める朱と関係が無いことを祈った。けれど原因が彼らのいる旅閣からであるとも確かにいえない今は、まだ何も言えないのだ。
しかしどちらにしろ、このオアシスで起こる厄介事に自警団員である自分たちが向かわないなどという事はない。今夜の宴で酔い潰れている仲間たちも今頃は警鐘の音に飛び起きているに違いない。先に行かせたピダムは今どの辺りだろうか?暗がりの中、警鐘の鐘に外に窺い出てきた街人たちの間を走り抜きながら、しかしそれでも嫌な予感に揺れる己が心をザズは押し潰すのだった。

一方、アルは数度の瞬きの後に走り去るザズと荷車の酒樽を交互に見遣ってから、その辺りに転がっていた小石をおもむろに拾い上げた。そしてガリガリと地面に何やら書き付けると満足したようにひとつ頷いてザズたちとは反対側に走り去る。地面には大きくただ一言。父親であるアサドの名が独特な曲がり具合で書き残されていた。

+++

今は歩くのさえも困難な母親をどうにか連れ出した駱駝の背に乗せてトンマンは朱く染まる夜空から、いや、その下にいる何故か変わってしまった男から少しでも遠くへと逃げるように急いでいた。いや、事実、逃げているのだ。思わぬソファの反撃に気を失ってはいたようだが、出会ってから初めて向けられたあの温度の感じられない冷えた目が恐ろしかった。絡げるようなあしどりで駱駝の手綱を執り取る物も取らず、ソファが力無く抱き抱えている包みだけが唯一の荷であった。
しかし向かう先はまだ街の外、砂漠ではない。真っ直ぐに伸びる目の前の道。その先からこちらに向かっているはずの人。旅閣からあがる火に気付いた街人の誰かが音高く警鐘を打ち鳴らすのが聞こえる。まるで覚えのない罪科をあがなえと詰め寄られているようで恐ろしさを覚えた。鐘の音に何事かと起き出した街人たちの波に逆らい道半ばまで歩き続けて。

「トンマン!母さん!!よかった、無事だな!?」
「『無事だな!?』じゃない!!兄さんの馬鹿!なんで肝心な時に限ってばっかしいないのさ!?」

望んだ呼び声と姿。兄の姿を見つけて堰が緩んだ。朱に染まる夜空も警鐘の鐘もこの時ばかりは耳に入らない。駱駝の手綱を放しトンマンは食ってかかるように兄に詰め寄った。

「うわっ!おい。待て!ということはやっぱり、あれ、家の宿から出てるのか!?」
「そうだよ!!急におじさんは恐くなるし!母さんだってあの通りだし・・・って、そうだ。母さん!」

旅閣でチルスクと相対したときとは嘘のように力無く駱駝の背で焦点の合わぬ瞳をしていたソファ。ピダムをその視界に納めた一瞬、何か恐ろしい影を見たかのように僅かに強張るが夜闇と人波に紛れ2人はその事に気づかなかった。もし気付いていたならばチルスクによって落とされた『兄』という疑念の種がこの時より深く彼女の胸に根付いていただろうに違いない。

「母さん!大丈夫か!?どこか怪我したのか!?」
「・・・ピダム?あぁ、ピダム。ピダムね。大丈夫。私は大丈夫よ。」
「街から出るってきかないんだ。宿やおじさんの事もあるし・・・・・もう、あたし訳分かんないよ。」
「『街を出る』って・・・母さん?」

旅閣の火事も周囲の人波も、警鐘の鐘の音、次第に強まる風さえからも閉ざされた空間。ぽっかりと3人を中心に空白ができたようであった。もちろん現実にそうであるはずは無い。今も周りには街人たちが風向きと火の勢いに眉を寄せ合い、鐘の音に不安を沸き上がらせている。そして、この時に次にどうするかの判断を下したのはトンマンではなく母親の表情を注視していたピダムだった。

「・・・トンマン。」
「何、兄さん?」
「俺が使ってる東の岩窟、分かるな?」
「う、うん。兄さんが仕事さぼって昼寝してたりするとこでしょ。」
「そこ、母さん連れて先に行ってろ。焚火の側の石を退かせば金も少し埋めてある。」
「・・・兄さんは?」
「家を放って置けないだろ。カターンや他の客だっている。まあ、アサドのおっさんがいるから心配ないだろうが。それに母さんの言う通りに街を出るにしても先立つもんがいるだろ?」

それは旅閣に戻る、ということだ。トンマンは言うだけ言って駆け出そうとする兄を引き止めようと手を伸ばすが、その足を止めたのはソファの金切り声に近い叫び声だった。

「駄目!駄目よ、ピダム!!」
「大丈夫さ。やばいと思ったら引き返す。トンマン、母さんを頼んだ。」
「でも・・・・・ううん。わかった、兄さん。」

確かにピダムの言う通り先立つものは必要だった。持ち出せた物がソファが持つ荷だけであったのは辛い。しかも金銭に換えられる物であるのかも不明であったので。ピダムの腕を捕まえようと駱駝の背から身を乗り出すソファをなんとか落ちないようにと支えつつトンマンは再び駈け出す兄の背を見送った。



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  1. 2012.04.08(日) _00:54:04
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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