善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS いずれの坂

51話を見ていて思いついたSSです。トンマンとピダムは出てきますが、特にラブなわけではなく(笑)、ドラマの補完的なSSですので、ご注意くださいv


* *


 先王の崩御の後、玉座は一時の空白を得る。そして、国中が喪に服し、清浄なる白の世界に閉ざされる中、宮廷は次なる王の誕生に向けて、様々な思惑が飛び交う。真平王の崩御の後もまた、それは変わらなかった。

「何かと繁多だろうに、任せきりにして、すまぬ……。されど、父上もきっとお喜びになるであろう」
「はい」

 その日、真平王の御陵に納める品々の目録を持って母后マヤの宮に赴いたトンマンは、涙をたっぷりと瞳に湛えながら目録に目を通すマヤを、遠慮がちに見つめた。
 ――今では、親と呼べるのは、この皇后様だけ……。
 けれど、溢れんばかりの愛情を注いでくれる実母に、何故かトンマンは馴染めなかった。真平王のことは確かに父だと思い、幾ばくかは心をさらけ出すことも出来たのに、マヤにはどうしても遠慮が生じた。それは、マヤもまた、出産するやいなや我が子を奪われた被害者であったからかもしれないし、トンマンにとっては父の座は空位でも、母の座はすでにソファが占めていたことも大きいかもしれない。

「馬具も入っておるな」
「はい。お好きであったと伺いましたので……」
「そうだ。お若い頃、お前の父上は馬を駆って山野を巡るのがお好きで……狩りも良く嗜まれた。ウルチェ大等に危ないと叱られても、こっそり宮を脱け出されて……よく、ソファが代わりに怒られていたものだ」
「……」

 マヤの語る昔話は、トンマンの知るソファや真平王の姿とはまるで別人だった。トンマンが知っているのは、深い苦悩に包まれ、傷を負った二人で、到底奔放さなど望むべくもなく……。
 ややあって、マヤは目録から顔を上げると、涙混じりの微笑を満面に咲かせた。

「これで良い。陛下の御陵に相応しい」
「ありがとうございます」
「あとは、わたくしが監督しよう。これが最後の仕事と思い、務める」
「え……?」
「いや……これが、亡き陛下にして差し上げられる、最後の務めゆえ」

 誤魔化すようにマヤは目録を畳むと、トンマンに昼餉の有無を訊ねた。崩御以来、少し痩せたのが気掛かりらしい。
 しかし、トンマンはその申し出は丁重に断って、代わりに話があると切り出した。

「改まっての話とは……何かあったのか?」
「いいえ。実は……一つ、お許し頂きたいことがあるのです。――入れ」

 トンマンが僅かに声を高めるや、戸が開いて、一人の花郎が入室し、その場に跪いた。

「話とは、この者のことです。……この者を、覚えておいでですか」
「勿論だ。ミシルがお前に矢を射た後、武平殿の兵を蹴散らした者ではないか」

 マヤの言う通り、そこにいるのは公開尋問の場にフンミョン団を率いて救出に駆けつけ、その任を果たしたピダムだった。

「左様です。……皇后様に、ご挨拶を」
「はっ。無名之徒の花郎ピダム、皇后様にご挨拶申し上げます」
「うむ。トンマン、この者がいかがしたのだ? この者は功臣の一人であろう。国仙の後継者とも聞いている。取り立ててやるのが良いのではないか」
「はい。ですが……私は、このピダム郎に本来の身分を取り戻させたいのです」
「本来の身分とは、どう言う意味なのだ」

 そこでピダムは立ち上がると、王室の書庫から持参した国史をマヤの前に置いて、その項を開いた。そこに記された一文を、細い指が指し示した。

「ここに、一つ記録があります。「建福一年七月七日に、真智王とミシルの間に子が産まれた。彼の名はヒョンジョンである」と。……このヒョンジョン殿君がどうなったか、ご存知ですか?」
「いや。そなたも知っているだろうが、わたくしは真智王の廃位の日にミシルの手の者に拐われ、国仙に助けられてから、長らく身を隠していた。それゆえ、この赤子のことも良く知らぬのだ」
「……もしこの赤子が生きていたとすれば、身分は真骨でしたか?」
「勿論だ。廃位されたとは言え、王の息子であることに変わりはない。同じ真智王の子であるヨンチュン公も真骨ではないか」
「……では、ここにいるピダム郎がこのヒョンジョン殿君だと申し上げたら、ピダム郎の身分は真骨であるとお認めくださいますか」
「何と……?」

 マヤは双眸を丸くしてトンマンを見た。が、トンマンの真摯な瞳にかち合い、それが嘘でも酔狂でもないと知らされ、狼狽するしかない。

「では、この者は、ミシルの子なのか」
「はい。このピダム郎こそが、真智王が廃位された日にミシルが棄て、ムンノ公が育てたヒョンジョン殿君なのです。この者の功に報いるべく、真骨の身分を回復することをお許し頂けませんか?」

 一旦、真骨の身分を失った者が再びその身分を得るには、王室の長たる者に承認されるのが新羅の慣習だ。つまり、今ピダムの身分を取り戻すには、トンマンの即位と共に太后となるマヤの承認が必要だった。
 しかし、マヤは事態を理解するや、顔を青褪めさせて、ピダムに退出を命じた。

「母上……!」
「トンマン、何故ミシルの子を側近くに置いたのだ。ミシルの一族を処刑せぬ上、ミシルの子を真骨に取り立てるなど……!」
「ピダムはミシルの子ではありますが、私の腹心です。功に報いねばなりません」
「いいえ……いいえ、それだけはならぬ」

 トンマンがいくら口説いても、マヤは折れなかった。その理由がはきとせずトンマンは焦れたが、マヤは決してその理由を明かさなかった。――マヤが案じているのは、真骨ともなれば、王との婚姻、あるいは色供の臣となる可能性が高くなることだからだ。下手にそのことを口にして、トンマンが意識するようになれば、逆効果と言うことも有り得る。それだけは避けねばならない。
 結局、マヤはミシル一族を処刑しないと決めた時より強固に反対し続け、トンマンは引き下がるより他はなかった。



 予期せぬマヤの拒否に唇を噛んで退出したトンマンは、執務室でピダムと二人きりになると、丸椅子に座ってピダムにも着席を促した。執務室までの道のりで落ち着きは取り戻したのか、不愉快そうではあったが、苛立っている様子は見えない。
 対するピダムは、マヤの態度がほぼ予想通りだったこともあってか、憤るでもなく、ただ少しばかり居心地が悪そうに座った。

「母上……皇后様は、六頭品ならば許すが、真骨とは認めぬと仰せになった」
「……はい」
「だが、私はそれでは困る。皇后様が反対しようと、お前の身分を回復させるつもりだ。六頭品では、司量部令に任命出来ない」
「……」

 令、つまり各部の長官は、真骨のみが就任出来る。マヤの反対の一因も、真骨になれば、宮廷の一角を占めることが可能であることにもあった。
 息巻くトンマンに対して、しかし、ピダムはいやに冷静だった。言うまでもなく、彼とて即位後のトンマンの側にいる為にも、自分自身の生まれから言っても、真骨の身分は欲しい。だが、王室の長たるマヤに反対された以上、無理を通すのも躊躇われた。国仙がいて、皆の前で彼の生まれを明らかにしてくれたなら、マヤの反対は無視出来たが、トンマン一人のお墨付きでは、些か弱い。有無を言わせぬ理が欲しかった。

「即位まで時間がない。あとは、和白会議にかけるしかないが……」

 トンマンもそれは同じようで、頭を悩ませていた。和白会議はいずれは廃止すべきものと考えている以上、和白会議を政権運営に活用するのは望ましくなかったが、他に手立てがない。

「公主様。司量部を、司量府にして、長官を卿とすれば、六頭品でも……」
「いや、それは駄目だ。言っただろう? 司量部は王の直属機関であり、監察が任務だ。位階が低くては侮られる。お前が対峙するのは真骨なんだ」
「……はい」

 トンマンはあくまで司量部の任務上、真骨の身分を得る必要があると説いたが、実際には任務が一番の問題なわけではないことは、トンマンは口に出さなかった。ピダムもまた、それを口に出すべきかわからず、黙り込んだ。

「決めた」

 その瞬間、トンマンがぽつりと呟いた。

「はい」
「皇后様の承認が得られずとも、致し方ない。ソルォン公やミセン公ならば、お前をミシルの子と認めるだろうから、彼らを証人として、お前が真骨の身分を回復するよう皇命を下す」
「公主様……」

 まさか、己の為にトンマンがソルォンやミセンに助力を請うとは考えもしなかったピダムは、驚きと同時に、不安に襲われた。――こんなに面倒をかけては、トンマンに厭われるのではなかろうか。
 その、半ば恐怖に近い不安を振り切るように、ピダムは強い眼差しでトンマンを見つめた。

「公主様。その件は、私に預けて頂けませんか」
「預けるとは……」
「ソルォン公とミセン公をこれから御していかねばならないのは、私です。ですから、その手始めに、彼らに私の身分を回復する為の手助けをさせてみせます」

 思えば、それが政治家としてのピダムの第一歩だったかもしれない。元は兵部令と礼部令であった老獪な二人を相手に、剣で従わせるのではなく、有利に駆け引きを進める――そんなことを意識したのは、この時が初めてだったのだ。

「……」

 トンマンは、そんなピダムの双眸を、じっと見つめている。ミシルの一件が尾を引いているのかと、ピダムは焦燥に駆られて言葉を紡いだ。

「公主様、真心から申し上げます。決して、彼らの意に振り回されるような真似は致しません」
「……そうだな」

 トンマンからすれば、案じているのはピダムの誠意ではなく、ピダムの力量だった。果たして彼にどこまで政治的な交渉が可能なのか、ピダムの子供のような側面が印象深いトンマンには、どうにも読めないのだ。
 そうは言っても、ピダムがこれからソルォンやミセンらを相手取って司量部を率いていかねばならないのは事実だ。いちいちトンマンが代わりに交渉してはいられないし、そんなつもりもない。トンマンの政略の一つには、ミシル一族と直接接することなく、ピダムを間に介すことで、王の権威を一段上げることも含まれているのだから。
 ――任せてみるか。
 どちらにせよ、真智王もミシルもムンノもいない今、本当の意味での証人はいないのだ。ピダムがミシルの息子であり、殿君であることを宮廷中に認めさせるには、ピダム自身がその器と力量を見せ付けるしかない。……トンマンが、公主に復権する際に宮廷中を謀にかけたように。

「……ピダム」
「はい、公主様」
「しくじれば、お前の復権は難しい。身分を回復するのは、至難の業になるだろう。……それでも、お前一人でやるのか?」
「――」

 かつて、まだトンマンが公主ではなく、宙ぶらりんの身分だった頃に、ピダムは同じようなことを口にしていた。一人で徐羅伐に戻ると言うトンマンに、本気かと詰め寄り、正気じゃないと笑った。……今は、その立場が逆転したのだ。そしてトンマンは、あの時の彼よりもさらに強い想いで、彼の復権に力を尽くそうとしてくれている。
 ふと、ざわりとした熱風が背筋を嬲ったような感覚に襲われ、ピダムは自然と口の端を上げていた。ところがその笑みは、子供のようないつもの笑顔とは似ても似つかぬ、どこかその母に似た笑みだった。

「はい。公主様が成したことを、私も成してみせます」

 ――同じ道を辿り、同じ坂を駆け上り……いずれ、その横に立つ為に。

「司量部令の名に恥じぬよう、努めます」

 彼女が公主の地位に、女王の名に相応しい働きを示してきたように、今度は彼がその力を見せる刻が来た。

「……そうか。わかった。では、お前にこの件は任せる。……ただし、報告は欠かすな」
「はい」

 厳しく彼を見つめるトンマンも、それに肯いたピダムも、もはやかつての公主と花郎の貌ではなくなっていた。そこにいるのは、纏う衣は違えど、深謀遠慮の女王と、冷徹な司量部令でしかなかった。
 ――こうして、ユシンとも、アルチョンとも、チュンチュとも違う道を歩み始めた二人は、互いに互いの過去と未来を見出しながら、ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるように果てのない坂を行く旅人となった。




*****

以上、「ピダムの身分回復ってどうしたんだろう」と言う疑問から生まれたSSでした。
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  1. 2012.05.08(火) _01:00:00
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

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comment

緋翠さまへ

  1. 2012/05/10(木) 00:07:18 
  2. URL 
  3. あき 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さんこんばんは♪
GWは楽しめましたか?ヨウォンさんのお背中流しは叶いませんでしたか?私も2~3分は足止めしたんですが、あまりの殺気に怯んだ隙に黒い人は矢のように走り去ってしまって…(>_<)すみません!

カウンターの件もありがとうございました。旦那のパソ子で確認しました~vありましたありました!1日千件以上もアクセスされていたんですねー。さすがですvでも、私も多いときは1日10回位覗いた時がありました。昨年緋翠さんのブログに出会った頃。ちょっとの暇を見つけては記事を拝見していました~vそれでもまだ全部は読めていないと思います。←SSは制覇しましたが考察までは無理でした。今でもふと、過去記事覗きに行く事があります。

そして、これだけSSや考察を書かれていても、まだまだ創作の余地はあるんですね~。ピダムの身分回復、疑問に思う所ですよね。そもそも、真平王の葬儀からトンマン即位まで、ドラマではあっという間でしたが、実際には何ヶ月位経過したのか気になっていました。

このSSを読んで、埋葬品の準備だけでも大変だったろうなあ~と改めて思いました。墓陵はあらかじめ用意していても、葬儀の一連の行事も長くかかったろうし、即位の準備も数ヶ月かかりますよね?
そういえば、『善徳女王の真実』でも喪があけたのは三年目って書いてあったような気がします。

そして、ピダムの身分回復がトンマンの公主復権と重なる辺り、うんうんと納得しながら読みました。二人の繋がりの深さが感じられて素敵なお話でした。

あき様へ

  1. 2012/05/11(金) 23:35:08 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
あきさん、こんばんは~!(*´∀`*)お返事が遅くなってしまってすみません…!昨日はどうやら黒い人の報復か、飲み物に眠り薬が混入されていたらしく、9時には寝てしまっていました・゚・(ノД`;)・゚・←寝過ぎですねw
陛下(と、つい呼んでしまいますv)は惜しみなく下々の者にお背中を晒してくださるんですが、いざ近付こうと思うと、なんか黒い影に阻まれるんですよね!亡霊でしょうか。←

そして、カウンターのご確認も、わざわざありがとうございますー!!旦那様のパソコンに感謝しなければ!w
アクセス数の多さは、今でもビックリします…。特に更新もない日は、「やべぇえええ」と一人焦りますね…!
ついでに、私もあんまりたくさん書き過ぎて、過去に自分が何を書いたのか、忘れている部分もあります(爆) 特に一話一話の感想なんかは、テーマがあって書いたわけでもないので、「何書いたっけ? と言うか何話の感想を書いたんだっけ?」と首を傾げたくなりますねー(;´∀`)

> そして、これだけSSや考察を書かれていても、まだまだ創作の余地はあるんですね~。

そうなんですよねー!今は、100万記念に(リクエストではなく)ミシルの乱(ピダムが怪我をしていないバージョン)を書こうかとも考えていますし(予定は未定なんですがw)、余地があれこれあります。凄いですよね…!
即位までの期間は、三国史記でもだいたい一ヶ月くらいでウルチェが大臣に任命されていますし、ドラマでも「7日に即位式」みたいな台詞があった気がするので、一ヶ月だと想定しています……って、今wikiを見たら、「玉門池に蛙が集うのは女根谷を兵士が侵そう(犯そう)としていることだと解ったと答え、庚信や毗曇ら家臣をムラムラとさせた。」と書いてあるんですがwwww

埋葬品の準備の行は、日本と高句麗に殯と言う葬儀儀礼があるので、それを参考にしつつ書いてみました。新羅でも、歴代の王が、大概即位半年から一年前後に、「神宮を参拝した」と『三国史記』にあるので、この神宮参拝は、ひょっとしたら殯(もがり。陵建設や埋葬の準備期間?)の終了を示しているのではないかなと。「殯が明けて、神権が先王から今の王に移った」と言うアピールが神宮参拝だとすれば、感覚的にはしっくり来ますし。
ただ、『隋書』には確かに「殯は三年」と書かれていますが、それは日本と高句麗のところで書かれていることなので、新羅にも当てはまるかは謎ですねー。『善徳女王の真実』では、どっから喪が明けるのが三年目と断定したんでしょう…?

> そして、ピダムの身分回復がトンマンの公主復権と重なる辺り、うんうんと納得しながら読みました。二人の繋がりの深さが感じられて素敵なお話でした。

ありがとうございます~!公主復権と重なるあたりは、最初から予定していたのではなく、書いているうちに自然とそうなっていて、書きながらニヤニヤしました(笑)


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