善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

残暑お見舞い申し上げます。

……本っ当に、遅くなってすみませんでしたのリレー連載の続き、今回は私のターンです!(汗)
しかもめちゃめちゃ時間がかかった割には、内容的には大したことがない、と言う…orz

え、ええと、少しでも御楽しみ頂ければ幸いです…!!


* *


 もたげた首から流れ落ちるのは、ただ砂ばかり――。

「う……っげほっ、げほっ!」

 影にまとわりつくその砂の中から最初に現れたのは、頭だった。次いで背が、腕が現れ、よろけながら人の形に象られていく。

「っ……はぁ、はぁ……」

 ややあって、息を切らしながら漸く起き上がったその人影は、よたよたその場に座り込み、覚束ない動きで辺りを見回した。その喉からは、かすれた声が漏れている。

「……母、さん……?」

 ぼんやり周囲を廻った瞳が真っ先に捉えたのは、覚えのあるロープの切れ端で。それを一気に引っ張りながら、彼女は……トンマンは、叫んだ。

「兄さん、兄さん手伝って!」

 ところが、トンマンが手繰り寄せたロープは、何にも繋がっていなかった。そして、すぐ傍にいたはずの兄もまた、いくら呼んでも姿が見えなかった。いや、兄だけではない。あれほど執念深く彼女を追っていたチルスクも、影一つ見えない。どこまでも続く砂の中、トンマンは一人、その真ん中にいた。
 すでに脳裏には、先刻の砂嵐が蘇っている。砂の壁が逃げる間もなく迫ってきて、最後に兄が「トンマン!」と叫んだことまで、はっきり覚えている。
 つまり。つまり、きっと、近くに母も兄もいるはずなのだ。砂の果てまで行かずとも、声が届くところにいるはずなのだ。

「母さーん! 兄さぁーん!」

 潰れそうな喉から来る痛みにも気付かずに、トンマンは叫んだ。もしかしたら、まだ気絶していて、身体が半ば砂に埋まっているのかもしれない。母は特に、いくら嵐に遭ったとは言え、まだ砂から抜け出しきれていないのかもしれない。
 いくらでも可能性は思いつく。トンマンは不確かな足取りで砂を踏みしめながら、傾く陽にも目をくれずに前へ進んだ。

(二人とも、きっと、きっと生きてる……きっと!)

 急な逃避行と嵐に巻き込まれたことが祟ってか、トンマンの身体はすでに悲鳴を上げている。歩くだけでも、相当な気合いがいる。
 それでも、トンマンには歩かないと言う選択肢はなかった。母と兄がいないなら、自分自身がどれだけ健康でも意味がないのだ。とにかく、歩いて、歩いて、二人を捜すしかない。……もし、チルスクに出会ってしまったらどうするかと言った懸念は、少しも浮かばなかった。





 同じ頃、まるでトンマンの呼び掛けに応じるようにして、兄ピダムは瞼を上げた。

「――……つっ」

 しかし、彼はトンマンのように起き上がることは叶わなかった。脚に走った激痛に顔を歪め、再び瞼を閉じざるを得なかったのだ。

(くそっ……あの野郎のせいだ)

 呻くピダムが真っ先に思い出したのは、怪我の原因だった。気を失う直前に、チルスクと縺れ合い、わけのわからぬ内に足首を挟み込まれた。逃れようともがいているうちに激痛が走り、あとは彼もよく覚えてはいない。
 と、そこまで思い出したところで、ピダムは跳ね起きた。

「トンマン!? 母さん!?」

 ――そうだ、俺達、砂嵐に巻き込まれて……。
 母は、妹はどうしたのだろう。即座に立ち上がれないピダムは、背を伸ばして辺りを見た。けれど、彼の目の前には大きな砂山があるばかりで、見張らしは良くない。おまけに、右も左も緩やかな登り坂で、今のピダムでは到底進めそうにない。かろうじて、背後に小さなオアシスを見つけて、ピダムは唾を飲み込んだ。

(今の俺じゃ、トンマンも母さんも捜せない)

 それどころか、彼は今、見知らぬ窪地で一人きりだ。恐らく、嵐で吹き飛ばされ、砂山を転がり落ちたのだろうと言うことはわかるが、そんなことがわかっても、今は何の足しにもならない。一つだけ確実なことは、このままでは確実に木乃伊にあると言うことだけだ。

「……」

 次の瞬間には、ピダムは本能的にオアシスへと身体を向けていた。

(俺が生きているなら、トンマンも、きっと生きているはずだ……!)

 先に流砂に飲み込まれてしまった母のことは、残念ながらわからない。どちらかと言えば、死んだだろうと言う気がしている。だが、トンマンは。トンマンは、きっと生きているはずだ。いや、生きていないわけがない。絶対に生きている。そうに決まっている――。
 痛みを堪えながら、ピダムは前へと這うようにして進んだ。
 その道は、トンマンが生きていると思わなければ耐えられないであろうほどに辛く、遠く、険しかった。

(トンマン……頼む、トンマン、生きていてくれ……!)

 ピダムは、母ソファの死については、幾度も考えたことがあった。彼の知る限り、母はいつも病に苦しんでいたし、病は年々その体力を削っていったのだ。勿論トンマンにはそんなことは言わなかったが、別れがいつ訪れてもおかしくないと、物心ついた頃から己に言い聞かせてきた。
 ……と、そうは言っても、覚悟していたから大丈夫と言うわけではない。流砂に飲み込まれていく母の姿が瞼をちらつく度に、ピダムはさらに強くトンマンの無事な姿を希った。神がいるなら、どうかチルスクとトンマンを引き離していてくれと、頼ったことのない神にすら縋った。

「トンマ……ナ……」

 旅人を迷わせる砂の世界は、手負いの命を容赦なく奪い取る。オアシスに辿り着く前にまた気を失えば、次は目覚められるかどうかわからない。痛む身体を引き摺るピダムは、間違いなく、砂の下に沈んでいるであろう数多の骸に、最も近いところにいた。





 さて、トンマンとピダムが互いに砂の中で戦っている頃、兄妹の友人たるザズもまた、ぶつくさ言いながらその砂の山へと速足で向かおうとしていた。その横で、弟アルは心配顔だ。

「……」
「あんのバッカ野郎! 嵐にあの不死身オヤジなんて、死にに行くようなもんじゃねぇか」

 ざかざか歩くザズは、どうやらピダムと行き違いになってしまったらしいことに大層御冠だった。いや、正確には、ピダムが路銀を掻き集めてから町を出ると言うので、ならばと一端別れてあれやこれやの支度やら転がり込んできた雑事やらに追われるうちに、ピダムはさっさと砂漠へ行ってしまったのだ。いくら母と妹が心配だからとは言え、薄情なこと、この上ない。おまけに、駱駝達はいくら引っ張っても動かないとくれば、苛立っても無理はないのかもしれない。そう、アルは兄の心を慮った。
 しかし、まだ嵐が収まったかどうかもわからない砂漠に兄をむざむざやるのは、アルの信条に反する。と言うわけで、アルは幾度か兄に奇襲をかけたものの、珍しく兄は全てかわしていた。

「……」

 ――どうしよう?
 少ない表情の下でアルが困り果てた次の瞬間、前を歩くザズの足が刹那、止まった。

「あれ、ピダム達のところに泊まってたやつらだよな……?」
「……うん」

 振り返った兄に小さく頷くと、兄ザズは一目散に駆け出した。

「おーい、おーい! あんた達、どこ行くんだよ!?」

 ザズの話す言葉がわかる者は、商団の中でも半数ほどだ。その中でも、やはり特に言語に精通したカターンが、一番に振り返った。

「君は……」
「ザズ! な、どこへ行くんだ?」
「東の砂漠だよ。砂嵐ももう収まりそうだし、トンマン達を捜しに行こうと思ってね」

 チルスクを送り出した後、カターン達の意見は別れた。もはや宿もないのだから、早く出発しようと意気込む者と、砂嵐が来るようだし、それならソファ一家が戻るかもしれないからもう一日ここにいようと言う者が現れ、結局、カターンが「自分達も砂嵐に巻き込まれては一大事だ」と主張したことにより、一行は出立を見送ったのだ。
 そして、今は、荷を守る者を残して、カターンは商団の者を連れて街から出る頃合いを見計らっていたと言うわけである。

「ザズ、君もかい?」

 ザズの格好を見たカターンは、どうやら話すまでもなく彼の目的を察してくれたらしい。一人よりは二人、二人よりはもっとたくさんの人間で捜した方が人探しは早いことを知っているザズは、瞬時に大きく肯いた。



関連記事
スポンサーサイト
  1. 2012.08.17(金) _23:31:48
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
  3.  コメント:0
  4. [ edit ]

<<SS 理想の女人 | BLOG TOP | 8月14日までに頂いたコメントへの返信>>

comment


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。